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65歳まで雇用義務化で、他世代の賃金抑制…月給40万超えが50歳へ後ろ倒し
http://biz-journal.jp/2018/01/post_22128.html
2018.01.27 文=溝上憲文/労働ジャーナリスト Business Journal
今年の春闘では経団連が3%の賃上げを表明し、注目されている。また、人手不足もあって新卒の初任給を引き上げる企業も増えているが、その一方で中高年世代の給与が下がっている。
「賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)の一般労働者の「年齢階級による賃金カーブ」(所定内給与額、男性)の時系列の比較でも明らかになっている(労働政策研究・研修機構作成)。「勤続0年」の給与水準を100とした場合の1995年と2016年の年齢ごとの比較では、20代前半から上がり続けるが、35〜39歳から賃金カーブの乖離幅が大きくなる。40〜44歳になると1995年は200(2倍)に達し、さらに上昇し続けるが、2016年は45〜49歳になっても200を下回り、50〜54歳になってようやく200を超えるが、以降は下降していく。
22歳の大学卒の新卒初任給は約20万円であるが、95年は40歳を過ぎたあたりから40万円を超えて上昇するのに対し、2016年は50歳を超えないと40万円に達しないということだ。つまり40代以降の給与が以前より下がっているだけではなく、年齢を重ねるごとに給与が上がる“年功賃金神話”が崩れていることを意味する。
給与減少の背景には、多くの企業で社員の高齢化が進んでいるという事情もある。経団連の調査によると、団塊ジュニア層やバブル期の大量採用層を含む40代前半〜50代前半層が人員構成上で最も厚い年齢層となっている企業の割合が、6割に達している(経団連の16年5月17日付報告書「ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み」)。
40代以降の中高年世代の賃金減少はいくつかのシンクタンクも指摘している。では、どのようにして下げているのか。大和総研は40代労働者のうち「部長」「課長」の割合が低下していることに着目し、その理由をこう分析している。
「企業は40代雇用者の昇進を遅らせる、昇進できる人数を減らす、といった取り組みを行っている可能性がある。なお、40代には団塊ジュニア世代が含まれるため、人件費全体に占める割合も大きい。企業は、ボリュームゾーンを形成する雇用者の昇進を遅らせることで、人件費の削減を図っていると言えそうだ」(「194回日本経済予測」17年8月17日)
また、みずほ総合研究所は賃金の抑制は世代間の人件費シフトだと推測する。
「改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの雇用延長が義務化されたことも影響しているとみられる。すなわち、高齢者の人件費を捻出するため、企業がほかの世代の労働者の賃金ベースを緩やかにすることにより、全体の人件費増大を抑制したと考えられる」(「みずほリポート賃金はなぜ上がらないのか」<17年10月6日>)
大和総研は昇格・昇進を遅らせることで中高年の人件費を削減していると分析し、みずほ総研は高齢者の人件費を捻出するために他世代の人件費を抑制していると分析する。いずれにしても今の中高年世代にとって受難の時代といえる。
■役割給の導入
数多くの企業の賃金制度設計を手がけている人事コンサルタントもこう指摘する。
「昔に比べて40〜50代の賃金が確かに下がってきています。制度設計上、従来の賃金カーブを早期に立ち上げ、30代である程度の生活ができる賃金水準にする。それ以上は同じ仕事をしていたら基本的に上がらず、上がるには管理職になるか高度専門職になるしかない仕組みにしている企業が増えています」
賃金制度の変革による賃金引き下げだけではない。企業のなかには賃金制度そのものをいじらずに意図的に引き下げている企業もある。
「年功的な賃金制度を導入している企業のなかには一定年齢になると評価に関係なく、2ランク降格させて給与を2割程度下げるところもあります。給料が50万円なら40万円になる。表向きは『仕事が変わりました』『役職を降りました』ということになっていますが、実際に本人に聞いたら部下の面倒を見るなど以前と同じ仕事をしている。そういうケースは結構あります」(前出コンサルタント)
賃金制度の改革で主流となっているのが「職務・役割給」制度の導入だ。この制度は欧米企業の「職務給」に比較的近いものだ。簡単にいえば、従来の給与制度が本人の能力や過去の実績など「人」を基準に決定していたのに対し、役割給は今就いている「仕事」を基準に賃金を決定する。つまり、人を基準にすると、どうしても年功的になるが、役割給は年齢に関係なく役割(ポスト)で給与が決定し、ポストが変われば給与も変わり、当然ながら降格・減給が発生するという仕組みだ。
企業にとっては年功で自然に上がる仕組みと異なり、人件費管理が容易になり、結果として下げることも可能になる。15年以降、ソニー、日立製作所、パナソニックなどの大手企業は年功要素を排除したこの制度を導入している。
役割給の導入には社員や労働組合の抵抗が強いため、経営不振など会社の危機的状況や合併を機に導入されることが多い。実際に合併を機に導入した大手IT企業の人事部長はこう語る。
「今では同じ45歳でもポストによって年収1000万円を超えている人もいれば、400万円台の平社員も珍しくありません。また、降格・減給も発生します。部長職の年収は大体1500万円ですが、ワンランク降格すると月給で10万円も減ります。賞与を含めた年収で200万円も下がります。同期の年収を詳しく集計はしていませんが、45歳の部長もいれば、課長や係長も結構いる。係長だと約600万円だから部長との年収差は900万円にもなります」
40代といえば子供を抱える世帯も多く、年収400万円では生活も苦しいだろう。春闘で3%の賃上げが実現したとしても焼け石に水である。こうした低年収の名ばかり“大企業正社員”がじわじわと増えているのだ。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)
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