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「人件費上昇」が日本経済にもたらす3つのメリットと1つの課題(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/17/hasan124/msg/723.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 11 月 30 日 17:28:15: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

「人件費上昇」が日本経済にもたらす3つのメリットと1つの課題
http://diamond.jp/articles/-/151114
2017.11.29 山崎 元:経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員  ダイヤモンド・オンライン


     

■人件費がいよいよ上昇

 巷間「人手不足」が語られるようになり、これに伴って至る所で人件費が上昇しているという。安定した企業の正社員の皆様は、まだご自身の収入増加を感じておられないかもしれないが、パートや派遣、アルバイトといった、いわゆる「非正規」で働いている人たちの時給は上昇している。

 例えば、物流が大きく動く年末の繁忙期に向けて、アマゾンは時給1850円、ヤマト運輸はなんと時給2000円で働き手を募るという。

 もともとアベノミクスとは、金融緩和で円安に誘導して→日本の労働力に対する国際価格を下げて日本の製品・サービスの競争力を増し→労働需要をタイトにして→賃金を上げて→マイルドな物価の上昇を実現する、といったストーリーを期待した「デフレ脱却対策」であった。

 ただしこうした過程では、まず、株式・不動産などの資産を持つ人と、労働市場で限界的なポジションにある人という、いわば貧富の“両端”からメリットが生じ、“中間層”に対するメリットはそもそも遅れてやってくるのが必然だった。

 デフレが進んだ過程で、企業が人件費のコストダウンを強く意識し、その中で増えた非正規雇用の労働者の待遇がまず改善しているわけだが、この層の労働需給をタイトに保つことによって、正規雇用の労働者にも賃金の改善が及んでくることが期待される。

 もっとも、人手不足の原因はアベノミクスだけではない。日本の労働年齢にある人口は急激に減っている。人口減は、需要の減少にもつながるので、それだけで人手不足と賃金上昇を生むとは言えないが、経済環境が改善する中での労働人口の減少は人手不足を加速させる。

 一方、企業にとって人件費の上昇は、コスト構造の悪化に直結する要因だ。特に外食産業など消費者に直接接する業種で、人件費の上昇で値上げを余儀なくされて、業績が悪化している企業のニュースが方々から伝わってくるし、「人件費倒産」という単語も聞こえてくるようになった。

 日本の経済にとって、人件費の上昇はいいことなのだろうか。その功罪について考えてみたい。

 筆者は、現在の人件費上昇に関して、日本経済に三つのメリットと一つの課題があると感じている。以下、順番にご説明しよう。

■メリット(1) マイルドな物価上昇への道筋

 先述のように、アベノミクスの基本的な狙いにあっては、目標とするマイルドな物価上昇の環境を継続的に実現するため、賃金が上昇する環境が必要であり、そのためには労働力が賃金上昇を正当化する程度に逼迫した環境を実現する必要があった。

 マイルドな物価上昇がなぜ好ましいのかというと、もともとその環境下の方が実質金利をコントロールしやすく、完全雇用の実現に対して好ましいからだった。これは、経済政策は失業のない状態を目指すべきだという、経済学の初歩の教科書にあるような正統派の目的である。

 そして、その目的を継続的に達成するためには、マイルドなインフレの状態であることが好ましく、インフレが行き過ぎてしまって弊害が大きくなった場合にはインフレを抑えるべきだ、というのが経済に対する常識的な理解だと言っていいだろう。

 現在は、完全雇用に近い状態まで雇用環境が改善してきたし、インフレが行き過ぎない限りこうした状態が続くことが、それ自体としても、その状態を継続するための環境整備としても好ましい。そして、もちろん完全雇用を維持しながら生産性の改善に努めることが、経済生産の最大化にもつながるので、われわれを豊かにするはずだ。

 したがって、「インフレがまだ足りない」現状にあっては、せっかくできた人件費が上昇する状況を後戻りさせることは愚かである。企業は、この環境に適応すべきだ。

■メリット(2) ブラック企業淘汰への圧力

 卒業予定の学生が就職難に苦しみ、パートやアルバイトが悪条件で働かされる状況は、ほんの数年前のことだった。こうした状況下では、企業から見て労働者はいつでも取り換え可能であり、労働者の側は常に失職リスクの圧力にさらされていた。

 こうした状況こそが、労働者に低賃金で過重な負担を強いて、彼(彼女)が疲弊したら使い捨てにして、別の労働者を雇えばよしと考える、いわゆる「ブラック企業」のビジネスモデルを成立させていた。

 どの企業が「ブラック」だったとは、今さら言うまい。(1)スキルの改善と経済的条件の改善(昇給あるいは昇進)の道筋が見いだせず、かつ、(2)安心して余裕を持って働くことができない企業を、おおむね「ブラック企業」と定義していいだろう。多くの就職人気企業は、今日でも仕事が忙しいことから(2)の意味でブラックに近いが、(1)の点でブラック企業ではない。

 しかし、主に非正規の労働力を使っていた(同時に順番に使い捨てにもしていた)真のブラック企業は、非正規の労働力のコストが上昇する環境の中で、これまでと同様のビジネスのやり方を続けることが困難になってきた。

 目下の人手不足は、経済政策の結果ばかりでなく、日本の人口構造の変化が(労働力年齢人口が急激に減っている)もたらした面もあるのだが、インフレが進み過ぎない程度にこの状況をキープすることが好ましい。働く人々の生活条件を継続的に改善するにあたって、これ以上に好ましい方法はない。

■メリット(3) 省力化技術発展へのインセンティブ

 当面の「人手不足」が語られる一方で、逆方向の話題として、AI(人工知能)やロボットなどによる人間の労働の置き換えがニュースになることも多い。

 こうした省力化の技術は、「機械ができること+人間ができること」の合計量を改善するので、基本的には歓迎すべき変化だ。

 昨今、わが国のメガバンク各行が大規模な人員削減計画(世界標準の経営から見ると、まだまだ生ぬるいが)を発表して話題になっているが、経営者の唱えるお題目は、「IT」「AI」「フィンテック」だ。

 要は、技術進歩が(もうすでに起こったものも含めて)多くの銀行員を不要にするという話だ。シュールな想像をするなら、銀行には、株主と人事部だけが残るのかもしれない。社会としては、銀行の機能が技術によって十分置き換えられるなら、何の問題もない。経済のロジックとしては、余った銀行員が、別の生産活動に従事すれば、世の中はより豊かになる(はずだ!)。

 もちろん、銀行員の仕事以外にも、技術で置き換えられて不要になる仕事は多々あるだろう。

 わが国の労働力の不足に伴う人件費の高騰は、省力化技術の発展に対して強い経済的インセンティブとなる。この環境変化によって、技術の発展が促進されるならそれは大変好ましいことだ。

 想像してみよう。例えば、「銀行員のいらない銀行」をわが国だけが安価に可能にできる技術を持てた場合、この技術は世界に高く売れるだろう。古い話だが、いわゆるオイルショックが、石油輸入国であるわが国の省エネ技術を進歩させたことを思い出そう。

 もっとも、そのためには、わが国は極端なくらいに教育に投資しなければならないように思われる。

■最大の課題は、富の分配

 ここまでの話で、例えば、「ブラック企業が淘汰されるのはいいことだ」と申し上げた。

 しかし、ブラックといえども企業が倒産すると、その企業に関わる従業員も経営者も経済的苦境に陥る可能性がある。こうした人たちが救済されるためには、逆説的に聞こえるかもしれないが、経済環境としてブラック企業が存続できないような、好ましい人手不足が続くことだ。

 加えて、将来の省力化技術の経済的な価値について大いに期待したところでもあるのだが、こうした価値の高い技術の経済的受益者は、(1)技術の開発者、(2)開発者の雇い主(株主や経営者)、あるいは(3)市場での競争の結果または規制により技術の利用を独占・寡占する主体、などに偏ることが予想される。

 この種の技術の優劣は比較的ハッキリしているし、プラットフォームとなる技術・システムが決まると、そこに需要が集中する。例えば、かつての家電やアパレル製品のように、需要者の好みの多様性に応じて、多数の会社の製品・サービスが並立するといった状況は考えにくい。加えて言うなら、個人単位の経済的優劣も拡大する傾向を持つだろう。

 要は、経済環境と技術の変化に応じて、経済的に「失敗」の状態に陥る人が出てくるので、彼らに対する経済的なセーフティーネットが必要なのとともに、今後の省力化的な技術の進歩は、富の偏在を加速する方向に働くと思われる。だから、「富の再分配」に関して、社会的に納得性の大きな仕組みが必要とされるのだろうと思われる。

 人件費上昇の先に見える最大の課題を一言で言うなら、「再分配政策」だ。

(経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)


 

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