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ドイツ自動車産業を襲う「三重苦」は産業の未来をどう変えるか?
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171206-00018806-forbes-bus_all&pos=2
Forbes JAPAN 12/6(水) 16:30配信
Gyuszko-Photo / shutterstock.com
高品質で安心。ドイツ製のクルマは、時代を超えて高い評価を受けてきた。ところが2015年9月、VWは不正行為を認め、世界に衝撃を与えることに。それから2年。ドイツ在住の記者が見た自動車業界が歩むいばらの道とは。
ドイツを支える自動車産業は今、第2次世界大戦後、最も深刻な危機を迎えている──。
同国が約120年前に発明し、その自動車産業が重要なビジネスモデルとしてきたディーゼル・エンジン技術に対し、大きな疑問符が投げかけられている。国内では「ディーゼルだけではなく、内燃機関を使うクルマの時代は終わった」という論調すら出始めているのだ。
だがドイツの自動車業界では、これまであまりにも長く内燃機関に力を注いできたために、消費者の需要を満たす電気自動車(EV)の開発が遅れている。各メーカーは今後、短期間に多額の投資をしてビジネスモデルを根本的に転換しなくてはならない。自動車帝国のドイツにとって、次の10年間はいばらの道だ。この国の自動車メーカーが直面している試練は、次の3つに集約できる。
1. 裁判所の判決に基づく、ディーゼル車の大都市への乗り入れ禁止問題
2. 排ガス不正事件の拡大
3. ドイツ自動車メーカーの技術カルテル疑惑
ドイツ南西部バーデン・ヴュルテンベルク州の州都シュツットガルト。今年7月に同市の行政裁判所は、ドイツの自動車産業の針路に大きな影響を与える判決を下した。同市では7年半前から、窒素酸化物(NOx)濃度がEU法の上限値(1立方メートル当たり40mg)を大幅に上回る違法状態が続いている。
このため、環境保護団体「ドイツ環境援助(DUH)」が、同州政府を相手取って行政訴訟を起こし、大気汚染を減らすために厳しい措置を取ることを求めていた。シュツットガルト行政裁判所は、DUHの訴えを認め、「この違法状態を終わらせるには、2018年1月1日からディーゼル車の市街地への乗り入れを禁止することが最も有効だ」という判断を示した。
シュツットガルトは、ダイムラーやポルシェが本社を置く、ドイツ自動車産業の中心地の1つ。いわば日本の豊田市に相当するような町である。裁判所は、そのような町からディーゼル車を締め出すことを求めているのだ。ドイツ自動車史上例のない事態といえる。しかも問題はこの町に留まらない。DUHは他に15の町でも同様の訴訟を提起している。
もちろん今回の判決は、司法の最終判断ではない。バーデン・ヴュルテンベルク州政府はライプチヒの連邦行政裁判所に控訴した。だが、もし連邦行政裁判所が18年春に判決の適法性を追認した場合、ドイツ車の約40%を占めるディーゼル車が、多くの都市から締め出される可能性が強まる。
排ガス不正は他社にも飛び火
ドイツ連邦政府とバーデン・ヴュルテンベルク州政府、自動車業界は、ディーゼル車の乗り入れ禁止を是が非でも避けることをめざしている。
このため連邦政府は8月2日、ベルリンで開いた「ディーゼル問題対策会議」にVWやダイムラー、BMWなど自動車メーカー8社のCEO(最高経営責任者)らを招いて対応策を協議した。その結果、ドイツの自動車メーカーは、同国内で使われているディーゼル車約530万台のソフトウェアを無償で更新することによって、NOxの排出量を来年末まで25〜30%減らすことを約束。各メーカーは「この更新措置によって、燃費などが悪化することはない」と説明している。
VWを失墜させた排ガス不正問題
だが、この措置によってディーゼル車の乗り入れ禁止を回避できるかは未知数である。ドイツ連邦環境省のバルバラ・ヘンドリクス大臣は、「8月2日に自動車業界が約束した措置は、NOx濃度を6%しか減らさない。これらの措置は、大半の町でEUの上限値を満たすには不十分だ」と述べ、触媒装置の更新などハードウェアの改修が必要だと考えている。その場合、メーカーの負担は大幅に増え、業績が悪化しかねない。
2番目の試練は、15年にVWグループで発覚したディーゼル車をめぐる排ガス不正事件の拡大だ。同社が不正ソフトで検査場でのNOx排出量を低く抑えていた車の数は、全世界で約1085万台に上る。アメリカとカナダの司法当局から課せられた和解金や制裁金の合計額は、約215億ドル(約2兆3650億円)に達する。アメリカではVWの社員・元社員7人が起訴され、2人が逮捕されている。
ドイツでも刑事捜査・民事訴訟が継続中だ。検察当局は、マルティン・ヴィンターコルン前CEOらに対して詐欺などの疑いで捜査を行っている。今年9月末には、VWグループのエンジン開発部門の最高責任者の1人、ヴォルフガング・ハッツ元取締役がミュンヘン地方検察庁によって詐欺などの疑いで逮捕されている。「末端の技術者による不正」というVW社の当初の弁解が覆されつつある。
さらに、VWは株主からも槍玉に上げられている。2年前に排ガス不正が発覚した直後、同社の株価は一時43%も下落し、約250億ユーロ(3兆3250億円)の株式価値が吹き飛んだ。日米欧の機関投資家、個人投資家らは「同社が排ガス不正についての事実の公表を遅らせたために、経済的な損害を受けた」として、同社を相手取り損害賠償を求める裁判を起こしている。原告の数は1955社に上り、賠償請求額の合計は少なくとも19億ユーロ(約2530億円)に達すると推定されている。
また、排ガス不正疑惑はダイムラーにも飛び火し、ドイツの検察庁が詐欺の疑いで捜査を行っている。その背景には、VWの不正が発覚した直後にドイツ連邦自動車庁(KBA)が調査を行ったところ、VW以外のメーカーでも、路上でのNOx排出量が、検査場での値を大きく上回ったという事実がある。これらのメーカーでは、気温が一定の水準にならないとNOx削減装置がフルに機能しないようにする「熱ウインドウ」という工作が行われていた。
VWを失墜させた排ガス不正問題
第3の試練は、今年7月にドイツ誌「シュピーゲル」がスクープした規格カルテル疑惑だ。同誌は、「VW、ダイムラー、BMW、ポルシェ、アウディが20年以上にわたってカルテルを形成し、自動車部品などの技術的なディテールについて談合していた」と報じた。
5社は1990年代から約200人のエンジニアらを約60の作業部会に参加させて、ディーゼルやガソリン・エンジンに関する技術、バイオ燃料などについて協議させ、製品に実用化される技術が横並びになるように、すり合わせを行っていたというのだ。議題の中には、NOx排出量を減らす尿素水を入れるタンクの大きさも含まれていた。シュピーゲルは、「各社はコストやスペースを節約するために、尿素水タンクの容量を8リットルという比較的小さいものにした」と主張する。
この容量では、アメリカの厳しい排ガス基準をクリアすることは難しい。つまり尿素水タンクに関する談合が、VW排ガス不正の原因の1つとなった可能性もある。EUの反カルテル当局は、すでにこの疑惑について調査を行っている。万一、EUがこの談合を違法と断定した場合、年間売上高の最高10%の罰金を科すことができる。つまり、カルテル疑惑はメーカーに大きな経済的負担を強いるのだ。
メルケル首相が感情を露わにして非難
ドイツでは、2年前から自動車業界のスキャンダルが立て続けに報じられてきた。このため、消費者の間でディーゼル離れが急速に進んでいる。
KBAによると、17年上半期に認可されたディーゼルやエンジン搭載の乗用車数は、前年同期に比べて9.1%も減った。逆に、ガソリン・エンジン車は11.7%増加、EVは133.9%、プラグイン・ハイブリッド車は100.3%も増えている。
ドイツ人には倹約家が多い。これまでディーゼル車の人気が高かった理由の1つは、ドイツでは軽油の価格がガソリンよりも低く抑えられているため、長年にわたって乗れば乗るほどコストを節約することができ、中古車として売る時にも価格が大幅に下がらないことだった。それだけに、消費者からは「一連のスキャンダルのために、マイカーの価値が下がった」という怒りの声も聞かれる。
ドイツの自動車業界は、政界でも大きな影響力を持つ。同業界は、87万人を直接雇用している。この国の就業者の7人に1人は自動車と関わりのある仕事に就いている。自動車産業の売上高は毎年4000億ユーロ(約53兆円)。この業界は経済の屋台骨であるとともに、重要な票田でもある。したがってドイツの政治家たちは、政党を問わず自動車業界と良好な関係を築こうとしてきた。
しかし、今回のディーゼル危機では様子が異なる。政界から自動車業界への風当たりは強い。9月の連邦議会選挙では、「車のエネルギー転換」が争点の1つとなった。アンゲラ・メルケル首相は、選挙前のテレビ討論会の中で排ガス不正を「信頼を裏切る行為だ」と呼び、「私はかんかんに怒っている」と珍しく感情を露わにした。
首相は9月に行われた国際モーターショー(IAA)でも、「複数の自動車メーカーが法律の抜け穴を悪用して消費者と監督官庁をだまし、失望させた。自動車業界は排ガス不正から教訓を学び、失われた信頼を回復してほしい」と厳しい言葉で業界を批判している。
ドイツもEVシフトは不可避
今年になってからは、ドイツだけではなく、他国でも内燃機関の車を制限してEVシフトを求める動きが強まっている。英仏政府は40年までに、内燃機関の車の認可を停止する方針を打ち出している。中国政府は19年以降、メーカーに対して毎年の生産・販売台数のうち、一定の割合をEVかハイブリッドカーにすることを義務付ける、クオータ制度を導入する方針を明らかにした。
これに対してドイツ政府は、立場を他国ほど明確にしていない。自動車産業が同国の経済の中で大きな比重を占めていることに配慮しているからだ。メルケル首相は、「我々はまだ何十年も内燃機関の車を使うだろう。特にCO2削減目標を達成するにはディーゼル車は重要だ」と語っている。だが同時に、ある雑誌との取材で「何年までと区切ることはできないが、内燃機関の車を廃止することは長期的には正しい道だ」とも述べている。
そのため今年のIAAでは、各メーカーともEVの試作車を前面に押し出した。メルケル首相が各社のブースを訪れた時、最も知りたがったのはEVについてだった。例えばVWのマティアス・ミュラーCEOは、30年までにEV開発に200億ユーロ(約2兆6600億円)を投じ、EVを50車種、ハイブリッドカーを30車種発売する方針を明らかにした。同グループは現在内燃機関の車を300車種売っているが、どのモデルも少なくとも1種類はEV化する。
ミュラーCEOは「VWはEVの世界的リーダーになる」と強気だ。同社は中国市場に大きく依存しているので、売上高や収益性が激減するのを防ぐには迅速にEVへシフトせざるを得ない。
EV普及に立ちはだかる壁
だが、ディーゼル・エンジンの開発に多額の投資を行ってきたドイツの自動車メーカーは、明らかにEVやハイブリッドカーの開発が遅れている。現在、ドイツのメーカーは約500車種の車を売っているが、EVはまだ30車種にすぎない。
さらに深刻なのは、EVのための充電インフラ不足だ。メルケル政権は20年までにEVを100万台にすることをめざしているが、現在、使われているEVは3万台に満たない。その最大の理由は、EVのための充電スタンドが不足していること、大半のスタンドでは充電に時間がかかりすぎることだ。一方、電力会社もEVの台数が少ないため、充電スタンドを新設・運営する事業の収益性が確保できない。
ドイツの市町村は、現在はディーゼル・エンジンを使っている路線バスを電気バスに切り替えることを希望しているが、この国には直ちに実用化できる電気バスはない。ことほど左様に、ユーザーの希望を満たせるEVが不足しているのだ。
車のエネルギー転換は、雇用にも影響を与える。EVの製造に必要な工員の数は、内燃機関の車に比べて少なくて済む。ディーゼル・エンジンに精通した機械工よりも、蓄電池に関するエンジニアや電気技術者が求められる。特に内燃機関の部品に特化した下請け企業にとっては、厳しい時代がやって来るだろう。自動車業界と連邦政府にとっては、EVシフトが雇用に与える悪影響を最小限に抑えるための努力を始めなくてはならない。
さらにドイツの自動車業界はEVシフトを断行し、排ガス不正という過去の負の遺産と対決しながら、「コネクテッド・カー」に象徴される車のデジタル化や、ビッグデータの活用、自動運転車の開発も進めなくてはならない。
もしもドイツの自動車業界がEVやデジタル化をめぐる競争で、日本やアメリカ、中国に後れを取った場合、この国のトップ産業が衰退する可能性もある。自動車帝国ドイツの繁栄が、曲がり角にさしかかっている。自動車産業が経済の中で重要な地位を占める日本にとっても、ドイツの今後の動きには注目する必要がありそうだ。
熊谷徹◎ドイツ在住ジャーナリスト。早稲田大学卒業後、NHKに入局。1990年からフリージャーナリストとして活躍。『偽りの帝国緊急報告・フォルクスワーゲン排ガス不正の闇』(文藝春秋刊)など著書多数。Forbes JAPAN 2017年9月号では「ドイツ・インダストリー4.0最前線」に関するルポを寄稿。
Forbes JAPAN 編集部
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