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分譲マンション、所有者不明物件が急増…管理費等を徴収できず建物全体が劣化
http://biz-journal.jp/2018/01/post_21974.html
2018.01.12 文=鷲尾香一/ジャーナリスト Business Journal
一般財団法人国土計画協会が主催する、増田寛也元総務相ら民間有識者をメンバーとした「所有者不明土地問題研究会」が昨年12月13日、最終報告を取りまとめた。同研究会では、所有者台帳(不動産登記簿等)により所有者がただちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地を「所有者不明土地」と定義。国土交通省の地籍調査をベースに、2016年時点の所有者不明土地を推計した結果、その面積は約410万ha(ヘクタール)に及び、九州全体の土地面積である約367万haを超えるという驚くべき試算結果が発表された。
具体的には、国土交通省が実施した2016年度の地籍調査では、563市区町村の62万2608筆で登記簿上の所有者の所在が不明な土地は20.1%だった。これを総人口、65歳以上死亡者数との相関関係を用いて拡大推計すると全国の所有者不明率は20.3%で、所有者不明土地面積は約410万haとなった。
さらに同報告書では以下の将来推計も行った。
(1)人口減少・少子高齢化が進み、40年には全国896の市区町村が「消滅可能性都市」に該当する
(2)13年現在、全国で820万戸の空き家が存在しており、今後、世帯数の減少等により、20年後の33年には、空き家が2150万戸まで急増
(3)土地の相続候補者へのアンケート調査の結果で、20〜40年に発生する土地相続のうち、約27〜29%が未登記になる可能性がある
(4)高齢化の影響も伴い、死亡者数は160万人を超える
以上より、20年から40年に発生する所有者不明土地面積は約310万haに相当すると試算している。これと16年時点の約410万haを合わせた約720万haというのは、北海道全体の土地面積である約780万haに匹敵する。かつてのバブル経済時代にあった「不動産神話」を記憶している世代には、これほど土地が無価値化するとは相当な衝撃だろう。
同研究会では、所有者不明土地が引き起こす経済損失に関する推計も行っており、16年の損失額は約1800億円、17〜40年の累積損失額は6兆円規模に及ぶとしている。
さらに、問題は所有者不明土地にとどまらない。都内の不動産デベロッパー関係者は、「所有者不明の物件は、分譲マンションでも増加している」という。土地の場合には、過疎地や農地、山林などの資産価値が低く、相続の煩雑さやコスト、相続後の管理を考えた場合、相続を放棄するケースが増加している。また、都市部の住宅でも、土地面積が狭く、活用が難しかったり再建築が不可能なケースでは、相続を放棄するケースが増えているという。
■マンションの所有者不明物件
深刻なのは、分譲マンションで所有者不明物件が増加していることだ。
「土地と同様に相続人にとって利用価値が低く、建物の老朽化によって資産価値が低下しているマンションなどで、所有者不明物件が急増している」(同)
国土交通省が16年にマンションの管理組合に対して行った調査「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」では、回答数639件のうち87件(13.6%)で「連絡先不通または所在不明者」の存在する物件があるとの回答が寄せられた。
この連絡先不通・所在不明者物件のあるマンションの内訳を見ると、築10年未満で0.9%、20年未満で2.0%、30年未満で3.3%、40年未満で3.3%、40年以上で3.9%と、高経年になるほど所有者不明等の発生する割合が高くなっている。「土地家屋の場合には、人が住んでいないことが比較的わかりやすいが、マンションの場合、近所付き合いも希薄なため、居住者がいなくとも気付かないケースも多い」という。こうなると、管理費や修繕積立金等が徴収できなくなり、未収金が増加したり、資金が不足して管理が疎かになることで、建物の劣化が進んだりする可能性が出てくる。
そして、さらに問題なのは、マンションの老朽化に伴う建替え決議といった重要な決議ができなくなる可能性があることだ。国土交通省の「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」でも、「所在不明者により、今後困難になると危惧されること」として「今後は、一定数の所在不明者を抱えた状態により、建替え決議等の成立が困難になることが危惧される」との回答が71.4%に上った。
つまり、所有者不明の部屋が増加することにより、管理費や修繕積立金等が足りなくなる、あるいは埋め合わせのために支払金額が増加する。管理が適切に行われないために建物が劣化し、資産価値が下がる。建替えを行うにも、建替え決議ができないため、建物の劣化・老朽化が進む――、という最悪の事態になる可能性があるということだ。
■難しい物件の処分
“最後の切り札”は、所有者不明の部屋の処分だ。実は管理組合は、所有者不明となった場合には「不在者財産管理制度」、相続が放棄された場合には「相続財産管理制度」という制度により、物件を処分する権限を持っている。
ただし、問題がないわけではない。不在者財産管理制度にしても、相続財産管理制度にしても、所有者不明の部屋を処分するためには、家庭裁判所に申し立てを行わなければならない。その際には、予納金を入れなければならないのだ。金額的には100万円程度ですむが、この資金をどのように調達するのか。また、分譲マンションの部屋といっても、所有権を放棄するぐらいだから、当然資産価値が低い可能性がある。その部屋が満足な値段で売却できるのか、といった懸念もある。
もちろん、ある程度の価格で処分できれば、それは予納金に充当したり、未納となっていた管理費や修繕積立金等に充当することができるが、“取らぬ狸の皮算用”にならないかが心配だ。
このように、所有者不明の土地や物件が増加してくると、住宅選びの際にも物件そのものだけではなく、その地域の住人やマンションの住人の状況も把握しておく必要がある。そうしないと、せっかくの高額な買い物もどんどん資産価値が下がってしまう。それでも、“一国一城の主”になるか、賃貸に住み続けるのかは、あなた次第だ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)
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