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ヤマト運輸をきっかけに、「値上げ競争の時代」が来る
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11665
2018年1月22日 塚崎公義 (久留米大学商学部教授) WEDGE Infinity
ヤマト運輸が値上げに踏み切る前には、懸念が2つあったはずです。自社が値上げしてもライバルが値上げせず、客をライバルに奪われてしまう可能性と、ライバルが追随値上げをした時に業界全体の仕事量が激減して業界全体が苦しくなる可能性です。しかし、どちらも杞憂であったようです。
■一社が値上げすると他社も値上げし、荷物量は減らない見込み
ヤマト運輸が値上げをしたのは、労働力不足で「背に腹は代えられない」と考えたからです。自社だけが苦しい時には、値上げをするとライバルに客を奪われますが、「ライバルも似たような状況ならば、ライバルも追随値上げをする可能性が高い」と考えたのでしょう。そして、その読みは当たりました。
ライバルの日本郵便は、値上げのタイミングが少し遅れて今年の3月を予定しているため、年末には荷物が他社から流れ込み、配達が間に合わないなどのトラブルもあったと報じられています。つまり、ライバルとしては「ヤマト運輸から客を奪おう」という状況ではなく、「追随値上げをしなければ荷物が流れ込んで来てしまうから、値上げをする必要がある」という状態なわけです。
しかも、値上げによっても業界全体の荷物量はあまり減らない見込みなのです。ヤマト運輸の12月の宅配便荷物量が前年比6%減だったと伝えられています。10月の値上げ幅は個人向けが15%、法人向けはそれ以上でしたから、値上げ幅の割に荷物の減り方が小さかったわけです。しかも、日本郵便の値上げは3月に予定されていますから、3月には日本郵便に流れていた荷物が戻って来て、前年比の減り方はさらに縮小するかもしれません。
これは、業界全体が15%以上の値上げをしても、業界全体の荷物量は微減にとどまり、業界全体としての利益が大幅に増える、ということを強く示唆しています。実際、ヤマト運輸はすでに増益を発表しており、日本郵便が値上げをした後には更に大幅な増益になるでしょう。各社が同程度の値上げ幅であれば、各社ともに大幅増益になるかもしれません。これは素晴らしいことです。
■ヤマト運輸にとっては、再値上げのインセンティブが大
ヤマト運輸としては、自分が値上げをしたらライバルも値上げをし、業界全体が値上げをしたのに業界全体の荷物量が減らず、各社の利益が増えたわけですから、再値上げを検討するインセンティブは大でしょう。再度値上げをしても似たようなことが起きるのであれば、値上げをしない理由は無いからです。
今後も労働力不足が深刻化して行けば、もしかすると各社が「値上げで荷物が少しくらい減っても構わない」という考え方ではなく、「荷物を減らすために値上げをしよう」と考え始めるかもしれません。「ライバルより先に、かつ大幅に値上げをして、荷物をライバルに押し付けよう」というわけです。
そしてその結果が、ライバルも値上げして各社の荷物量が減らないとすれば、さらなる値上げが必要となり・・・、という「値上げ競争」が始まるかもしれません。
■値上げの利益は従業員へ還元を
宅配便各社が値上げで得た利益は、株主への配当ではなく、従業員に還元して欲しいものです。厳しい労働環境で苦労している現場に報いるためです。それが結果としては株主の利益にもつながります。
まず、省力化投資で現場の負担を軽減しましょう。省力化投資で労働時間が減れば人件費の削減になります。今後も労働力不足で人件費が上昇していくことを考えると、多少割高に見えても思い切って投資をする合理性があるかもしれません。
それから、社員の待遇を改善しましょう。賃金を引き上げて、他業界から労働力を奪い取ってくるのです。それにより、労働者一人当たりの労働量を減らすことができるでしょう。
従業員の負担軽減は、社員の募集にも役立つでしょう。「キツイ仕事だから」と敬遠されることが無くなるからです。
■他業界でも同様のことが起きるかも
宅配便業界が値上げで得た利益で賃上げをし、他業界から労働力を奪ってくると、今度は他業界の労働力不足が一層深刻化します。そうなると、他業界でも同様のことが起きるかもしれません。
労働力不足が深刻化した業界は、賃上げをせざるを得ず、その分だけ売値を引き上げざるを得なくなる、というわけです。もしかすると、「値上げをして客をライバルに押し付けないと、客が捌き切れない」といった「値上げ競争」が他業界でも広がるかもしれませんね。
問題は、賃上げ競争がどうなるか、ということです。各社が労働力不足を賃上げで補おうと考えた時、何が起きるのでしょうか。これを考える際には、「自社だけが賃上げをした場合と全社が賃上げをした場合で影響が大きく異なる」ことに注意する必要があります。自社だけが賃上げをすれば、比較的容易に他社から労働力が奪って来られるでしょうが、他社も賃上げをした場合には、そうは行きません。
問題は、「今の賃金なら働きたくないが、賃金が上がるなら働いても良い」と考えている潜在的労働者が多くなさそうだ、ということです。各社が一斉に賃上げをしても、働く労働者の数が増えなければ、各社の労働力不足は解消しません。
「時給が上がると働く時間が減る人」の存在にも注意が必要です。「年収の壁」を意識して働く専業主婦のパートや、生活費を稼ぐための学生アルバイトなどは、時給が上がると労働時間が短くなって、かえって世の中の労働力不足を加速してしまう可能性さえもあるわけです。価格が上がると供給が減るとしたら、皮肉なことですね。
「働き方改革」の本格化と時期が重なると、これも労働力不足を加速しかねません。各社が「残業が少ない我が社へ来てね」という残業削減競争を繰り広げると、日本経済全体としての労働力不足は深刻化するからです。
そうなると、各社が省力化投資に注力することはもちろんですが、それだけでは足りないかもしれません。そうなると、ますます「値上げ競争」が現実的になってきます。
消費者としては、値上げ競争は嬉しくありませんが、恵まれないワーキング・プア(正社員を希望しながらも非正規労働者として生計を立てていて、長時間働いているのに収入が低い人)の生活がマトモになり、ブラック企業が(社員が転職先を見つけて辞めて行くため)存続できなくなる、ということは望ましいことなので、高い見地からこうした動きを歓迎しましょう。
P.S.
今年は「値上げ競争の時代」が流行語になるような予感がしていますが、どうなりますことか(笑)。
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