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不祥事を起こすモノ作り現場の「危険な兆候」はこれだ
http://diamond.jp/articles/-/157860
2018.2.1 加島禎二 ダイヤモンド・オンライン
写真はイメージです
2017年は、名だたるモノ作り企業の品質不正が相次いだ年だった。高品質の代名詞でもあった日本製品の信用をゆるがす事態と言っても大げさではないだろう。なぜ、このようなことが頻発するのか。製造業を中心とした大手企業の人材・組織開発のコンサルティングを手掛けるセルムの加島禎二氏が「不祥事を早期発見・予防する処方箋」を提案する。
日本の「モノ作り」の現場で何が起きている?
不祥事が起きた際、メディアなどでは「現場は真面目で優秀なのに、経営側が現場の状況を配慮せず、きついプレッシャーをかけて現場を追い詰めたせいだろう」という論調が多く見られる。だが、組織と人材開発に特化したコンサルタントとして数多くの企業現場を見てきた立場から言わせてもらえば、「そんな単純な捉え方では済まされない」というのが本音だ。
報道によれば、スタート時期は定かではないものの、長年にわたって「現場の論理」といわれるやり方が存在し、問題視されることなく継続されてきたという。それが、ある日突然、問題として明るみに出たというなら、特定の個人に起因する問題ではなく、企業の風土、あるいは仕組みの問題と捉えるのが適切ではないだろうか。
これは想像でしかないが、おそらく品質不正が始まった段階では、それなりの事情があったのだろう。同じことを続けるなかで「これはおかしい」と気づく人も機会もあったはずだ。
にもかかわらず、「ずっとこうやってきたし、今さら変えるのは面倒だ」「やり方を変える苦労に見合うメリットがない」、さらには「今さら問題を明るみに出すことや、やり方を変えることのリスクのほうが大きい」という論理が勝ってしまったのではないか。場合によっては、上司や先輩が長年やってきたことは「正しいかどうかを考える対象ではない」というメンタルになっていたのかもしれない。
勘違いしてほしくないが、筆者は、経営でなく現場が悪いと言っているのではない。問題の根底には、日本の企業にありがちな「ムラ社会の論理」がある。つまり、自分たちの(=職場の)人間関係や業務しか見ていない狭い世界では、社会全体の規範よりも、職場独自のやり方やルールが優先されてしまう。残念ながら、日本企業には、そんな環境を醸成しがちな傾向がある。ここに問題があると言いたいのだ。
「ムラ社会化」の危険な兆候
筆者は、企業の風土改革などのお手伝いをさせていただく機会も多い。その際、「組織風土の健全性にとって危険な兆候」と捉えている事象がある。その代表的なものを紹介したい。
〈取締役クラスに見られる兆候〉
◆自分の担当業務からの発言しかない
取締役同士のディスカッションの場でも、自分の担当組織の利益代表としての発言しかしない。一人ずつ順番に社長に向かっては発表をするのと、あまり変わりがない。
◆想いは語るが、意思決定はしない
会社全体のビジョンやミッションを語ってはいるが、自分や自分の担当組織が責任やミッションを負うような具体的な意思決定は避ける。
〈部長課長クラスに見られる兆候〉
◆上司には、とりあえず「よくわかりました」と言う
上司の発言に対しては何でも「よくわかりました」と答える。それは処世術かもしれないが、上司が何を言っているのかよくわからない場合もあり、そんな場合は確認しなければ仕事が進まないはずだが、そうしない。結局何も変えるつもりがないのか、そうでなければ「上司の話をわからない自分がおかしいのではないか」と考えるメンタルになっている可能性も高い。
◆「管理」的な仕事はするが、「困った問題を解決する」という役割を果たしていない
例えば、管理職である自分は、問題が起きたときに頭を下げるという役割を負っているだけで価値があると思い込んでいる。また、管理職である自分は周囲に指示を出す権利があると思い込み、自分が詳しくない分野や内容の仕事でも、指示や指導をすることが当然だと思っている。
〈風土や仕組みに見られる兆候〉
◆社内のおかしなルールに疑問を抱かない
明らかに「おかしな」社内習慣やルールが多い。例えば、来客や業者との打ち合わせを「社内会議を始める」という理由で打ち切らされる、「自社を辞めた人と関わってはいけない」など。ささいなことでも注意が必要。
◆職場が地域の人間関係の縮図のようになっている
これは都市部以外に見られる傾向だが、友人や知人、学生時代の先輩後輩、親戚などの縁故採用になり、ムラ社会がそのまま職場に持ち込まれたような構図になっている。異動がなく、社員たちも「ずっと同じ職場にいるのが当然であり、そうでないと困る」と考えている。
上記の兆候は、職場がムラ社会化し、不祥事の温床になりやすい傾向があることを示すものでもある。「どこの会社にもあることでは?」と受け流さないでほしい。不祥事は病気と同じで、早期発見、早期予防が重要だからだ。しかも、問題が起きてからの対応に比べて、予防のほうがコストもダメージも比べものにならないほど小さくて済む。
「仕組み」を変えれば会社が変わる
では、どうすれば不祥事を早期発見、早期予防ができるのか。
筆者は、不祥事の背景には、「ムラ社会の論理」がまかり通る会社の風土や仕組みに問題があると考えている。と同時に、ムラ社会化を加速させる遠因は、経営層の現場への関心が薄れているにあるとも思っている。これを変えることが筆者の考える処方箋であり、予防策だ。
ここで、こう考えるに至った理由を簡単に説明しておきたい。
米国の社会学者、エズラ・ヴォーゲル氏が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書いた頃、日本企業の研究をした欧米のビジネススクールでは、「日本企業の強さは“マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド”にある」と教えられていたと聞く。「マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド」とは、経営層が歩き回って現場の情報を把握し、現場に寄り添ってマネジメントするということ。日本でいう「三現主義」と同義だ。
ところが、その後、多くの日本企業が製造現場を海外に移管し、経営層が日常的に現場を歩き回ることは物理的に難しくなった。加えて、IoTなどの新技術や新素材、新エネルギー等の登場により、経営の焦点も新しいサービスや製品、ビジネスを作り出すことに移っている。当然、既存事業を行う安定した現場に対する関心は薄くならざるをえない。放置されているといってもいいだろう。結果として、既存事業を行う職場は狭い世界で固定化され、ムラ社会化を加速させる遠因となっているのだ。
つまり、問題の根源はビジネスの構造変化にある。とすれば、関係者へのコンプライアンス教育を行っただけでは、問題は解決しない。企業の「仕組み」の問題として、対処を考える必要があるだろう。「仕組み」を変えるといっても、大掛かりなものである必要はない。できることから、ただし、できるだけ早く始めることが大切だ。
経営トップはこうして「現場の声」を聞け
「仕組み」を変えるための、明日からできるアイディアをいくつか紹介したい。
◆中途入社の社員に職場の「おかしなところ」を聞く
中途社員を新たな仲間に迎え入れるとき、周囲は「早くこの会社のやり方に慣れてね」と声をかける。だが、中途社員は、外部の視点から社内を評価できる身内でもある。
そこで、入社半年後などに、「職場に慣れるまでに苦労したこと」や「おかしいと思う独自のルールや慣習」「わからなかった社内用語」「他社より合理的だと評価できる点」などをヒアリングする。もちろん、聞きっぱなしにせず、職場や経営陣と共有し、変えるべきことは変える。定型業務化すれば、「中途社員の○○さんが告げ口をした」的な捉え方をされずに済むだろう。
◆取引先に自社評価を聞く
一般的な傾向として、出入りの営業マンが「この会社は好きだな」と思う取引先は、いい会社である確率が高い。そこで、顧客企業や取引先企業から、自社の評価を聞く仕組みを作る方法も有効と考えられる。その際、自社の担当者を介さずにヒアリングを行うことがポイントだ。担当者が「自社の評価」ではなく、「自分への評価」と勘違いし、「良く言ってほしい」と頼む可能性もあるからだ。
弊社では過去に2回ほど、役員クラスが顧客企業へのインタビューを実施している。自社の課題や強みを再発見することにつながっただけでなく、役員クラス自身にとっても学ぶことの多い機会となった。
◆経営トップ直結のシニアメンターが「現場の声」を聞く
たいていの会社の組織は、各事業部門の責を負う上長の下に、複数のリーダークラスがいて、それぞれのリーダークラスの下にメンバーがつく構造になっている。各事業部には、それぞれの目的や目標があり、達成に向けて日々努力をしている。その中で、重要だが緊急性が高くない課題や、組織の(事業部間の)狭間にある問題に目を向けることは、構造的に無理だろう。だが、それこそが、実は現場の不祥事の原因である可能性も少なくない。
この処方箋として提案したいのが、現場の声を吸い上げ、解決策を講じる、経営トップ直属の人材を置くこと。最大のポイントは、誰がこの任に当たるかだ。
筆者は、現場での実績があり、それを周囲も認め、かつ人望のある人材が望ましいと考える。会社の全体像を把握している必要もあることから、過去に部門の責任者を経験した人が理想的だ。「この仕事で自分はどう評価されるのか」を気にしない人であることも大切だろう。ここから、定年間近で、しかも「退職前にもうひとつ、会社の役に立つことをしたい」と考えるメンタルを持つ人材がいい。こういった心持ちの人材は、実は結構多いのではないかと筆者は踏んでいる。
この任には、現場の最前線で活躍するメンバーやリーダークラスに寄り添い、声を集めて論理的に分析し、意味づけをすることが求められる。職場にとってのメンターのような役割であり、かつシニアであることから、「シニアメンター」と名づけたい。
必要に応じて、シニアメンターを中心にプロジェクトを立ち上げ、浮かび上がった問題に対応してもいいだろう。それをシニアメンターが定年延長する際のミッションにできたら、会社にとってもシニアメンター自身にとっても嬉しいことではないだろうか。
もちろん、企業風土は一朝一夕には変わらないし、変わることへの抵抗もあるだろう。新しい「仕組み」をきちんと機能させる努力も必要だ。だが、皆が変わる必要性を理解して取り組めば、「モノ作り日本」の誇りを取り戻し、皆がハッピーになれる未来があることは確かだ。
(セルム社長 加島禎二)
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