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楽天、携帯電話参入は「終わりの始まり」か…無謀な6千億円投資&一から基地局整備
http://biz-journal.jp/2018/01/post_21939.html
2018.01.10 文=編集部 Business Journal
楽天・三木谷浩史会長兼社長(つのだよしお/アフロ)
楽天は通信規格「4G」の周波数帯の取得を総務省に申請する。2017年12月14日付日本経済新聞によると、「10年後をメドに1500万(10%)以上の契約件数を目指す」としている。
「周波数帯の認可が下りれば、新規事業者への周波数帯の割り当てはイー・アクセス(現ソフトバンクグループ)以来、13年ぶりとなる。(略)年明けにも携帯電話事業の新会社を設立し、電波の割り当てを申請する。基地局の整備などに数千億円の投資が必要になるため、サービス開始時に2000億円、2025年までに最大6000億円を借り入れる」(同紙より)
17年12月14日の東京株式市場で、楽天の株価は大幅に下落した。携帯電話事業者の新規参入に対する投資負担の大きさを投資家は警戒。一時、前日比56円(5%)安の1084円と、約8カ月半ぶりの安値をつけた。終値は1084.5円(55.5円安)。15日も一時、7%安の1011円と年初来の安値を更新。2日間で11.3%安を記録した。
マッコリー証券は目標株価を1635円から1165円に大幅に引き下げた。株価4ケタ(1000円)を維持できるのかどうかの瀬戸際である。
大発会(1月4日)は日経平均株価が741円強上げ2万3506円と26年ぶりの高値でスタートしたが、楽天の株価は一時、8円安の1024円。終値は1032円(0.5円安)だった。
楽天の携帯電話事業への参入は、「終わりの始まりになる」のではないかと予想する向きもある。楽天は自前の回線を整備するのに基地局を含めて6000億円の設備投資が必要だとしているが、実際、この金額では何もできない。さらに言えば、基地局などを維持するのに毎年どのくらいかかるのか、三木谷浩史会長兼社長は試算しているのか疑わしいと指摘する声も上がっている。
NTTドコモやKDDIは既存の通信事業者が母体。ソフトバンクはボーダフォンの日本法人を1.7兆円超で買収し、一気に設備と顧客を手に入れた。楽天が本当に一から自前の回線をつくるとすれば、どのような手段を用いるのだろうか。
■携帯電話事業参入はハイリスクか
「日本のケータイの市場規模を考えると、4社体制は厳しい。新たに一から基地局を立てるのは大変なことだ」という外資系証券会社のアナリストの指摘を待つまでもなく、無謀とも思える挑戦なのだ。
もし、携帯電話事業に失敗したら、三木谷氏は楽天の持ち株を手放し、オーナーの座を降りることもあり得る。妻の三木谷晴子氏(第3位の大株主)の持ち株すらもどうなるかわからない。
金融筋によると、「銀行からの借り入れなどファイナンス業務はゴールドマン・サックスが担うとの見方がある」という。楽天のメインバンクであるみずほ銀行はソフトバンクに巨額の融資を行っており、ソフトバンクと一蓮托生の関係だ。孫氏の意向を“忖度”して、楽天の融資団には加わらないのではないかと推測するアナリストもいる。
永田町では、三木谷氏が安倍晋三首相の周辺に「携帯電話事業へ本格参入」の意向を伝えているとの情報が広まっている。本当であれば、「非公式の支援要請」をしたということか。
新しくつくる会社の出資には、ソニーの平井一夫社長、パソナグループの南部靖之社長、サイバーエージェントの藤田晋社長、GMOインターネットの熊谷正寿会長兼社長などが前向きで興味を示していると伝わってきている。三木谷氏が主宰する新経済連盟のメンバーにも出資を呼びかけることになるだろう。首相官邸に話を通しているのであれば、安倍首相の“お友達”の新興企業の経営者が資金を出す可能性もある。
菅義偉官房長官は17年12月14日の記者会見で、楽天の携帯電話事業参入に関して、「公平で公正な競争を通じ、利用者にプラスになるような料金、サービスを実現することを期待したい」と述べた。
新経連は、代表理事が三木谷氏で、副代表理事が藤田氏だ。幹事で興味を示しそうなのは増田宗昭・カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)社長兼CEOぐらいとみられている。林野宏クレディセゾン社長、野本弘文・東京急行電鉄社長は、第4の携帯電話会社のリスクは大きすぎるとして協力には消極的なようだ。
ソニーは17年12月7日、スマートウォッチを発売した。スマートフォンとスマートウォッチをひとつの電話番号で使えるようにするためには、通信会社の協力が絶対に必要だ。ソニーが楽天の携帯電話会社に出資する素地は十分にある。
GMOはスタートアップ企業に投資、新規上場させてリターンを得るビジネスだが、楽天の電話会社に出資してリターンを得る手段はあるのだろうか。第4の携帯電話会社を上場させる方針を示せば出資する可能性も出てくるかもしれないが、否定的な見解も多い。金融筋によると、ファンドも事業会社も楽天の電話会社への出資には腰が引けているのが実情だという。
■大手3社の厚い壁
携帯電話市場は、NTTドコモ(シェア40.8%)、KDDI(au、同28.3%)、ソフトバンク(22.2%)の3社で90%以上のシェアを握る寡占状態である。楽天は果たして10%(1500万件)の契約を獲得できるのであろうか。そのための方策として、低価格路線が思いつくが、料金を低くしユーザーの求めるサービスを提供する通信インフラ会社になるのは容易ではない。
そもそも楽天が、通信インフラ事業という、地道で地味なビジネスに興味があるという話は最近まで聞こえてこなかった。
楽天の山田善久副社長は12月14日のアナリスト向け会見で、利用者獲得について「約1500万人のクレジットカード会員を抱えるなど、(楽天には)ブランド力がある」と語った。しかし、楽天カードは誰でも簡単に会員になれる。実行可能なサービスとしては、楽天会員が蓄積したポイントで電話料金を払えるようにすることぐらいだろう。大手キャリア(通信電話会社)も顧客の囲い込みを急いでおり、楽天は乗り換えを促すような超安値を提示するしかない。だが、そうすれば一層、赤字が膨らむことになる。
最終的に楽天がつくる携帯電話会社は、ソフトバンクグループの10兆円ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に買い取られるといった未来図を描くことができるかもしれない。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク3社とも楽天参入の報道で株価は下落したが、楽天の「終わりの始まり」という、窮極の局面は、まだ楽天の株価に織り込まれていない。4ケタ(1000円台)の株価の維持は難しいとの声が増えている。NTTドコモの牙城は崩せないとみられているからだ。
クレディ・スイス証券は、楽天のキャリア参入、サービス開始当初の2020年に200億〜300億円程度の営業赤字になる可能性があると、12月14日付リポートで指摘した。株式市場ではネガティブな見方が横溢している。
楽天の6000億円の設備投資というのは東京、大阪、名古屋(福岡、札幌が入るのかは不明)だけを自前の回線にして、残りの地域はNTTドコモなどから借りることを想定しての金額と分析するアナリストもいる。だが、他社の回線を借りるコストが収益を大きく圧迫することになる。
第4の携帯電話会社というのは茨の道なのである。「楽天が参入しても、NTTドコモの厚い壁に跳ね返されるだけだ」との冷めた見方をするアナリストばかりだ。
12月17日付日本経済新聞の社説は、『楽天の新規参入を機に携帯市場の活性化を』とのタイトルで総務省に、新規参入者を支援するように注文をつけた。
日経ヴェリタス(日本経済新聞社/12月17日号)も、「楽天の主力はネット通販と金融事業だ。携帯電話事業をネット通販などに顧客を引き込む材料と見なせば、『携帯単独の損益が赤字でも問題はない』との見方もある」としている。
楽天は12月14日のアナリスト向け説明会で「電波を取得できるかどうかわからない」として、携帯電話事業の詳しい説明をしなかった。総務省が新たな周波数を割り当てるのは18年3月。「デキレース」(通信大手の総務省担当者)との見方を否定するためなのか。はたまた、本当に事業内容が詰まっていないのか。詳細な事業計画が示されるまで、投資家の不安は消えない。
■EC事業の揺らぎが携帯電話事業参入の要因か
日本貿易振興機構(JETRO)によると、ECの国内シェアでアマゾン・ドット・コムが20.2%で首位に立った。楽天は僅差(20.1%)で2位。このショックは大きかった。
電子商取引の顧客の減少は金融事業の先細りにつながる。そうなるとECを核に多様なサービスを展開する楽天経済圏全体が危なくなる。携帯事業参入は、“アマゾンエフェクト”と断じたアナリストもいる。
第4の電話会社はECの顧客を楽天グループに引き留めるための賭けとの見方が強い。三木谷氏は記者会見せず、ツイッターで「楽天会員は9000万人を超えて、(携帯電話事業への)参入は自然の流れ」とつぶやいただけだ。
第4の携帯電話事業会社は、地方では引き続きNTTドコモの回線を借りる片肺飛行である。NTTドコモとも、楽天は自前の回線を持つ都市部では敵同士になる。KDDI、ソフトバンクが楽天潰しに乗り出すのは目に見えている。
18年1月4日、三木谷氏は「技術が進歩し、機器も安くなっている。後発のメリットは大きい」と東京都内で記者団に語った。「(19年中を予定する)サービス開始時に(楽天グループ全体で)300万人超の会員でスタートできる」との見通しを明らかにした。だが、10年後に10%(1500万人)の契約を目指すにしては、ロケットの発射台(300万人)はかなり低いと言わざるを得ない。
17年12月に“第4の携帯電話会社”構想を明らかにしてから、次々と厳しい現実が明らかになっていることと、この日の三木谷氏の発言は無縁ではない。
楽天の株価が1月5日に一時、988円(前日比44円安)の昨年来安値をつけた。終値は1013.5円(18.5円安)で1000円台を回復したが戻りは鈍い。野村證券は「Buy(買い)」から「ニュートラル(中立)」に格下げした。携帯電話事業への参入で事業環境の不透明さが高まったと判断した。
(文=編集部)
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