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森永卓郎氏 利ザヤを稼ぐ金融業はいまや賭博業になっている
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180107-00000003-moneypost-bus_all
週刊ポスト2018年1月12・19日号
森永卓郎氏が注目のマネー本を紹介
【書評】『完全無欠の賭け 科学がギャンブルを征服する』/アダム・クチャルスキー・著柴田裕之・訳/草思社/1800円+税
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
ギャンブルに必勝法があることに私が気づいたのは、2015年に大阪地裁が、はずれ馬券を経費として認めた事件のときだった。判決は、統計的手法を駆使して営利目的で馬券を購入、利益を出していたと認定したのだ。
競馬のてら銭は約25%、それを上回る利益を経常的に出すことが本当にできるのかと私は驚いたが、具体的な手口の報道がなかったため、私の思考はそこで停止していた。本書には、具体的な解説がある。競馬の科学的予測の取り組みは、すでに1970年代から始まっていたのだ。その基本は重回帰分析だ。
重回帰分析というのは、馬の平均速度や枠順といったものが、どの程度レース結果に影響を与えるのかを過去のデータから定量的に分析する手法だ。そこで得られた影響度を、出走する馬の条件に当てはめて、レースを予測するのだ。35年前に、私が日本経済研究センターで経済予測をしていたときに日常的に使っていた手法だ。ただ、経済が予測できるなら、競馬も予測できるはずだということに、当時の私は気付かなかった。
科学的に予測できるのは、競馬だけではない。ブラックジャックやサッカー、さらにブックメーカーが提供する賭けも含めて、すべての賭けには、科学的対処法があるという。そして、本書の一番興味深いのは、必勝法の理論を用いて、実際の賭けに挑み、巨万の富を得たギャンブラーたちの物語が豊富に紹介されていることだ。
しかも、科学的賭博は、経済全体に広がりつつある。いま金融機関は、市場の歪みを利用して利ザヤを稼ぐ「裁定取引」を日常的に行なっているが、本書を読むと、それがもともとギャンブラーの発想から生まれたものだったことが分かる。
すべてとは言わないが、いまや金融業は、賭博業に変質しているのだ。その是非はともかく、胴元からカネを奪い取ろうとするギャンブラーと、それを防ごうとする胴元の戦いは、新鮮で、非常に面白い。純粋文系にはやや難解かもしれないが、ギャンブル好き、理系の人には、絶対のおススメだ。
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