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首都圏不動産「バブルの正体」が分かった マンションの投資利回りを計算すると…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54211
2018.01.24 加谷 珪一 現代ビジネス
首都圏を中心に不動産価格が高騰している。一部からは、すでにバブル状態となっており、オリンピック特需の消滅をきっかけに、暴落する可能性があるとの指摘も出ている。
都内の不動産価格が高騰しているのは事実だが、局所的な価格動向だけを見てバブルかどうかを判断するのは拙速である。不動産市場について俯瞰的に眺めた場合、楽観視はできないものの、必ずしもバブルとは言えない状況が浮かび上がってくる。
マンションは3割上昇したが…
不動産経済研究所の調べによると、2017年の首都圏における新築マンション平均価格は5908万円となっており、5年前との比較で約30%値上がりした。東京23区の値上がり率はさらに大きく34%に達している。中古物件も同様で、首都圏全体では約29%、東京23区では36%上昇した(東京カンテイ調べ、2017年11月時点)。
国税庁が発表した2017年の路線価によると、銀座5丁目の「鳩居堂」前の価格は1坪あたり1億3300万円だが、この金額は、バブル直後につけた高値である1億2000万円を上回っている。都内の不動産が高騰しているのは事実であり、これに加えて「バブル超え」などと聞くと、不動産市場が活況を呈しているように思えてしまう。
だが実際には、すべての不動産が一律に上がっているわけではない。中古マンションの価格調査はあくまで売却希望価格がベースであり、実際にいくらで売買が成立したのかまでは分からない。また一部の人気物件が価格を引き上げている可能性があり、人気のない物件はあまり値上がりしていないというのが現実である。
実際、都内でも、5年前との比較で希望価格が10%程度しか上がっていない物件も見られる。バブル時代のように何でも上がるという状況にはなっていない。
不動産の価格は場所による違いが大きいため、局所的な価格推移だけを見てしまうと全体の動向を見誤る可能性がある。不動産は金融商品でもあるため、株式や債券など他の金融商品との関連性にも目を向ける必要がある。
現在の不動産市場がバブルなのを判断するためには、まず、日本全体の不動産市場がどのように推移してきたのかについて知っておく必要があるだろう。
現在は「国債バブル」
バブルというのは情緒的かつ曖昧な言葉で、明確な定義があるわけではないが、一般的には適性水準を超えて価格が形成されている状態のことを指している。バブルは一種の金融現象なので、発生時には他のセクターから過剰な資金が集まることになる。逆にいえば、資産セクター間の資金移動を見れば、バブルの状況を把握できる。
図1のグラフは、日本における株式、債券、土地の総残高が、GDP(国内総生産)に対してどう推移したのかを示したものである。数字は残高の絶対値ではなく対GDP比なので、経済規模に対してどの資産セクターが過剰に資金を集めているのか直感的に理解できるはずだ。
グラフを見ると、バブル経済の時代には株式と土地のGDP比が極めて大きくなっていることが分かる。80年代バブルを象徴するキーワードは「不動産」と「株式」だが、数字の上でもそれは一目瞭然だ。資金が集まって価格が高騰し、価格が上がるのでさらに資金が集まるというまさにバブルの典型パターンである。
株式についてはバブル崩壊後、10年近く不振が続いたが、2000年のネットバブル、2008年のリーマンショック前バブルなど小さな価格高騰が観察される。2013年からはアベノミクス相場が始まっており、資金の集まり具合はリーマンショック前の状況を超えている。見方によっては現在の株式市場は加熱しているとの解釈があり得るかもしれない。
これに対して不動産は一貫して下落が続いており、このセクターにはほとんど資金が集まっていないことが分かる。マクロ的に見るとバブルどころか資産としての価値を失いつつあるといってよいほどの状況だ。
一方で、異様なまでの伸びを示しているのが債券である。これはいうまでもなく日本政府の財政悪化によって大量の国債が発行されたことが原因であり、現在、日本にあるマネーの大半は国債に流れ込んでいる。
日銀が量的緩和策を導入したことで、価格が高騰した国債をさらに高値で買い上がっているという事情はあるものの、客観的に見れば、現在の債券市場は相当なバブル相場である。
債券価格が今後も継続的に上昇すること(つまり金利は低いままで、デフレ傾向が続くこと)について誰も疑いを持っていないという点においても、まさにバブルの要件を満たす。価格の上昇を誰も疑わなくなった時がバブルの頂点であるというのは多くの人が認識しているはずだ。
港区や千代田区で子供が急増
少し皮肉めいた話をしたが、筆者がここで論じたいのは国債バブルの話ではなく、マクロ的に見て不動産価格はほぼ下がり切った状況にある、という現実だ。株価がこれほどの復活を遂げているにもかかわらず不動産価格がボロボロなのは、日本の人口動態を反映しているからである。
今後、日本は本格的な人口減少時代に突入し、多くの住宅やオフィスが余剰となる。不動産価格の不振はこうした状況を織り込んだ結果と解釈するのが自然だろう。首都圏における価格高騰はこうした中で発生した現象であり、もしそうなら、今後の価格動向を決めるのは首都圏の人口動態ということになる。
人口が減るということは、同じ人口分布のままで人の数だけが減ることを意味していない。人は経済活動を行って生活しているので、一定数以上の人がいないと経済圏を維持することができない。このため人口が減ってくると、より便利な場所に向かって人が移動することになり、人口動態が大きく変わってしまうのだ。
具体的には地方から東京への人口シフトを促すことになり、人が増える東京では引き続き不動産需要が継続することになる。この動きは「東京」対「地方」という図式にとどまらない。
地方の中でも「地方中核都市」と「その他の地域」、東京の中でも「23区」と「郊外」、さらには23区の中でも「都心」と「その他の地域」といった具体に、一種のフラクタルのような形状になっている可能性が高い。
例えば、東京都内でも郊外といわれるエリアと都心エリアでは人口動態が大きく異なっている。東京は地方から人が移動しているので、すべての区で人口が増えているが、過去5年間を見ると、もっとも増加率が高いのは中央区(24.4%)千代田区(23.2%)、港区(19.6%)で、世田谷区(同6.2%)や練馬区(同4.1%)を大きく引き離している。
また15歳以下の人口増加に至っては千代田区、中央区、港区のいわゆる都心3区は圧倒的で、多くの子育て世代が都心に流入していることが分かる。
つまり日本全体としては人口減少が進んでおり、それを反映して不動産価格は下落の一途だが、東京だけは別格で、人口が増え続けている。都心3区や都心に近い台東区や江東区では2ケタ台の人口増加が継続しており、この状況をベースにすると、マンション価格が3割値上がりしたという話もあながち不自然とはいえない。
おそらく地方中核都市でも同じ現象が発生しているはずだ。利便性を重視して、郊外から中心部に移り住む人が増え、全体として不動産価格は下落しているものの、中心部の物件だけは値上がりしている可能性が高い。
価格下落は限定的か
首都圏の不動産価格高騰が、こうした局所的な人口動態に関係しているのだとすると、問題は、この人口増加がいつまで続くのかということである。
図2は国立社会保障・人口問題研究所が実施した日本全体の将来人口予測と東京都が行った人口予測を重ね合わせたものである。これによると日本全体の人口はすでに減少が進んでおり、今後、その勢いが加速することになる。だが東京の人口は、地方から人を吸い寄せることで2025年までは増加が続くと予想されている。
だが日本全体の人口が減っている以上、やがては地方から移動する人もいなくなってしまうので、東京も2025年を境に人口減少に転じることになる。2025年以降の状況を市場が織り込み始めた場合、東京の不動産価格も頭打ちになるか、場合によっては下落に転じることになるだろう。
もっとも現在の東京の不動産価格は実需によるものだけでなく、外国人投資家などによる投機目的のものも含まれる。こうした物件は市況が悪化するサインが出ると即座に売りに転じるので、一部の物件は急激な値下がりがあるかもしれない。
だが、グラフからも分かるように、東京の人口減少ペースは他の地域に比べると圧倒的に緩やかである。しっかりとしたテナント需要が存在する物件であれば、仮に市況が総崩れになっても、それなりの価格を維持できる可能性が高い。
不動産情報サイト「ライフルホームズ」の賃料情報をもとに算定した、2018年1月時点における東京23区のファミリー向け物件の単純平均家賃(2LDKクラス)は18万6000円だった。東京カンテイが調査した2017年11月時点における東京23区の中古マンション(ファミリー向け)平均価格は、70平方メートル換算で5332万円である。
これらのデータを使って単純にマンションの投資利回りを計算すると4.2%になる。同一条件での比較ではなく、しかも固定資産税や各種経費などを考慮しないグロスの概算値だが参考にはなる。グロスで4%台というのは、収益物件としては厳しい水準だが、バブルというほどではない。
首都圏の不動産価格が今後下落することがあっても、壊滅的な状況にはならないと筆者は考えている。
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