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なぜ「食べ放題」や「ビュッフェ方式」の店が潰れずに儲かるのか
http://diamond.jp/articles/-/150624
2017.11.24 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
街にはさまざまな外食のお店が立ち並んでいる。店には流行り廃りもあるが、いつも人気なのは食べ放題の店。食欲旺盛な客ばかり集まってきて、本当に儲かっているのか心配にもなるが、どうしてつぶれないのだろうか。その秘密を探ると、意外なビジネスモデルが見えてくる。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
食べ放題の店でも
固定費は増えない
企業のコストは、「固定費」と「変動費」に分けられる。変動費とは、売り上げが増えるとコストも増える部分であり、レストランでいえば材料費が代表的なものだろう。一方の固定費は、売り上げに関係なくかかる費用であり、レストランでいえば店を借りる費用、つまり家賃や正社員の給料などである。レストランの場合、材料費が売り上げに占める比率は高くないといわれているので、ここでは3分の1としよう。
普通のレストランでは、1500円の料理を提供しているとすると、変動費は500円である。客が1人も来ないと、レストランは固定費分だけ赤字になる。客が1人来るたびに、1500円と500円の差額である1000円分ずつ赤字が減っていき、いつかは黒字になる。
黒字になるために必要な売上高を「損益分岐点」と呼び、それを超えれば客が1人増えるたびに利益が増えていくことになる。
これに対し、高めの固定料金を設定する食べ放題の店では、客が2人分の料金を支払って3人分食べたとすると、料金が3000円で変動費は1500円であるから、客が1人来るごとに赤字が1500円ずつ減っていく。客にとっては2人分の料金で3人分食べられて大満足、店にとっても客が来るたびに赤字が大きく減っていくので、これまた大満足だ。客が3人分食べたとしても、店の費用は材料費分だけしか増えないからである。
客が満足し、来店客数が増えることも、店にとっては嬉しいことだ。普通のレストランよりも来店客数が多ければ、1人当たりの赤字の減り方の大きさとの掛け算で赤字が急速に減っていき、簡単に損益分岐点を超えて黒字になるからである。
余談ではあるが、食べ放題よりもさらに儲かるのが飲み放題である。
売値に占める材料費の比率が低いため、3杯分の料金で5杯飲む客が来店すると大きな儲けが期待できるからだ。客が“お得感”にひかれて来店すれば、なおさらいい。コンパの幹事が、大酒飲みの会費を多めに徴収するか否か悩まずにも済むため、大人数の団体客が来るようになるというメリットも見込まれる。
ビュッフェ方式は規模の利益で
効率がよく儲かりやすい
ビュッフェ方式というのは、店の中の大きな皿に料理が山盛りになっていて、客が自分で好きなものを好きなだけ取って食べる方式のこと。グラム単価の高そうな料理(例えばチャーハンではなくローストビーフ)ばかり食べる客がいたりして、いかにも儲かりそうにないイメージがあるが、実は儲かる仕組みが満載なのである。
誰でも思いつくのが、料理を盛り付けて客席まで運ぶ店員が必要ないことだろうが、メリットはそれにとどまらない。
普通のレストランでは、客の注文を受けて料理を作るため1皿ずつ作ることになるが、ビュッフェ店では大皿に山盛りの料理を一度に作ることができる。20人分の料理を作っても、手間が20倍かかるという訳ではないので効率的だ。いわゆる「規模の利益」である。
これは、大企業が中小企業より儲かる理由の一つでもあるのだが、ビュッフェ店の場合は大企業でなくても規模の利益を享受できるのである。
また、普通のレストランでは、客が来て注文してからコックが働き始めるため、コックがフル稼働するのは昼食時と夕食時だけだ。逆に言えば、コックが昼食時と夕食時に作れる料理の分しか客を受け入れることができないことになる。一方でビュッフェ店の場合、コックが朝からずっと料理を作ることができるので、コックがフル稼働して作った分だけ客を受け入れることができる。
客席の回転率でもメリットは大きい。普通のレストランでは、客は注文してから料理が出てくるまで待っていなければならないので回転率が悪い。だが、ビュッフェ店であれば、入店すると直ちに客が食べ始めるので回転率がいいのだ。また、注文を間違えて作り直すといった手間がないこともメリットと言えそうだ。
普通のレストランでは、メニューにある料理をすべて提供できるよう、多品種少量の材料をそろえて待たなければならず、かなりの部分が使われずに廃棄されることも少なくない。だが、ビュッフェ店では使う材料だけを仕入れればいいので無駄もない。場合によっては、少品種多量の仕入れで済むこともあるので、値引き交渉だって可能だ。
このように、食べ放題の店は売り上げに占める変動費の小ささで儲けているといえ、ビュッフェ店はそれに加えてコックの効率の良さなどでも儲けているのである。それで客が満足しているのであれば、まさに「ウイン・ウイン」の関係といえる。
「元を取るまで頑張る」のは
非合理な行動で大間違い
店の立場を離れて、客の立場で考えてみよう。
「3000円で4500円分の料理が食べられるから、食べ放題の店を選ぶ」というのは正しくない。というのも、4500円分の料理が口に合わなければ、それは苦痛なだけだからだ。
そして、料金を払って着席したら、払った代金のことは忘れよう。予想外に早く腹一杯になっても、「元を取るまで頑張る」人がいる。元を取った後も、少しでも多く食べようと無理をして頑張る人もいる。
しかし、頑張っても払った金は返ってこないのだから、払った金のことは忘れて、その時点で自分が一番幸せになれる選択肢を考えるべきだ。極端な話、店の料理が口に合わなかったら、食べずに出て自宅でお茶漬けでも食べよう。「払った金を損する」だけの方が、「払った金を損した上に、まずい物を無理して食べる不愉快さを味わう」よりマシだからだ。
このように、払ってしまって戻ってこない費用のことを「サンクコスト」と呼ぶ。払ってしまった金のことを考えて非合理的な選択をする人は意外に多い。
サンクコストは、さまざまな場面で人々の非合理な行動を引き起こす。例えば、買った本がつまらなくても、最後まで読む人がいる。これは、「買った本の代金を損する」代わりに、「買った本の代金と読んだ時間の両方を損する」という愚かな選択だ。食べ放題のレストランや読書時間くらいならまだいいが、ビジネス上の経営判断を誤る例も多いので、注意が必要である。
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