http://www.asyura2.com/17/hasan125/msg/129.html
Tweet |
銀行が「いい就職先」は幻想、既に学生からも敬遠されている理由
http://diamond.jp/articles/-/153631
2017.12.20 山崎 元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 ダイヤモンド・オンライン
メガバンクは相次いでリストラ策を打ち出している Photo by Takahisa Suzuki
銀行内定は就職勝ち組にあらず
お金の運用を主な活動分野にしているので、筆者は、「銀行には、気を付けろ」といった趣旨の原稿を書くことが多い。理由の一つは、今の銀行員が顧客のお金の状況について深く知っている"手強すぎるセールスマン(セールスウーマン)"だということ、そしてもう一つが、銀行の店頭で勧められる商品に買っていいようなものがほとんどないことだ。
要は、「銀行にはリスクがある」と警鐘を鳴らしているわけだが、読者が40代、50代くらいで、これから就職を目指すお子さんをお持ちの親御さんである場合、銀行がもたらすかもしれない最大のリスクは、「ご子息・ご令嬢が銀行に就職すること」ではないかと思う。
昨年3月まで6年間ほど、ある私立大学で授業を持っていた筆者の経験では、就職戦線に臨む大学生は、全国区のメガバンクばかりでなく、地元の地銀や第二地銀なども含めて銀行から就職の内定をもらうと、就職の成功者、いわゆる「勝ち組」的な周囲からの評価と、自己認識を持つことが多かった。銀行は、友人に自慢でき、親にも安心してもらえる「いい就職先」だったのだ。
ただし、実はずっと前から、銀行はどこの大学を卒業したかという学歴がいつまでもついてまわる職場で、出世しやすい一流大学(典型的には慶應義塾大学)以外の大学を卒業して入社しても、将来の出世は見込みにくい。また、実質的な"選手寿命"が短いので(詳細は後述)、よほど銀行員向きの学生以外には、勧めにくい就職先だと思っていた。
すでに地銀は採用難
「銀行は、必ずしもいい就職先ではない」という認識は、すでに学生の間に広がり始めているようだ。
金融業界の専門誌である「週刊金融財政事情」(12月11日号)によると、地銀が新卒者の採用に苦しみ始めているという。大手地銀でも、内定を出した学生から辞退されるケースが増えており、どの時点でカウントするのかによって流動的だが、大手地銀でも2割、場合によっては最終的に200名弱に内定を出したものの「選考中の面接辞退や内定辞退が100名にものぼった」という東日本の地銀もあった。
また、特にUターン就職者の採用に苦戦しており、地元の地銀が別の志望企業を受ける前の面接の"練習台"にされる傾向が強まっているという。
記事で紹介された「就職活動を行っている学生から見て、地銀が県内の一番手企業というブランドはもう剥落している」との大手地銀人事担当幹部の認識は正しいようだ。
ところで、同じ号の「週刊金融財政事情」には、格付会社のS&Pグローバル・レーティングは、11月29日に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の長期発行体格付けを「A−(シングル・エー・マイナス)」に格下げしたとのニュースが載っていた。2005年10月のグループ誕生以来、初めての格下げだという。
「A−」は、まだ機関投資家の投資対象にはなるが、保守的な投資ルールを持つ資金運用主体は購入を避けようかというくらいの格付けであり、国内最大のメガバンクグループが、この評価では苦しい。MUFGは株価を見ても、PBR(株価純資産倍率)が0.69倍(連結・実績)と低評価であり、投資家は同グループの成長性を全く評価していないと言っていいだろう。
もっとも、当面の成長性は乏しくとも、それなりの収益を毎年稼いでいるので、メガバンクの株式は「バリュー株」として投資対象になり得る可能性がある、ということは、一言申し添えておこう。ただし、就職する新卒者にとっては、夢のない話ではある。
メガバンク3行は、みずほフィナンシャルグループを筆頭に、大規模な中期的人員削減計画を発表して話題になったが、こうした発表が行われるということは、経営企画レベルでは、中長期以前に現時点で人員が余っているとの認識なのだろう。今後、追加的な人員削減計画が発表される可能性が十分あるし、こうしたリストラクチャリングの圧力が掛かる職場の志気は上がらない。
率直に言って、ビジネスの条件を考えると、わが国の地方銀行は数が大幅に多すぎるし、メガバンクも3行は過多で、2行で十分かもしれない。経営統合して生き残ると、預金者にはいいが、統合された側の銀行の銀行員の人生はすっかり予定が狂うことになる。率直に言って惨めだ。
また、銀行そのものがなくなるのではないとしても、支店の店舗が減ることは確実で、それは支店長ポストの減少を意味する。「いつかは支店長に」という過去の標準的な銀行員の人生目標が大きく遠のくことになる。
もともと就職先としては勧めにくかった
もともと銀行は、学生に勧めにくい就職先だった。一つには、20代の頃の仕事の仕方が窮屈で面白くない。また、最大の理由は、だいたい50歳前後であらかた銀行本体から関連会社や融資先などに出向する、選手寿命の短さだ。他の業界、たとえば総合商社は、多くの社員が55歳くらいの役職定年で給料は下がるが、60歳まで現役だ。端的に言って、これまでの銀行は、優秀な人材を採って、これを無駄に使ってきた。
加えて、序列を重んじる銀行の減点法的な人事評価が、今の若者の価値観に合うとは思えない。
もっとも、銀行本体から早くいなくなって第二の職業人生を早くスタートすることが結果的に奏功する人もいるだろうし、学歴や成績が優秀で権威を重んじてストレスに強い銀行員向きの性格で、いいポジションを確保して有利に人事競争を戦うことができる人もいるだろうから、銀行の仕組みが全ての人に不適格なわけではない。
とはいえ、銀行は、フィンテックを理解するような優秀な理科系の人材や、商社からも内定が出るようなエネルギッシュな人材が欲しいと考えているようだ。しかし、行内の価値観やカルチャーを含めて、人事制度を根本的に変えるのでなければ、こうした学生にとって魅力的と思える就職先にはなりそうにない。
ところが、急激に人事制度を変えようとすると、行内の既存行員の価値観と軋轢を起こし、マネジメント上の危機をもたらす可能性がある。銀行員にとって「人事」はほぼ人生と等価の価値を持つ重大事だから、既存の銀行員の人事に対する既得権や期待を急激に変えることは、相当に危険だ。
こうした状況に加えて、まだ長引きそうな低金利政策による収益環境の悪化や、新しいテクノロジーによって旧来の銀行のビジネスが急速に置き換えられるリスクがあるのだから、就職先としての銀行に対して、学生が懐疑的になるのはやむを得ない。
一つの比喩を考えるなら、銀行は、「お金」とそのやり取りがデジタル化することに伴って、携帯電話ができ、さらにスマートフォンが普及して、めっきり使うことが減った固定電話のような存在になるのかもしれない。
これまで銀行は、金融業界の中で行政から特別扱いを受けてきたといっていいだろう。行政は、金融システムを安定させるために、投資信託や保険の販売を認めるなど銀行に新たな"食い扶持"を与えてきた。しかし、国を超えた単位で進む技術の変化には対応しきれないかもしれない。銀行員全員が食えるようなビジネスを新たに銀行業界に与えることは難しかろう。
銀行が、いい人材を確保したいと本気で思うなら、グループ内に先端的な子会社を作って、優秀な学生に1年目から2000万〜3000万円レベルの年収を払うような方策が必要だろう。しかし、そうした子会社を経営して、優秀な人材をさらに育て、加えて有効に活用できるような経営人材が、果たして今の銀行にいるのだろうか。
若手行員はどうしたらいいか
大人としては、学生の就職先の心配ばかりでなく、既に銀行に勤めている若手行員のことも案じるべきだろう。
28歳くらいまでの若手行員は、業種を大きく変えるような転職も可能だ。銀行で面白い仕事をさせてもらえそうにないと思った場合には、今後、「人材価値」を築くことができる職種に変わることを検討していいのではないだろうか。前記の地銀の幹部が言う、就職先としての銀行の「ブランド価値」がまだ残っているうちに、少しでもいい転職先を見つけたい。
また、行内に残る場合は、トレーディング、M&A、国際金融、システム開発など、何らかの専門職的なコースを指向すべきだろう。証券、運用会社などグループ会社に早めに転籍するのもいいかもしれない。大事なのは、外でも通用するような技術や知識の背景を持った人材価値を早く作ることだ。
難しいのは、30代前半くらいで、少し仕事が面白くなってきて、一次選抜では昇格できたという程度のプライドを持っている行員だろう。
転職する場合の候補先は、外資系企業や金融の他業態など、それまでの仕事で築いた人材価値に関連した先になるだろう。ただし、外の会社から見て、30代前半であれば人材として使いでがあると思って採ってもらえる可能性があるが、職業人生の最も充実した時期を数年、漫然と銀行に捧げてしまうと、転職者としての価値が下がり始める年代に差し掛かる。
転職するにせよ、結果的にしないにせよ、今、何の仕事をしていて、その仕事を続けることは、自分の人材価値にとってどのような影響があるのかを、一年一年慎重に見極めながら勤めるべきだ。肝心なのは、「外の」視点から自分の人材価値を評価することであり、「中の」人事評価に敏感になることではない。
30代後半以降の行員さんは、「セカンドキャリア」について早く考え始めることをお勧めする。一般に、「60歳から後に、自分は何をして稼ぐか…」という目処を考え始めるのは45歳くらいからが望ましいと思うが、銀行員は第一線の選手寿命が短いのだから、40歳の時点で考え始めても早過ぎるということはない。
「将来は、楽な関連会社で面倒を見てもらえるのではないか」といった希望的な期待を頼って、「ゆでガエル」のようになる"愚"は避けたい。
新しい仕事をする場合、スタートが早いと有利な面がある。今後の環境悪化を甘く見ずに、周到な準備をされたい。
筆者は、一人ひとりの銀行員に対して悪意はないのだが、例えば、筆者の関係する資産運用の世界で言うと、銀行の窓口で売っている投資信託や貯蓄性の保険などは、全く顧客にとって不適切なものばかりだ。金融庁の言う「フィデューシャリーデューティー(顧客本位の業務運営)」の真逆だ。
本稿をお読みの銀行員さんが、例えば顧客に投資信託を売っているのだとすれば、あなたは、世の中のためになっているというよりは、世の中に害をなしていると筆者は評価する。高い手数料を取る投信を売ることも止められないし、他にすることもないのであれば、勇気を持って銀行など辞めてしまうといい。
実質的に消費者金融会社のフロントになって、総量規制の外でカードローンを増やすようなビジネスも感心しないので、止めた方がいい。その方が、世の中のためだ。
もちろん、生活の問題も、キャリアの問題もあるから、いきなり辞めることはお勧めしない。周到に準備して転身を図り、いい人生を送ってほしい。
(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民125掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民125掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。