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精神障害者雇用の特例処置は差別である
http://biz-journal.jp/2018/01/post_22021.html
2018.01.18 文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事 Business Journal
厚生労働省は12月22日、企業が精神障害者を雇用しやすくする特例措置を来年4月から設けることを決めました。
障害者雇用促進法によると、従業員のうち一定割合以上の身体障がい者や知的障害者の雇用を事業主に義務づける法定雇用率は現在2.0%です。2018年4月からは改正障害者雇用促進法が施行され2.2%に引き上げられます。そして、身体障害者と知的障害者に加え精神障害者の雇用も義務化されます。
現行は、週30時間以上働く障がい者は1人、週20時間以上30時間未満働く障害者は0.5人に換算して算出します。今回の特例処置の内容は5年間の時限措置ですが、精神障害者に限り、週20時間以上30時間未満の労働でも雇用開始から3年以内か精神障害者保健福祉手帳を取得して3年以内の人は1人と数えることが可能になります。
その背景にあるのは、身体障害者や知的障害者に比べ、精神障がい者は短時間労働でないと仕事が長続きしない人が少なくない、職場に定着しにくいという認識(厚生省幹部談)かと思われます。
私は、年間1000人の働く人たちと産業医面談を行っており、そのなかで障害者雇用された従業員との面談も年間50件ほどしています。その経験から、今回の決定に反対はしないものの、なんとも言えないもの(疑問?)を感じざるをえません。その理由を3つお話しさせていただきます。
■特例は全障害者雇用に適応すべき
まず1つめとして、今回の精神障害者への特例は、身体障害者や知的障害者への差別でもあり、全障害者雇用に適応すべきだと思うからです。
労働契約法第5条には、「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」として明記されています。これは安全配慮義務として、従業員の持つ病気に関係なく、従業員が安全安心に働くことができる職場環境をつくることを意味します。
障害と病気の定義や違いについて言及することは(本稿では)避けますが、安全配慮義務は少なくとも、精神障害者と身体障害者や知的障害者を分けるものではないと思います。どうして、精神障害者だけが、短時間の労働でも1人分としてカウントされ企業が雇用しやすくされるべきなのでしょうか。
今年私が産業医面談した26歳のAさんは、学生時代の交通事故で下半身不随になり車椅子生活をしています。ほかの従業員たちと同じように働いていますが、毎週仕事のない土曜日にリハビリに通っています。リハビリを行うことで今すぐ下半身が動くわけではありませんが、下半身にも刺激を与えることで神経や筋肉の萎縮(劣化)を防ぎ、いずれ将来的に医学が進歩し、再び両足で歩くことができる機会が訪れたときに、すぐにそれを受けられるようにありたいと、夢を語る姿が印象に残っています。
彼は本当は週に2〜3回リハビリに通いたいようですが、現状、仕事との両立でそれはできていません。このように、障害のリハビリに参加したいが時間的制約のためできていない障害者はたくさんいます。このような人たちにも、今回の短時間勤務でも1人分の雇用とカウントされる特例が認められるのであれば、彼らの雇用継続にも結びつくと信じます。
■やる気の維持こそが必要
2つめの理由は、障害者は千差万別だからです。
私の産業医先はほとんどがホワイトカラー職務です。たまたま私のクライアントには知的障害者はいないため、面談はすべて身体障害者か精神障害者となりますが、障害者雇用の従業員は年に1〜2回の産業医面談を定例として設けることを企業にはお願いしています。その面談を通じて感じることは、一概に障害者雇用といっても、その従業員の障害の種類、程度、そして“やる気”は千差万別だということです。
車椅子の人に高さ調整しやすい机を用意する、視覚が不自由な人のために音声化ソフトを用意する、聴覚が不自由な人のために大きな会議では手話サービスを用意する、障害者トイレの設置等、このようなことは安全配慮のうちであり、企業にとっては障害者社員への特別扱いではないと私は考えます。
一方、どの程度の仕事を任せられるかは、一概に他人の半分量しかできないと最初から決めることのできないものです。実際の仕事内容により、量やプレッシャー、期限の有無などは本当にさまざまです。実際に長く雇用が継続している障がい者においては、しばらく働くなかで産業医-人事-部門の上司たちとのたび重なる話し合いや調整により、各障がい者社員にとって“適度”なところに落ち着いたものです。最初から決めうちではありません。各自の適度適量は千差万別なのです。
前述のような身体障害者へのリハビリ同様に、精神障害者にも、定期的な集団または個別のカウンセリングやコーチング等によるやる気の維持こそが、勤務時間を減らすことよりも必要なのかもしれないと考えます。
■障害者の雇用継続の原動力
3つめの理由は、雇用の継続は障害者でもそうでなくても、その個人のやる気と個人への総合的評価によるものだからです。障害者社員の前向きなやる気、企業側からの社員へのポジティブな評価、この2つが揃って、チーム(会社)としての継続的なサポートの歯車は回り続けます。それこそが、障害者の雇用継続の原動力だと私は考えます。
最近、クライアント企業のある部署が閉鎖されることになりました。その部署に勤める障害者雇用の男性は、部署の閉鎖が社内にアナウンスされると同時に、複数の他部署から異動の依頼があったそうです。これは彼の普段の仕事ぶりが評価されての雇用の継続なのです。
また、他社において私が30代の身体障がいを持つ女性との面談の中でいただいたコメントを紹介します。
「私はこの会社には、学生時代に受けていたような“特別扱い”がないことが一番気に入っています。ほかの社員と同じように評価やフィードバックを受け、仕事がきついときもあります。車椅子用に自動ドアやトイレがあることには感謝しています。しかし、社内にいると、みんな普通に接してくれます。学生時代のように自分が障害者であることを自覚しません。それが一番気に入っています」
このような環境で働く彼女の仕事のやる気は、誰でも容易に想像できると思います。
今回の特例処置が施行されれば、企業にとっては1人分の障害者雇用ポイントを稼ぎやすくなりますから、確かに精神障害者への雇用のハードルは下がるでしょう。しかし、これが本当に精神障害者雇用の継続に結びつくかは別の問題だと思います。
産業医としては、勤務時間内に、定期的なリハビリ(身体機能訓練等)、通院、心理療法(カウンセリングやコーチング)、そのほかにも特別研修などのプログラムに積極的に通ってもらう。その時間や場合によっては費用も提供することを推奨推進してくれるような特例を期待したいと思います。
(文=武神健之/医師、一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事)
【引用】
12月24日付朝日新聞デジタル記事『精神障害者、雇いやすくする特例措置 厚労省、来春から』
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