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2023年7月3日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/260501
品川―大阪間を時速500キロ、1時間超で結ぶ予定のリニア中央新幹線。政府は東京と名古屋、大阪の3大都市間を高速輸送するリニア建設の旗振りをするが、東日本大震災の14年前に「原発震災」を警告した神戸大の石橋克彦名誉教授(地震学)は「待った」をかけている。18日に予定されるリニア工事認可取り消し訴訟判決の前に、懸念されるリスクについて考えてみた。(大杉はるか)
◆品川ー名古屋の86%が地下
北品川非常口(東京都品川区)のリニアトンネル掘削現場。JR東海は5月半ば、中断していた掘削を1年2カ月ぶりに再開した。
近くに住む無職男性(66)が「リニア? 自分が生きている間には乗れないと思うよ」と語れば、会社員の50代女性も「あまり現実味が感じられないですね」。一方、プログラマーの男性(24)は「いつか乗ってみたい」と期待する。
北品川の中断は、掘削機シールドマシンの故障が原因。2020年10月の東京外郭環状道路(外環道)建設で起きた調布市市道陥没事故と同様のマシンを使う工事だけに、JRは300メートル掘進した時点で、工事状況や影響について住民向けの説明会を開く予定だ。
リニアの特徴は、磁気浮上という技術面もさることながら、全長286キロ(品川—名古屋)の86%が地下を通過する点だ。品川と名古屋駅付近の計55キロは深さ40メートル以上、長さ25キロに及ぶ山梨—長野間の南アルプストンネルは最深1400メートルとなる。
◆「安全確保上の大きな利点」というが…
ルートの決定は11年5月だった。国土交通省交通政策審議会の中央新幹線小委員会が「路線延長が短くなり速達性に優れる結果、輸送需要が相対的に多く、建設費用が相対的に低くなる」と答申した。
決定の2カ月前に東日本大震災が起きたが、小委はリニアについて、JRの主張通り「地震時に電力が止まっても電磁誘導作用で軌道中心に車両が保持され、脱線を阻止できる構造」があるから「安全確保上の大きな利点がある」と認定。
「東日本大震災の経験を踏まえても、(東海道新幹線との)二重系化で災害リスクに備える重要性がさらに高まった」と強調した。ただ小委メンバーに地震の専門家はおらず、地震対策はほぼ議論されなかった。
「当時、答申を読んでひどい内容だと思った」。石橋氏はそう振り返る。
「3.11」直後は東日本大震災や福島原発事故の検証に忙殺されたが、14年ごろから地震によるリニアの危険性を指摘した。
かたや国交省は14年10月、工事実施計画(品川ー名古屋)を認可。16年には安倍晋三首相(当時)が全線開業を前倒しする方針を表明し、3兆円の財政投融資も実施された。
◆「地球上で一番危ない」建設場所
巨大地震による原発災害のリスクを訴えてきた石橋氏の目にはこう映った。
「国策民営で、御用学者が計画を審議し、環境破壊や事故の懸念を考えていない。リニアは原発建設の構図と重なる」
21年に「リニア新幹線と南海トラフ巨大地震」(集英社新書)を上梓じょうしした石橋氏は、リニア建設場所を「地球上で一番危ない」と訴える。南海トラフ巨大地震の直接的な影響を受けるほか、少なくとも6本の主要活断層を通過することを重く捉えるからだ。
沖合のプレート(岩盤)が西日本の下に沈み込むことで起きる南海トラフ巨大地震は最大想定でマグニチュード(M)9、リニアが通る甲府盆地や名古屋周辺で震度6強が想定される。同様の大規模な地震は1854年以来、約170年間発生がない。
◆震災が起きたら地下の乗客をすぐ救出できるのか
「仮にリニアが2030年に開業し、今世紀いっぱい走行しているとすれば、その間に南海トラフ地震はほぼ必ず発生する」と石橋氏は見立てる。一方、内陸の活断層による地震は「いつ起きるか全く分からない。明日起きてもおかしくない」。南海トラフ地震と連動の可能性もあるという。
小委の答申にもあるように、地下部分が多く、U字型の「ガイドウェイ」内を浮上走行するリニアは「地震に強い」とされている。
だが石橋氏は「平均的には地下の揺れは弱いが、地質条件次第ではそうとも言い切れない。巨大地震による応力(力のかかり具合)の変化で、高圧地下水が噴出することもあり得る」と疑問視する。
JRが強調する早期地震警報システムでリニアが減速すれば、磁力が弱まって接地走行となり、車両が激しい揺れを地面から直接受けることも指摘。車体がガイドウェイに接触し、最悪の場合は押し倒して脱線する可能性にも言及する。
石橋氏は「活断層地震のリニア直撃も恐ろしいが、広範に及ぶ南海トラフ地震では、路線全域で大小さまざまな被害やトラブルが生じるだろう」と予測する。
「全列車が緊急停止し乗客の避難が困難な地点が何カ所も生じるだろうが、どこも地元の震災対応で手いっぱいだ。その上にリニアの乗客救出救援も重なれば、困るのは地元自治体だ」
◆活断層地震は「かなり小さい確率」とJR
一方でJR担当者は、リニアの車体や駅を含む設備などは南海トラフ巨大地震にも耐えられる強度があると説明。活断層地震も「かなり小さい確率」とし、「震度7想定の走行試験をし、ガイドウェイの構造を強化している」と脱線リスクも否定する。避難についても「別の車両に乗り換えてもらい安全な駅まで誘導するのが基本。対応困難な場合に限り、最後の手段として歩いて避難することになる」と語り、「トンネルは強化しているので崩落の可能性はほぼない」と安全性を強調する。
ただ、リスク軽視の代償は福島原発事故で知らしめられたところだ。
大阪大の岸本充生あつお教授(リスク学)は「東日本大震災で『津波×原発』『津波×自動車社会』などの組み合わせによるリスクを初めて経験した。自然現象は繰り返されても、技術は新しくなるため、経験していない種類のリスクが起きることになる。日本では自然現象が原因で起こる産業事故の研究が進んでいるとはいえない」と解説する。
「南海トラフ地震は当然、視野に入るリスク。リニアは地震以外にも、地下水や残土などの環境影響もある。すべて並べて議論する場があっていい」
◆起こってから大慌て、起こるまでは見ないふり
では、リニアのリスク議論は十分されたのか。
リニアの沿線住民らが国の工事認可取り消しを求めた訴訟は18日に東京地裁で判決が出る。川村晃生原告団長は「われわれが訴訟で質問しても、JRは新しい情報を出さない。地震対策も何をやっているのかよく分からない。国会でも活発な議論がない」と嘆く。
だが政府はリニア推進に前のめりだ。岸田文雄首相は今年の年頭会見で「(リニア)全線開業に向け大きな一歩を踏み出す年にしたい」と意気込み、5月に示された新国土形成計画原案では「リニア開業で(3大都市間)の連携と相まって、国際競争力の強化を図る」と打ち出した。
石橋氏は「ポストコロナの『脱成長』志向の世界潮流の中でリニア推進は時代錯誤だ」と主張する。「アジア太平洋戦争のころから、走り出したら止まらないのが日本。原発事故も起こってから大慌てする。起こるまでは見ないようにしている」と述べ、こう続ける。「いったん工事を中止し、安全性や必要性、環境影響などを国民的議論によって改めて徹底検証すべきだ」
◆デスクメモ
原発事故でも避難は強く懸念される。豪雪で孤立。渋滞で足止め。福島では実際に逃げ遅れた人が出た。しかし国は軽んじる。避難計画が不十分でも原発稼働に向かう。同じ国策のリニア。甘さはないか。地下深くで取り残されるのは絶望そのもの。また「想定外」では済まされない。(榊)
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