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トヨタは自動車業界「100年に1度の破壊と創造」を生き残れるか 『自動車会社が消える日』の衝撃
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54263
2018.01.28 梶山 三郎 現代ビジネス
2016年、巨大自動車会社の真実を描く小説『トヨトミの野望』で波紋を呼んだ、経済記者・覆面作家の梶山三郎氏。今回、「現代ビジネス」連載で産業界の最新動向を追い続ける、ジャーナリスト・井上久男氏の最新刊『自動車会社が消える日』を一読し、衝撃を受けたという。
本書が見通す、未来の自動車業界地図、そして日本勢の生き残りの可能性とはーー。
産業界の「王」の激変
2万点以上の部品で構成される自動車は、機械、鉄鋼、化学、電気・電子など、あらゆる分野の産業から資材を調達して組み立てられる。だから雇用を創出する力といい、国庫に納める税金の額といい、自動車産業の社会的な影響力は、他の製造業とは比べものにならない。製造業の「王様」といわれる所以である。
アメリカのトランプ大統領が昨年、トヨタを槍玉に挙げて日本の自動車メーカーに対米投資を迫ったのも、自動車産業が景気に与える影響が少なくないからだ。アップルやグーグルなどの巨大なIT産業が台頭するまで、自動車産業は、産業界の頂点に位置する存在だった。「自前で自動車を造ることができるようになって初めて先進国の仲間入り」とも言われた。
『自動車会社が消える日』は、「王様」の自動車産業に、EVや自動運転など、100年ぶりのパラダイムシフトが到来していることを、事例を積み上げて具体的にわたしたちに教えてくれる好著である。
「え⁉ 世界はここまで進んでいるのか」と冒頭から驚かされることばかりで、クルマ開発の最前線事情が紹介されるが、後半ではそれを踏まえて、トヨタやホンダ、日産、マツダ、VW(フォルクスワーゲン)といった個別企業の動向が鳥瞰図のように位置づけられる。
日本メーカーは蚊帳の外
本書のタイトルは過激だが、たとえトヨタのような巨大自動車企業でも時代の流れを見誤ると、変化の渦に呑みこまれて存在感が消え失せてしまうのではないかと問題提起したい気持ちもよくわかる。
なかでも米シリコンバレーに拠点を置く「ユダシティー」という企業の動向が興味深い。グーグルで自動運転を担当していた元役員が設立した会社で、オンラインを通じて人工知能(AI)やセンサーなどの最新技術を習得できるサービスを提供している。世界で約400万人の技術者が登録しており、学び直しに活用しているそうだ。技術革新が速く、知識が陳腐化していく時代に求められるサービスと言えるだろう。
ユダシティーは、教育を通じて「生産技術」と「クルマのプラットホーム」のデファクト・スタンダードを狙っていると、筆者は見る。愕然とさせられるのは、同社のパートナーとして、ドイツのダイムラーやボッシュ、画像処理のプロセッサーに強い米エヌビディア、米アマゾン、米フェイスブック、韓国のサムスンなど、錚錚たるグローバル企業が参画しているのに、トヨタなど日本企業は一社も入っていないことだ。
驚くのはまだまだ。ドイツの電装品の会社「ボッシュ」は、自動車に搭載されているソフトウエアを、ネット環境を通じて書き換えるサービスを2018年から始めるという。「新車購入後にも追加で新しいソフトウエアがダウンロードでき、スマートフォンと同じようなことが自動車でも体験できる」と担当者。「クルマのスマホ化」は、すでに始まっているのだ。
いまやクルマはソフトウエアの固まりである。その量はプログラムの「行数」で示されるのだが、ボーイングの最新旅客機が800万行だそうだが、高級車になると、1000万行を超えるソフトを搭載しているという。AIの技術が駆使される自動運転の時代になって、その動きは加速する。
新車開発の最先端では、宇宙開発などで用いられてきたシミュレーション技術(バーチャル・エンジニアリング)が不可欠になっているという。試作品を実際に作るのではなく、仮想現実の上で「つくった」試作品をあらゆる条件を入力して試すことで、工程数も開発日数もそしてコストも、驚異的に圧縮する開発手法である。
この画期的な技術で、日本はドイツに出遅れたと筆者は指摘する。これまで日本企業の「強み」だったものが、いまや「弱み」に逆転してるのだという。
日本は「開発セクション」の設計に不具合があっても、工場で何とか対応してしまう「現場力」が強く、日本の自動車メーカーの競争力の源泉の一つはそこにあった。いわば「匠の技」と言えるものだが、ドイツはこの「高い現場力」がなかった。だから開発セクションが「匠の技」に頼らない方法を編み出し、シミュレーション技術が長足の進歩を遂げる。
未来はすでに来ている
各メーカーの論評では、今のトヨタの経営陣に批判的なのが印象に残る。
わたしの小説『トヨトミの野望』では、莫大な広告スポンサーでもある巨大自動車企業の『トヨトミ自動車』を「忖度」して、トヨトミのマイナスになることを大メディアが報じないシーンを描いたが、本書では、ふだん全国紙や経済紙で読んだこともない、トヨタ内部で起きている「地殻変動」を目の当たりにする。
安全管理が厳しいはずのトヨタの本社地区に火災が発生して入社式が遅れたとか、最新鋭の工場が大火事になった原因がダクトの定期的な清掃を怠ったことだとか、豊田章男社長の意向を忖度したのか、かつて社長の「教育係」だった年長の相談役が副社長に返り咲くなど摩訶不思議な役員人事がおこなわれたり、意思決定が遅れていることなど、如実に語られている。
ネガティブな話ばかりではない。トヨタと提携したマツダの戦略の成功は、暗い話題が多い日本の産業界にあって、貴重なひとつの光明だ。10年ほど前まで経営危機に陥っていたマツダがなぜ、「スカイアクティブエンジン」を世に送り出すことができ、その後もヒット車を連発して復活できたのか、関係者たちへの綿密な取材によって、その「秘密」に迫っている。企業再生のケーススタディーとして読むことができるだろう。
『トヨトミの野望』は、日本の自動車企業が世界一になるまでの、企業内部で葛藤する人間模様を描くことで、その先にある未来を「予言」したフィクションだが、こちらは、100年に一度のパラダイムチェンジが起きている生々しい現場をとらえた、圧倒的なノンフィクションである。
本書は、未来がすでに到来していることを私たちに伝えてくれる。その未来が明るくなるのか、それとも暗いものになるのか、それは本書を読む読者の手に委ねられている。
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