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世界景気に完全依存する日本経済、なぜ「あの教訓」に学ばないのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53602
2017.11.23 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
■内需の回復が冴えない
2017年7-9月期のGDP統計の内容はあまり良くなかった。実質GDP成長率は、季節調整済みの前期比年率換算で+1.4%にとどまった。各メディアは、実質GDP成長率が7四半期連続でプラスであった点を強調していたが、GDP統計をみる限り、日本経済の回復は一進一退である。
実質GDP成長率がプラスに転じた2016年1-3月期以降の平均的成長率は年率で1.7%弱であった。これは、このところ回復ペースを早めてきた米国やユーロ圏の主要国と比較してもいかにもこころもとない数字である(ちなみに名目成長率で計算しても同期間の平均成長率は1.6%程度である)。
また、GDP統計の内訳をみると、純輸出(輸出マイナス輸入)の寄与度が2%となっており、内需はマイナス寄与となっている。内需では、設備投資は増加したものの、その他の項目は前期比で軒並み減少した。確かに公共投資要因の剥落など致し方ない部分もあったが、内需の回復は不十分で、日本経済が世界景気の回復にほぼ完全に依存している姿が浮き彫りとなった。
このような世界景気に完全に依存しながらの回復局面はリーマンショック前の2006年から2007年にかけての回復局面と似ている。当時も内需の回復がいまひとつの状態ながら、中国等の新興国経済の台頭や欧米の不動産ブームを背景に世界景気が好調で、日本経済は外需主導で回復していた。
2008年秋に発生したリーマンショックの際に、政府は、リーマンショックが日本経済に与える影響について、「蚊に刺された程度」と極めて軽微であるとの認識を示していた。だが、結果はむしろ、輸出の急激な減少により、他の先進諸国よりも大きな負の影響を受けた。
現状の日本経済で、世界景気に何らかの外部ショックが加わり、リーマンショックのような事態が発生した場合、日本経済はかなりのダメージを受け、デフレ圧力が再び高まるリスクがある。
そのようなリスクは、一種の「テールリスク」であり、あらかじめヘッジをかけておくことはできないが、当時の教訓の一つとしては、外需が好調であるからといってそれが長期的に続くという前提で経済政策を策定するのではなく、内需の回復を最優先にし、内需と外需のバランスをとるように心がけるべきではないかと考える。
■安易な「出口政策」は禁物
そして、もう一つの教訓としては、このような経済の状況が中途半端な段階で、「デフレ脱却」という拙速な判断の下、安易な「出口政策」を行わないことではないかと考える。これは特に今後の金融政策を考える上で重要なことだと思われる。
リーマンショックが他国よりも深刻な影響を日本経済に及ぼした大きな理由は、その後の急激な円高によるものであった。そして、その円高をもたらしたのは、金融緩和政策への転換の遅れであったと考える。
リーマンショックに際し、中国を含む主要国はほぼ同時期に大幅な金融緩和を実施したが、その当時の日本は、リーマンショックの影響を甘く見ていたため、金融緩和をためらった。そして、それが大幅な円高を招き、外需だけではなく、内需の大幅な減速を誘発し、デフレが深化した。
金融緩和をためらった理由は、もちろん、リーマンショックの影響について、当時の政府・日銀が分析を致命的に誤ったためであったが、そこには、「せっかく量的緩和・ゼロ金利政策を解除し、金融政策を正常化させつつあったのに、ここでその動きを止めてしまってはこれまでの努力が水の泡になる」という「正常化バイアス」が働いたのではないかと考える。
筆者は、2006年3月以降の量的緩和・ゼロ金利政策解除については、そのタイミングはいささか早く、その時点で実施を急ぐ必要はなかったのではないかと考えている(当時もそのように主張していた)。ただし、当時の量的緩和・ゼロ金利政策の解除自体が、直接的に日本のデフレを深化させたとも考えていない。
ただ、性急に量的緩和・ゼロ金利政策解除に動いたことが、後のリーマンショック時の再緩和(もしくは再リフレ)の遅れに影響を及ぼしたのではないかとも思っており、その点は金融政策の致命的な失敗であったと考えている。
筆者の記憶では、政府・日銀はリーマンショック時の対応について、「失敗であった」という認識を持っていないと思われるので、もし、次に同様のショックが発生した場合、また同様の失敗をしてしまう懸念がある。逆に日本経済の現状を考えた場合、出口政策を急がねばならないリスク要因は存在しないので、しつこいようだが、拙速な出口政策は禁物である。
■日本経済低迷の最大の理由
ところで、現在、日経平均株価は、2万2500円を上回る水準で推移している。2006年から2007年にかけての日経平均株価の水準は、1万8000円前後であったので、株価は当時の水準を抜いている。だが、実体経済の状況を総合的に判断すると、残念ながら、まだ2006年から2007年にかけての状況を超えてはいないのではないかと考える。
いいところまでキャッチアップしてきているのは事実であるが、やや物足りない感じである。株価と実体経済を直接比較するのはナンセンスとはいえ、経済状況から考えると、現在の日本の株価は「バブル」というほどではないにせよ、やや割高であるようにも思える。
以上のように、日本経済の実態がいまひとつである最大の理由は家計消費の低迷である。以前の当コラムでも指摘したが、日本の家計消費は、2014年4月の消費税率引き上げ以降、「2つの意味」で低迷している。
図表1は、1994年以降のGDP統計の実質消費支出の「水準」の推移を示したものである(ただし、対数表示にしている)。
「2つの意味で停滞」しているという意味は、1) 消費「水準」が、消費税率引き上げ前のトレンド(図表中のB)の延長線上に戻っていないこと、2) 消費の拡大パターン(図表中のCの角度)が、それ以前の消費の拡大パターンを下回っていること、の2つを意味している。
これは、消費税率引き上げ前に圧倒的大多数のエコノミストが主張していた、「消費税率引き上げ後の消費水準の落ち込みは、その前の『駆け込み需要』の反動によるものであり、それはある期間が経過するとリバウンドするはずだ」という見方と、「恒久的な増税となる消費税率引き上げによって消費の水準が下方修正されたとしても消費の拡大ペースは変わらない」という見方が、いずれも外れたことを意味する。
この家計消費の低迷を業者側(供給側)の統計でみたのが図表2である。
この表では、家計消費を非選択型個人サービス(電力・ガス、保健・医療、教育などの義務的支出)と嗜好型個人サービス(外食、娯楽などの余暇関連の支出)に分類している。図から明らかなように、2014年4月の消費税率引き上げによって、嗜好型個人サービスの支出が大きく落ち込み、その後の回復も鈍いことがわかる。
しかも、嗜好型個人サービスは、2016年終盤から2017年前半にかけて比較的大きく上昇したものの、2017年半ば以降、再び低迷している。
このような家計消費の低迷の原因を考えるときに、多くの人が真っ先に思いつくのが、賃金上昇が十分ではないということだろう。だが、GDPベースでみた国民全体の給与総額である「雇用者報酬」の推移をみると(図表3)、実質(インフレ率で割り引いた)、名目とも、2015年半ば以降、上昇ピッチを高めている。
名目でみた雇用者報酬は、2006年から2007年の水準を超え、2000年の水準に近づきつつある。従って、賃金上昇が不十分、もしくは消費税率引き上げによる実質所得の低下が消費低迷をもたらしているわけではないと考える。これは、総務省の「家計調査」の消費と可処分所得のデータを用いて両者の関係をみた場合にも当てはまる。
2014年4月の消費税率引き上げ前までは、可処分所得と消費支出の間には正の相関関係がみられた(すなわち、可処分所得の減少は消費支出の減少をもたらす)。だが、消費税率引き上げ後は無相関になっている。
■貯蓄率はどうしたら下がるのか
それでは、所得低迷が消費低迷をもたらしている訳ではないとすれば、一体、何が消費低迷をもたらしているのであろうか。筆者は、貯蓄率の上昇に注目する。
そこで、貯蓄率の推移をみてみると(図表4)、消費税率引き上げをきっかけに急上昇したことがわかる。2016年終盤から2017年前半にかけて低下したが(この時期は、前述の「嗜好型個人サービスが拡大に転じた時期と同じである」、ここのところ、再び上昇に転じている。
この、所得が緩やかながらも増加に転じた局面での貯蓄率の上昇は、家計が、消費税率引き上げをきっかけに、将来に備えて貯蓄を増やし始めたことを意味する。「将来不安」といえば、一般的には、年金・社会保障支給に関する不安であると解釈され、それゆえ、増税や社会保障負担の増加などの必要性を訴える識者が多い。だが、現実の貯蓄率の動きはその見方と明らかに矛盾する。
消費税率引き上げは、明らかに将来不安を軽減する効果を持つはずなので、所得の増加を考えあわせると逆に貯蓄率は低下してもいいはずである。ところが貯蓄率の推移をみると、2006年3月の量的緩和解除をきっかけに急上昇していることに気づく。
これをみると、貯蓄率は年金・社会保障給付のような中長期的なタイムスパンで考えるべき「漠然とした不安」で変動するのではなく、政策転換による目先の経済変動に対する予想によって変動するのではないだろうか。
そう考えると、2014年4月以降の貯蓄率の上昇は、まだデフレ脱却が実現する前に消費税率引き上げを断行したことによる景気悪化に対する備え(予備的貯蓄)ではなかったかと思う次第である。
このように考えると、2019年10月の消費税率引き上げを撤回せずに様々な経済対策を施したとしても消費の回復はままならないのではないか。
安倍政権は、消費税率引き上げによる増収分の一部を子育て・教育関連支出に充てる方針を変えていないが、それは、子育てが一段落し、ようやく自分の老後のための蓄えを行う段階に入った中高年世代の消費をさらに冷え込ませるリスクがある。
また、過去の地域振興券などの所得補助の事例などをみれば、子育て世代が、その費用の一部を政府から補助してもらったとして、その分、他の支出を増やすかといえば、その保障は全くない。下手をすれば、「世代間の断絶」を促進させることになりかねないのではないかと筆者は危惧する。
その意味では、2019年の消費税率引き上げに関して、安倍政権は現段階でコミットせずに、デフレ脱却に全力で取り組む方が政権の安定にもつながるだろう。
逆に、野党の立場で考えれば、つまらない揚げ足取りで国会審議の時間を浪費するよりも、世代間の断絶をもたらさないような所得の再分配政策を考えるなど、経済政策で闘える余地は十分にあると思うのだが。
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