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のぞみ重大インシデントの元凶は「世界に誇る定時運行」だ
http://diamond.jp/articles/-/153820
2017.12.21 窪田順生:ノンフィクションライター ダイヤモンド・オンライン
14センチもの亀裂を見逃したまま運転し、大惨事の危険すらあった「のぞみ」の重大インシデント。なぜ安全が軽視されてしまったのか。その元凶は、新幹線が世界に誇る「定時運行」にあるのではないだろうか。(ノンフィクションライター 窪田順生)
世界に誇る新幹線のはずが…
意外と安全確認は適当だった!?
「運行技術やダイヤの正確さは世界一」――多くの日本人がそう誇り、その期待に応え続けてきた新幹線。しかし、その「定時運行」への過度なこだわりこそが、今回の重大インシデントの元凶となったのではないだろうか
「脱線などに至ったかもしれない」――。19日、JR西日本本社で吉江則彦副社長が口にした言葉は衝撃だった。
小倉発、東京行きの新幹線「のぞみ34号」の台車に14センチの亀裂が入っていた「重大インシデント」。JR西日本は、あと3センチ亀裂が進んでいれば完全に車両は破断していたと明かしたのである。
「のぞみ」の最高速度は300キロ。このスピードでの「脱線」が、どれほどの惨劇を招くのか、想像しただけでも身震いしてしまう。ただ、恐ろしいのはそれだけではない。
「のぞみ34号」に乗車していた現場責任者らは、かなり早い段階から「異変」を把握していた。にもかかわらず、3時間も走り続け、そのまま「異常なし」とJR東海に引き継ぎされていたのだ。
まず、小倉駅を発車した時点で、「パーサーおよび客室乗務員より『焦げたようなにおいがする』との申告」があったと、当初から「異変」を確認している。次に、福山から岡山の間を走行している際には、後に亀裂が見つかった13号車車内の乗客から「車内にモヤがかかっている」という申告があった。
そこで、岡山駅で車両保守点検担当社員が添乗して確認したところ、「うなり音」を確認した。保守点検担当者は、停車駅での点検をすべきだと提案をしたが、東京にある新幹線総合指令所は「走行に支障するような音ではない」として、そのまま走り続けて名古屋でようやく発覚したというわけだ。
「日本の技術力と勤勉さの象徴」なんて言われ、なにかにつけて「世界一」を謳う新幹線が、実は意外と軽いノリで安全確認がなされていた、という驚愕の事実もさることながら、一般利用者からすれば、「こんな調子なら他の新幹線でも同じことが起きるんじゃないの?」という不安が、当然頭をよぎる。
重大インシデントの真犯人は
「定時運行」へのこだわりか
JR西日本の広報に聞いたところ、新幹線の運行中に不審な音などがした場合も、安全性を総合的に判断して、停車や点検をするというマニュアルは、しっかりと整備されているという。ならば、なぜ「のぞみ34号」は「異変」を把握しながら走り続けたのか。
「においもずっとしていたわけではなかったようですし、保守点検担当社員が、点検をどれほど強く提案したのかという細かい状況も分かっていません。これらも含めて現在、運輸安全委員会が調査をしています」(JR西日本広報)
入念に調査をすれば、「14センチの亀裂」がなぜ生じ、なぜ異変が放置されていたのかという詳細な状況は明らかになるだろう。しかし個人的には、このような事態を引き起こした「真犯人」にはたどり着けないのではないか、と危惧している。
その「真犯人」とは「定時運行」である。
運行中の新幹線で原因不明の「異変」が発生した。我々素人の感覚では、約1000人の乗客の命を運んでいるんだから、原因が明らかになるまで停車して点検をするのは当然でしょ、となるが、実際に鉄道運行に関わる人たちは、「その通り」と言いながらも、内心では「おいおい、軽く言ってくれんなよ!」と憤るはずだ。
東海道新幹線は今年8月には過去最多となる1日433本を走らせた。1列車平均遅延時間は2013年度で54秒。11年度にいたっては、なんと36秒だという。これほど多くの電車を、これほど正確に走らせるという超過密ダイヤを実現していることが、日本の新幹線が「世界一」と言われる所以でもあるわけだが、一方で超過密ダイヤゆえ、わずか1本でも停車して点検しますとか言いだしたら、その遅れはドミノのように全体の乱れにつながる。
日本人にとって、電車は時間通りに
来ることが「当たり前」
そんなこといっても、命には代えられないだろうという声が聞こえそうだ。まったくもって正論である。ただ、その正論がなかなか通じないという厳しい現実もある。
みなさんも身に覚えがあるだろうが、日本人は電車が時間通りに来るのが当たり前だと思っている。だから、「出張族」も新幹線の発着時間に合わせて仕事のスケジュールを組む。新幹線のダイヤが乱れると、「おかげで大事な商談に間に合わなかっただろ!」なんて激しいクレームの嵐が寄せられるのだ。
「定時運行」はやって当然という状況のなかで、「原因が分からないんですけど、うなり音がするんで点検しますね」という現場の申し出に対して、意思決定者がスムーズにゴーサインを出せるだろうか。
出せるわけがない、と筆者は思う。
もちろん、決して安全を軽視しているわけではないだろう。ただ、もし点検をして何ともなかったら、意思決定者は確たる根拠もないのに、新幹線ダイヤを狂わせて、ウン十万人に影響を与えたことの責任を追及されてしまう。そういう組織人としてのリスクに鑑みれば、「停車して異変の原因を探すべし」と判断する材料より、「運行を続けられる」という判断ができる材料の方ばかりに無意識に目が向いてしまうのは人の性だ。
こういう組織力学は「危機」の現場でよくみられる。たとえば、冷凍食品への農薬混入事件があったアクリフーズでは、消費者から「異臭がする」というクレームがあってから、外部の検査機関に残留農薬の調査を依頼するまで1ヶ月以上かかっており、被害の拡大を招いた。では、その間に何をしていたのかというと、「工場改装時の塗料が紛れたのでは」など、異物混入という最悪のシナリオを否定する材料を必死に探し回っていたのだ。
つまり、「新幹線が世界に誇る定時運行を、なにをおいても守るべし」という強迫観念にも似た組織内の暗黙のルールが、現場の保守点検担当者や、新幹線総合指令所スタッフの目を曇らせ、重大事故につながりかねない「異変」を見過ごしてしまったのではないか、ということを申し上げたいのである。
さらに言えば、筆者が「定時運行」こそが「真犯人」だと指摘するのには、もうひとつ理由がある。あまりに度を越した「定時運行」というものは、組織に本来の「目的」を勘違いさせてしまう恐れがあるからだ。
鉄道の定時運行は
ファシズムから始まった
拙著『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)の中で詳しく論じているが、「日本の鉄道は世界一」「時計のように正確な日本の鉄道」という自画自賛のムードは、大正から昭和にかけての、鉄道輸送力の強化という「国策」のもとに形成された。
さらに、いま我々が「日本人の乗車マナーは世界一」なんて言って喜んでいるものも、日本人の礼儀正しさとか、民度の高さなどではなく、単に国家による「啓発運動」の賜物なのだ。
1944年、当時の運輸通信省は来るべき決戦に備えて、鉄道の「総親和運動」を展開。5月19日の「読売新聞」には「列車の遅延は決戦輸送の障害」として「守れ乗車道徳」と以下のように呼びかけている。
「乗降に際しては一列乗車、左側待合せ乗車、入り口を塞がずに中に詰めること、荷物を網棚か腰掛下へ入れること」
これは今、JRや地下鉄でアナウンスされていることとほぼ変わらない。つまり、日本人が誇りに思う「定時運行」や「乗車マナー」は、乗客が便利だからとか社会が求めたからなどという理由から生じたものではなく、「お国のため」という極めてファシズム的な発想がルーツにあり、それが現在にも続いているのだ。
もともと日本という“組織”のために始められたものなので、どうしても“個人”が置き去りになる。つまり、「定時運行」に執着するあまり、「乗客の安全」が二の次にされてしまうのだ。
かのドラッカーも指摘した
定時運行とファシズムの関係
そんな馬鹿なと思うかもしれないが、列車の「定時運行」とファシズムの関係はいろいろな方たちが指摘していて、恐らく20世紀で最もファシズムに詳しいであろう方も言っている。ピーター・F・ドラッカーだ。
ヒトラーに何度もインタビューをしたことがあるこの人は、1933年、ナチスが政権を取った日の数週間後に書き始めた『「経済人」の終わり』(ダイヤモンド社)の中で以下のように書いている。
『イタリアの印象を聞かれて、「乞食がいなかった。汽車が時間通りに走っていた」と答えた老婦人を馬鹿にしてはならない。なまじの論文よりも、よほどファシズムの本質をついている。ファシズムにおいては、汽車が時間通りに走り、乞食が大通りから追い払われる。南大西洋で最高速の船を運航し、世界一道幅の広い道路をつくる。組織と技術の細部それ自体が目的と化す。技術的、経済的、軍事的な有用性さえ、二の次となる』(『「経済人」の終わり』より)
新幹線運行の技術と正確さに世界が称賛!
新幹線の車内清掃に外国人観光客がびっくり!
こんな言説が溢れかえる「新幹線」は完全に、ドラッカーの言う「組織と技術の細部」が目的となっている印象がある。
このような「新幹線ファシズム」のもとでは本来、「定時運行」という「手段」に過ぎないものが、「目的」となり、「乗客の安全」という本来の「目的」が二の次になってしまう恐れがある。今回の「14センチの亀裂」は、それを象徴する出来事のような気がしている。
もちろん、それはJRだけの責任ではない。戦前の教育を引きずって、「鉄道は遅れないのが当たり前」だと思い込む我々ユーザーが求めるからこそ、JRも必死にそれに応えようとする。トラブル頻発で指摘される人手不足や技術継承の問題があっても、気合いと根性で何とか「世界一の定時運行」をキープしようとするのだ。
日本人一人ひとりが、「新幹線ファシズム」の本当の意味での「真犯人」なのではないか。
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