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旅行会社、「無用の長物」化で存亡の危機…中小企業の突然死ラッシュ、業界全体で利益半減
http://biz-journal.jp/2018/01/post_21929.html
2018.01.08 構成=長井雄一朗/ライター Business Journal
てるみくらぶの山田千賀子社長(写真:読売新聞/アフロ)
3月に格安旅行会社のてるみくらぶが倒産し、同社社長の山田千賀子容疑者らが融資金詐取の疑いで逮捕、起訴される事態となっている。また、11月20日には「ARCツアー」のブランド名でツアー旅行などを手掛けるアバンティリゾートクラブ(以下、アバンティ)が東京地方裁判所から破産開始決定を受けた。
今、旅行業界に何が起きているのか。旅行代理店のビジネスモデルは、もはや限界なのか。東京商工リサーチ情報本部情報部の増田和史課長に話を聞いた。
■利益が半減…旅行業界を襲う危機的状況
――17年はてるみくらぶの倒産が社会問題化し、11月にはアバンティも破産しました。なぜ今、旅行会社の倒産が相次いでいるのでしょうか。
増田和史氏(以下、増田) 旅行業界が低迷している理由にはさまざまありますが、旅行スタイルの変化が大きいと思います。今は、飛行機や宿泊などの手配をすべて自前で行う「セルフブッキング」が一般的になっています。このスタイルでは旅行代理店を通さないので、各社とも利益確保が難しくなっているのです。
特に航空券などは自前で購入する人が増えた上、LCC(格安航空会社)はネット販売のみです。セルフブッキングがさらに普及することで、旅行業界は厳しい局面が続くと思います。
――旅行業界の苦しい状況は、数字にも表れていますか。
増田 大手を含む旅行業1700社の16年度の売上高は約2兆6241億円で、前年度から約609億円減少しました。また、利益は約156億円で前年度から約131億円(45.6%)減少しています。国内旅行だけでなく、高収益が見込めるヨーロッパ方面などの海外旅行も落ち込んだことで、利益がおよそ半減しました。
売上高100億円以上の34社の売上高合計は約1兆9518億円で、業界全体の74.3%を占めています。大手による寡占化が進む一方で、売上高5億円未満の中小・零細企業の事業者数は全体の8割以上を占めています。
――売り上げ、利益ともに短期間で大幅に減少しているという事実は、危機的な状況を表していますね。
増田 やはり、「セルフブッキングのスタイルが短期間で普及したため」と分析しています。旅行代理店を必要としないスタイルが、業界全体の業績悪化につながっています。もうひとつは、団体客の減少です。また、それらを補完するビジネスモデルは今のところありません。
■危ない旅行会社を見極める方法
――てるみくらぶ、アバンティの倒産劇について、あらためて分析をお願いします。
増田 てるみくらぶの商法は、航空会社や大手旅行代理店が販売しきれなかった航空券を安く仕入れてパッケージツアーに組み込み、格安でネット販売するというものでした。しかし、航空会社が小型機の導入を進めたことで余剰チケットが品薄になると、この商法は通用しなくなりました。そこで、旅行客から前受けでお金をもらい、それを手元資金として使う前受け金ビジネスに手を染めたのです。
てるみくらぶと比べて小規模のアバンティの場合は、売り上げの低迷と、それによる資金繰りの悪化が背景にありました。
――倒産の予兆などはあったのでしょうか。
増田 東京商工リサーチでは、客観的に信用力を示す指標のひとつとして「リスクスコア」をユーザーに提供しています。1〜100までの100段階で信用力を表し、1がもっとも高リスクです。
てるみくらぶは、16年9月の時点からリスクスコア1になっていました。アバンティも低迷が続いており、ユーザーからの問い合わせが頻繁にありました。それを受けて調査したところ倒産が明らかになったのですが、同様のケースは多いです。
――一般の消費者からすると、危ない旅行会社を見極める方法が知りたいところです。
増田 あくまで一般論ですが、売り上げや利益などの情報公開に積極的でない旅行会社はおすすめしません。ただ、非上場の場合、消費者は決算内容がわからないので、ひとつは「大手の旅行会社が無難」ということになります。
また、他社と比較して異常に安かったり現金入金を急がせたりする旅行会社も気をつけたほうがいいでしょう。今は、旅行業界全体が利用客からの前受け金を原資に航空会社にお金を振り込み、それで初めてチケットがもらえるシステムになっています。そのため、前受け金という商慣習自体は仕方ない面もありますが、消費者から得たお金を本当に航空会社に払っているのかが問題です。
――そうすると、「第2、第3のてるみくらぶ」が出てくる可能性もあるのではないでしょうか。
増田 今後も、いきなり業務を停止する旅行会社は生まれるかもしれません。
――大手がすぐに倒産するということはないかもしれませんが、売り上げも利益も大幅に減少しているなか、今後の旅行代理店ビジネスはどうなるのでしょうか。
増田 実は、大手の法人客もだいぶ減少しています。たとえば、出張をテレビ会議で代用したり宿泊せずに日帰りしたりするケースが増えているからです。また、最近はコスト削減の事情もあり、大人数で研修所に行って研修を受けるようなケースも少なくなりました。テレビ電話による会議も一般的になり、企業のコスト削減はかなり進んでいます。そのため、利幅については大手に限らず旅行業界全体的に厳しいですね。
■毎年100社以上が消滅している旅行業界
――旅行業界の休廃業・解散、倒産などの状況について教えてください。
増田 16年度の休廃業・解散は前年度より11社多い80社で、倒産件数27社の3倍に達して高止まり状態です。休廃業・解散と倒産を合計すると107社となり、13年度以降は毎年100社以上が姿を消しています。17年も天候不良や海外テロなど旅行客のマインドに大きな影響を及ぼす事象が相次ぎ、中小・零細の旅行会社は受難の時期を迎えています。
また、売上高1億円未満の377社のうち87社が赤字で、4社に1社の割合となっています。こうした旅行会社は企業の専属下請けのケースが多く、各種手配を行っていましたが、そこでも利益が見込めなくなっています。今後も休廃業・解散は増えていくと思います。
また、金融機関も財務体質が悪い会社には休廃業・解散を提案するケースが増えていくと予測しています。異業種からのM&A(企業の合併・買収)もあるかもしれません。中小・零細企業の一部はネット専業でブローカー的なビジネスを行っていますが、利益確保は難しい面もあります。
――有効な打開策はあるのでしょうか。
増田 現時点で考えられるのは、シニア層の取り込みぐらいではないでしょうか。また、インバウンド(訪日外国人)の取り込みを考えている会社もありますが、訪日外国人にもセルフブッキングが普及しているため、同様に厳しい状況です。
■夜逃げ状態…禍根を残すアバンティの倒産劇
――アバンティの倒産について、特徴などはありますか。
増田 従業員20名のアバンティは売り上げ15億〜18億円で、中堅の旅行会社です。
10月12日にオフィスに「営業停止」の貼り紙が貼られたのですが、「今後のお問い合わせ先」として日本旅行業協会(JATA)の連絡先が記されているだけでした。その前日に私が調査に入っており、社員からは「社長と連絡が取れない」「資金繰り的には、かなり厳しい」といった話を聞いていました。
また、同社に旅行商品の販売を委託している旅行会社は「委託販売分については持ち出しのかたちで催行するしかない」と話しており、丸投げされたJATAは「なんの連絡もなく困惑している」とコメントしました。
てるみくらぶとの共通点として、顧客が多いこと、非常に不誠実な幕引きであったことが挙げられます。最終的には破産処理になりましたが、関係者にほとんど連絡がなく、従業員も社長とは10月10日から連絡が取れない状況が続いていたそうです。観光庁の担当者も「こちらからコンタクトを取ろうとしても連絡がつかない。夜逃げ状態だ」と話していました。
このような事例が続くと、「中小の旅行会社はリスクが高い」というイメージが広がり、他社への風評被害、さらには業界全体の地盤沈下につながりかねません。
いずれにしても、てるみくらぶと同様に「旅行客無視」の姿勢が見られるなど、業界全体に禍根を残す倒産劇だったと思います。企業が倒産するときは少なからずバタバタするものですが、アバンティは観光庁登録の第1種旅行業者でもあり、いかがなものかと思います。
――なぜ、会社としての“引き際”をきれいに飾れないのでしょうか。
増田 難しい問題です。倒産間際は、常に資金繰りのことを考え、融資を受けるために直前まで金融機関と協議するのでしょう。しかし、どうにもならなくなって未払い金の請求がきて倒産してしまうというケースが多いです。後始末をする時間もないでしょうから、きれいに終わる倒産はめずらしいといえます。そもそも、未払い金などをきっちり精算して幕引きする場合は、「倒産」より「休廃業・解散」のケースを選択しますから。
今、企業倒産の件数はバブル期並みの低い水準で推移しています。そのため、倒産するのはよほど経営が行き詰まった企業ということになり、必然的に引き際が不誠実になることが多いです。
(構成=長井雄一朗/ライター)
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