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劣化する製造業が不正の泥沼から抜け出すための「矜持」とは
http://diamond.jp/articles/-/158121
2018.2.2 嶋矢志郎:ジャーナリスト ダイヤモンド・オンライン
不祥事の相次ぐ発覚で、日本の製造業が大きく揺れている。劣化する製造業が不正の泥沼から抜け出すためには、どんな矜持を持つことが必要だろうか(写真はイメージです)
不祥事の相次ぐ発覚で、日本の製造業が大きく揺れている。「ものづくり」の根幹である品質を蔑ろにした不正行為が、日産自動車をはじめ、スバル、神戸製鋼所、東レ子会社、三菱マテリアル子会社など、日本を代表する老舗名門企業で次々と発覚。検査不正やデータ改ざんなど、その多くが「不正」と知りながら組織ぐるみで、しかも長期にわたって隠蔽されてきた、いわば故意犯の不正である点が罪深く、救い難い。
これは、不正を不正と思わず、問題が表面化さえしなければ「何が悪い」と開き直る、罪悪感の欠如や順法精神の緩みが産業界に蔓延している証拠だ。日本と日本人の商道徳や倫理観が改めて問われている。
米ハーバード大のエズラ・ヴォーゲル博士が米国経済への教訓として著した著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が一世を風靡したのは1979年で、約40年前のことである。それ以来、日本のお家芸であるものづくりは世界の成長モデルとして注目を集め、日本製と言えば高品質の代名詞となった。それは国際社会における日本と日本人に対する信頼醸成にも大いに貢献してきたが、その矜持はどこへ消え失せたのか。日本のものづくりへの信頼が大きく失墜した今、信頼回復の道程は容易ではない。
「ものづくり」の根幹が揺れている
タカタが広げた日本製への不信感
そもそも、日産、神鋼、スバル、東レ、三菱マテといった一連の不祥事が発覚する以前に、「日本製は高品質」という定評に水を差し、国際市場で日本製への不信感を一気に拡散させたのが、タカタだった。同社は自動車向けシートベルトなどの安全部品で高い世界シェアを握りながら、欠陥エアバックの異常破裂で死亡事故まで引き起こした。昨年6月に東京地裁に民事再生法の適用を申請、最終的な負債総額は1兆円超の見通しで、製造業では戦後最大の経営破綻となった。
優良企業が経営破綻にまで追い込まれた原因は、ひとえにトップ層の優柔不断な経営姿勢にあり、タカタは不祥事対応につまずき失敗した典型である。自らの不祥事に対し、真摯かつ謙虚に対峙することなく、説明責任も十分に果たせないまま、世論に背を向け、自社の論理を優先し、拘泥しているうちに、打つ手のすべてが後手に回ってしまったためである。
エアバックの異常破裂が、米国で最初に確認されたのが2004年。08年に最初のリコール(回収・無償修理)を実施してから、すでに約10年。その間に米国で死亡事故が相次いでも、タカタのトップ層はなお「リコールの是非は完成車メーカーが判断するもの」という業界の原則論を主張して、逃げ腰を露呈した。
最後は、米運輸当局が態度を硬化させ、タカタに対して世界規模のリコールを命じ、16年に対象台数が1億台超に及ぶリコールを余儀なくされ、その後破綻した。
初動対応と危機管理体制のお粗末
不正が蔓延する3つの背景
タカタをはじめ、次々と不祥事が発覚した企業には、どんな問題が潜んでいたのだろうか。
不祥事が発覚した場合、まず求められるのは事実関係の正確な把握であり、迅速な公表である。事実関係を起点に、事後対応の道筋を立てるのが危機管理の基本だ。
今回の一連の不祥事において共通して見られたのが、基本的な初動対応でのつまずきである。いずれも老舗の名門企業でありながら、不正や不祥事が発覚した場合の危機管理体制が平素からいかに未整備だったか、いわば例外管理への備えがいかに不十分だったかを露呈している。
問題の1つは、不正の事実、実態の全容を直ちには正確に把握することができない一方で、不正の新事実が次々と連鎖して発覚したことからわかるように、不正が組織の内外でほぼ蔓延し、常態化していたであろうことだ。
2つには、不正などの後ろ向き(ネガティブ)な情報が経営トップに認識されていなかったであろうこと。そうした情報は、組織の末端を指揮する係長・課長・部長などの中間管理層の間でのみ共有されており、経営トップ層とのコミュニケーション・ギャップが大きい。現場の全容を把握している最高責任者が不在がちなのである。
3つには、企業と取引先との「馴れ合い」である。取引先との関係性で考えた場合の不正の温床は、人手不足をはじめ、コスト削減、納期の厳守など複雑多岐にわたる。なかでも、完成品メーカーの川上から川下に至るサプライチェーン(供給網)の縦系列の中で、下請けが重圧を感じながら、素材から部品への組み立て・加工を行うようなケースでは、馴れ合いが起きやすい。こうした商習慣の中では、取引先同士が長期にわたり、不正を最少限の必要悪として認め合い、見逃してきた面もあれば、相対で暗黙知として了解している面もある。
こうした構造を抱えた企業に対して、行政が単に法制度を厳格化して環境や体制を整備するだけでは、根本的な解決につながらない可能性が高い。企業に対して順法精神を醸成し、鼓舞することによって、彼ら自身に日本的な産業風土を根底から変革する気概を持たせないと、厳しいだろう。
老舗名門企業では
1980年代から不正が常態化
日産自動車は当初、国土交通省の立ち入り検査によって、主力の追浜工場(横須賀市)で不正が発覚。無資格の従業員が完成車の出荷前の最終検査を担当し、その車を出荷していたという法令違反を国内6工場で犯していたことを公表した。対象製品は38車種・約120万台で、その後にリコールの届けを出したとはいえ、1980年代から長期にわたって不正が常態化していたことを確認している。無資格検査はスバルなど、他の自動車メーカーでも80年代から常態化していた可能性がある。
神戸製鋼所は品質データ改ざんの事実を、1週間で3度にわたり公表、その都度会見した。発端は10月8日のアルミ・銅部材。11日には鉄粉・ターゲット材で、13日には同じ鉄鋼事業部門で4事案の不正があったことを公表した。品質データの改ざんは、2008年以前から常態化していた可能性があることも判明している。主因は、品質よりもコストを優先し、利益追求に偏った経営方針が製造現場を追い込み、社員が声を上げられない状態になっていた閉鎖的な組織風土にあったとしている。
品質データの改ざんはその後、東レの子会社である東レハイブリッドコード(THC、愛知県西尾市)をはじめ、三菱マテリアルの子会社である三菱伸銅、三菱電線工業の両社などで発覚。有識者委員会などによる報告書が公表された。
それによると、THCでは慢性的な人手不足などの構造要因はあったものの、不正を長期にわたり放置してきた経営陣の責任が指摘された。三菱系の両社では、改ざんを指南する書類の下で組織ぐるみの不正を長期にわたり続けていた実態が露わになった。
「なかったことで済ませたい」
消費者まで見据えない企業の論理
同報告書を受けて、経団連会長を輩出する東レはいち早くグループ全体の品質保証本部を新設し、コンプライアンス(法令順守)を徹底・強化する新方針を打ち出した。しかし、その東レも含め、ほとんどの企業が不正を第三者から指摘されて自社の実態把握に動き出したこと、不正に気づいていたとしても長期にわたってその公表を遅らせてきたことの背景には、紛れもなく「できればなかったことで済ませたい」という本音があったに違いない。
THCの報告書では「不正の公表を1年以上も控えていた」ことについて、東レは「民間企業間の問題であり、安全性や法令上の問題もない」ため、「判断は妥当」と受け止めている。東レ社長は記者会見で、「1年前に報告を受けたが、安全上の問題はないと判断して、公表するつもりもなかった」と、つい本音で答えている。
今や情報化社会の急進展により、不正や不祥事を知った第三者がSNSでつぶやき、掲示板に書き込むことによって、ネガティブな情報が否応なくネット上に晒され、間髪を入れずに地球を駆け巡る時代である。サプライチェーンの川上の素材メーカーだからと言って、「配慮すべきステークホルダー(利害関係者)の範囲は川下の取引先まで」と考える企業や経営者がいたら、大間違いだ。
また素材メーカーであっても、その素材が使われている川下の完成品を購入し、消費する不特定多数の最終消費者に対する安全・安心への配慮は不可欠だ。企業の社会的責任も、その領域は一昔前とは大違いである。これまでのステークホルダーは、限られた従業員や株主、取引先や地域から、せいぜい消費者までであった。しかし今では、広く世間一般から国際社会、人類や環境、生態系や自然、地球や宇宙へと、際限なく拡大している。
「企業はなぜ社会的責任を果たす義務があるのか」との問いに対し、「企業は社会の公器であるから」と最初に答えたのは、経営の神様と言われてきた松下幸之助(松下電器産業、現パナソニックの創業者)である。企業の持つ社会的な機能と役割は時代とともに肥大化し、いわば公器としての存在価値を高めてきている。企業の社会的責任がその領域を広げ、重みを増してきたのも当然の裡だ。
とりわけ、企業も社会があっての存在である。より高い評価を受け、理想的な信頼関係を構築したいのであれば、社会に対して裏表なく正直に説明責任を果たし、社会からより透明性の高い経営姿勢を問われて然るべきである。ましてや、この度の不正続発に連座した日本を代表する老舗名門企業であれば、なおさら率先垂範して然るべきだ。
内部通報をしやすい風土へ
関係省庁が躍起になる不正防止
とはいえ、現実はなかなか厳しい。今回不正が発覚した一部の大企業には襟を正す機会が与えられたが、それは氷山の一角であり、明るみに出ない不正が企業社会に蔓延しているであろうことは、想像に難くないからだ。それを最も危惧しているのが、行政指導の不行き届きと監督責任を問われる関係省庁である。彼らは不正の防止へ向けて、体制の整備、拡充、強化を急ぎ始めた。
消費者庁は、今回の一連の不正続発の発端が内部通報による発覚であっただけに、内部通報制度を強化して、不正を告発しやすい体制を整える。体制の充実で、不正に迅速に対処、まずは不正の放置を防ぐ狙いだ。
内部通報制度の拡充・強化には、3つの柱がある。1つは、内部通報者が嫌がらせなどの不利益を被らないよう、法律で守る対象を現在の従業員だけから役員や退職者などへ広げて、内部通報の活性化を図ることで、不正の放置を防ごうというもの。
2つは、内部通報の窓口機能の強化である。内部通報者は、通報内容のもみ消しを恐れ、通報先に行政機関や報道機関を選ぶが、行政機関では通報内容に応じて、どこで対処すべきか、たらい回しになりかねない。そこで、消費者庁が一元的に受け付けて、各省庁に振り分ける体制を整える。
3つは、法制度の改革と並行して、企業にも内部通報を受け付ける体制の整備を求めていく。まだ窓口のない企業には開設を求め、中小企業にも呼びかけて、義務化も検討していく。
また経済産業省は、不正防止の強化へ向けてJIS(工業標準化)法の見直し作業に着手した。今月召集の通常国会に同法の改正案を提出する。企業は品質を担保するため、製品にJISの認証マークをつけて、いわば国のお墨付きを得る。認証機関は品質を継続して担保するため、定期的に工場を審査するが、一定の基準を満たしていないと、認証を取り消す。悪質な企業には罰金か懲役を科すが、罰金を今の100倍の1億円に引き上げて、製造現場での品質データ改ざんなどの不正を未然に防止したいとしている。
公認会計士のチェック機能を強化して、顧客企業の違法行為の通報を義務化する動きも出てきた。会計士は公認会計士法などの定めによって、これまでも専門家として高い職業倫理を求められてきた。今回の相次ぐ不祥事を受けて、日本公認会計士協会の自主規制である規則改正で、顧客企業の違法行為を発見した場合は監督官庁などへ通報しなければならないなど、具体的な対応が義務付けられ、2019年4月からの施行となる。
社会の「公器」としての責任を
名門企業は自覚しているか?
これらの取り組みは、不正への歯止めとして一定の成果を出すかもしれない。
しかし、日本を代表する老舗名門企業のトップ層が行政機関の法制度の力を借りて、監視され、足枷をはめられなければ不正に歯止めをかけられないとしたら、実に情けない話ではないか。先人たちが築いてきた矜持にも泥を塗る倫理観の欠如である。
今回の不正報道を受け、日本企業は自らが「社会の公器」であることを、もう一度胸に刻みつけるべきではないか。
(ジャーナリスト 嶋矢志郎)
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