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3メガ銀行の大リストラ、中間決算に見る「構造不況業種」ぶり
http://diamond.jp/articles/-/150144
2017.11.23 週刊ダイヤモンド編集部
11月14日、3メガバンクグループの2017年9月期(中間)決算が出そろった。そこには金融危機なき“平時”に大リストラの断行を迫られる3社の姿があった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久、田上貴大)
「かつての富士銀行と第一勧業銀行、日本興業銀行が合併して誕生したのが、今のみずほ。往時の旧3行の実力を知る人間からすれば、そのみずほがメガバンクの中で万年3位であることは信じられない」
3メガバンクグループの一角、みずほフィナンシャルグループ(FG)の社外取締役は、そうした叱咤激励で社内の幹部たちの奮起を促してきた。そして、みずほFGの取締役会では、二番手の三井住友FGに「いつ追い付き、追い越すのかという議論を重ねてきた」(みずほFG幹部)という。国内最大手の三菱UFJFGでは、「現時点でターゲットにするには背中が遠過ぎるが、三井住友であれば現実的な目標といえる」(同)という考えからだ。
実際に2016年3月期決算の当期純利益において、みずほFGは三井住友FGを逆転。9年ぶりに2位と3位が入れ替わった。ところが、その1年後に17年3月期決算の中身を分析した佐藤康博社長は危機感をあらわにした。表面的な数字は良かったが、「基本的な収益力の低下傾向が分かった」(佐藤社長)からだ。そこで、今年4月に構造改革の検討チームを立ち上げたところ、社内から次々に問題点が上がってきたという。
そして、今年度はそれらが一気に顕在化。みずほFGの取締役会における議論の前提が崩れる事態が発生している。17年6月期(第1四半期)決算において、みずほFGは独り負けの状況となり、17年9月期(中間)決算でもその傾向に歯止めがかからなかった。三井住友FGの背中すらかすむ状況に陥ってしまったのだ。
ここからは下にある四つの図表に目を移しながら、その詳細を確認していこう。
まず、3メガの17年9月期決算の概要を並べた左上図を見てほしい。一般事業会社の売上総利益に当たる業務粗利益、営業経費、営業利益に当たる業務純益、当期純利益の4項目と、それぞれの前年同期比を示した。
これを見ると、みずほFGだけが全項目で悪化に直面し、減益に陥っていることが分かる。業務粗利益は前年同期比11.9%減の9598億円。業務純益は同40.1%減の2416億円。そして、当期純利益は同11.6%減の3166億円だった。
「独り負け」の理由について、決算会見で佐藤社長は「市場部門で差が開いた」と、再三にわたって説明した。そこで、右上図でみずほFGの業務粗利益の変動要因を以下の3項目に分解した。
(1)融資や有価証券運用などで得られる「利息(資金利益)」
(2)金融商品の販売、金融サービスの対価として受け取る「手数料(信託報酬+役務取引等利益)」
(3)金利や通貨、有価証券の売買で利益を稼ぐ「市場取引(特定取引利益+その他業務利益)」
それぞれの減益寄与度を見ると、利息が290億円、手数料が162億円だったのに対し、市場取引は847億円と最大。佐藤社長の言葉を裏付ける結果となった。
また、左下図では3メガの通期業績目標に対する17年9月期時点での進捗率を当期純利益ベースで示した。みずほFGの進捗率は57.6%と、折り返し地点の中間決算時点で50%は超えた。ただ、他の2社が66%以上であることを考えると見劣りする。
最後に、経営の効率性を示す経費率(営業経費÷業務粗利益)の推移を示した右下図を見てほしい。
経費率は値が小さいほど効率性が高いことを表すが、17年9月期時点のみずほFGの経費率は76.4%。三菱UFJFGの65.1%、三井住友FGの61.0%と比べ、突出して効率性が低い。分子の営業経費が増え、分母の業務粗利益は減少。二重に経費率が悪化した。
みずほFGが2017年9月期の決算発表資料に差し込んだページには「1.9万人減」の文字が躍る
こうした危機的状況に追い込まれたみずほFGは、今回の決算発表資料の中に「抜本的構造改革への取り組み」と銘打ったページを差し込んだ(写真)。その中で27年3月期末までに1万9000人の人員を削減すると宣言。グループ総従業員数7万9000人(臨時従業員約2万人を含む)の約4分の1に相当する、大規模な人件費削減策を打ち出した。
また、人件費と並ぶ銀行の二大コストの一つである物件費についても、25年3月期末までに店舗を現在の500から400に減らすことで抑える考えだ。
3メガで3.2万人超削減
最近になってコスト構造改革を打ち出したのは、みずほFGだけではない。相対的に好業績な三菱UFJFGと三井住友FGも程度の差はあれ、みずほFGと同様の苦境に立たされているからだ。
「この上期は、昨年以来懸念し、予見していたさまざまな事象が現実のものとなって表れた、厳しい決算だ」。三菱UFJFGの平野信行社長は会見でそう吐露した。
その背景には、日本銀行の金融緩和によって超低金利の状況が続いていることがある。その結果、銀行の中核的な利益である「利息」から得られる利益が右肩下がりとなっている。その中で最終的な業績の数字をつくるには、コストを削るしかない──。3メガの中では、そんな思考回路が働いているというわけだ。
そこで、3社は今後そろって大規模な店舗の統廃合や人員・業務のスリム化に本腰を入れる。その結果、みずほFGの1万9000人に加えて、三菱UFJFGで9500人、三井住友FGで4000人、3社合計で3万2500人もの人員が浮くことになる。
この数字はここ1カ月で何度もメディアの報道の見出しを飾り、銀行業界が大リストラ時代に突入したことを告げていた。
ただ、みずほFGと他の2メガの間には、この「大リストラ」に大きな違いがある。ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれるソフトウエアのロボットを導入して事務作業を自動化し、業務の劇的な効率化を図る方針はどこも同じ。また、三菱UFJFGは9500人、三井住友FGは4000人という人員を、営業などの他部門に回すことを想定している。
平野社長は「ルーティンワークに携わっていた人材を創造的な仕事に振り替えていくことが最も重要」と語り、三井住友FGの國部毅社長は「人員を削減するということはなく、あくまで業務量の削減」と答えた。
ところが、みずほFGは様相が異なる。「1万9000人の従業員を実数で減らしていく」。佐藤社長は会見の場でそう明言したのだ。
下図は、三者三様である3メガの人員・業務量削減のスケジュールをまとめたものだ。単純計算で1年当たりの削減数を算出しても、他の2メガが1100〜1400人分の業務量削減であるのに対して、みずほFGは1900人の従業員削減と、踏み込んだ数字となっている。
また、今回の決算会見では他の2メガにも店舗数の削減に関する質問が飛んだが、平野社長は、「何も決まっていない」とぴしゃり。「来年5月の通期決算発表で、中期経営計画について話すときに伝える」とシャットアウトした。
実際は「具体的な店舗名まで出して店舗の統廃合を検討している」(三菱UFJFG幹部)が、今回は店舗削減について何も言及しなかった三菱UFJFG。一方で、投資家などの手前、このタイミングで従業員の実数と店舗数の削減という“カード”を切らざるを得なかったみずほFG。そんな対比を映し出す決算でもあった。
出資先や連結子会社を選別
今回の決算発表前に話題となった3メガの大リストラは、人や店舗だけにとどまらない。
例えば、下図のように、三菱UFJFGのアジア戦略でも「取捨選択」が行われた。
11月、三菱UFJFGがインドネシアのダナモン銀行への出資を検討していることが表面化。平野社長は「私たちが何かを決めたという事実はない」としながらも、「ベトナム、タイ、フィリピンとASEAN(東南アジア諸国連合)地域の事業基盤を5年前からつくり始めた。その次に投資する国があるとすればインドネシア」と、展望を語った。
その一方で、今年9月には同じASEANでも、マレーシアの金融グループであるCIMBグループホールディングス(HD)の全保有株式を売却した。戦略性や資本効率、採算性などの観点から、出資先の選別が行われている。
また、下図のように、三井住友FGではグループ内再編による「選択と集中」が急ピッチで進む。
昨年10月に資産運用会社の三井住友アセットマネジメントを直接子会社化。18年1月には、傘下のSMBC日興証券とSMBCフレンド証券の合併が予定されている。そして4月には、間接的な連結子会社である地方銀行のみなと銀行(兵庫県)と関西アーバン銀行(大阪府)を、りそなHDに売却することで非連結化。持ち分法適用会社としての関係に変更することになっている。
さらに、11月には住友商事と共同運営するリース事業の再編にも着手。三井住友ファイナンス&リースへの出資比率を60%から50%に引き下げ、その関連会社を含めて連結子会社から持ち分法適用会社に変更する方針を決めた。このことで、現在は銀行法で制限がかかっていた一部のリース事業も手掛けられるようになる。
構造不況業種化した銀行業
今年10月24日、日経平均株価は過去最長となる16連騰を記録した。また、11月9日には約26年ぶりに2万3000円の大台を一時突破。さらに、17年9月期決算の発表では、過去最高益を更新する上場企業が相次ぐなど、最近は景気のいい話に事欠かない。
それにもかかわらず、そして、バブル崩壊やリーマンショックといった金融危機がない“平時”にもかかわらず、銀行業界の国内トップ3行が大リストラの断行を迫られている。
その姿は、「構造不況業種」と呼ばれるようになった銀行業界の苦境を如実に映し出している。
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