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日産の検査不正に国交省が激怒する本当の理由
http://diamond.jp/articles/-/150439
2017.11.22 井元康一郎:ジャーナリスト ダイヤモンド・オンライン
記者会見する日産の西川社長 Photo:つのだよしお/AFLO
日産自動車は11月17日、国土交通省に無資格者による検査問題について調査報告書を提出した。その日の夕方に記者会見を開いたが、その様子は決してほめられる内容ではなかった。いまだに国土交通省側は怒り心頭の様子だ。なぜ、国交省は日産を許せないのか、どうして日産のシンボルである名経営者のカルロス・ゴーン氏は表に出てこないのか。(ジャーナリスト 井元康一郎)
歯切れの悪さが目立った
西川社長の会見
「あなたたちにとって、ゴーンさんに傷一つつけないのがそんなに大事なことなのか」――。
思わずそう言いたくなる会見だった。
工場から出荷される車が国の保安基準に適合しているかどうかをチェックする完成検査で“不正”をしていたことが発覚した日産自動車。生産の停滞により、中間決算で営業利益を当初見通しから400億円減の下方修正を行うなど、ビジネスに少なからず影響が出ている。
その混乱になるべく早く区切りをつけたい日産は11月17日、国土交通省に調査報告書を提出。同日夕方、西川廣人社長が記者会見を行い、事のあらましと今後の展望について説明した。
その説明自体は原因究明、再発防止策から人員増強まで網羅された懇切丁寧なものだった。それがしっかり行われれば、少なくとも完成検査について今後、突っ込まれるような事態が起きる可能性は低いであろう。また、完成検査だけでなく、さまざまな分野において法令違反がないかどうか再点検していくと表明。これらの説明は完璧に近いものがあった。
にもかかわらず、会見は終始、歯切れの悪さのほうが目立った。
最大の理由は、過去にさかのぼっての経営責任、ありていに言えば日産がルノー傘下に入り、カルロス・ゴーン氏が経営の指揮を執ってきた時代の“清算”をどうするかということについて、何ら言及がなかったことであろう。
記者からは幾度も「経営責任をどう考えるのか」という質問が飛んだ。それに対して西川社長は、
「過去にあまりとらわれず、今を良くしていくことが現経営陣の一番の責務。これからの仕事ぶりで評価してほしい」
「経営陣は状況のすべてを聞かされていたわけではない。現場のニーズを掌握し、それを的確に経営陣に伝えるべき現場のリーダーの資質にばらつきがあった」
といった説明に終始した。
役員報酬の金額や割合も明示されず
ゴーン氏を含む他の役員についても触れず
言っていることは正しい。
起こってしまったことはなかったことにはできないし、別に完成検査の不備で死傷・物損事故が起きたわけではなく、背負う十字架があるわけでもない。顧客にリコールの面倒をかけるというのは痛いことではあるが、今後、こういうことがないようにすれば取り返しがつく話である。
そうなのだから、ここは素直に「我々経営陣がしっかりしていなかったのが悪かった」と、これからが大事と言う前に責任を認めればよかったのである。
ところが、西川社長のモノ言いは、まるで自分たちの責任をまったく認めようとせず、都合が悪くなると“結果的に”と、まるで仕方がなかったことのように言う、霞が関の官僚の態度を彷彿とさせるものだった。
西川社長は10月から今年度末までをめどに、昨年実績で約4億円という役員報酬の一部を自主返上していることを明らかにした。
ところが、その額はいくらなのか、割合さえも明らかにされなかった。また、いまだ日産の要職にあるゴーン氏を含む他の役員についてはどうなのかと聞かれても、
「今は社長の私が自主返上するということで、ゴーン含め誰がどのくらい返上するかといったことについてはこの場で申し上げることは差し控えたい」
と繰り返すばかり。
最も良くなかったのは、“豪腕経営で鳴らしたゴーン氏の拡大路線がこの事態を招いたのではないか”、“何でゴーン氏がこの場にいないのか”といった類の質問への応対だった。
「現場から細かいところまで報告されておらず、ゴーンが検査員不足を知っていたわけではないので、責任があるという指摘は当たらない」
「人手不足はうちだけでなく、団塊世代が大量離職する一方で若年労働者は少なくなるという状況が生んだ業界全体のこと。ゴーンの拡大路線のせいではなく、所要人員を満たせなかった我々の責任」
「執行責任は私(西川社長)にあるので、私が説明させていただくのは妥当」
などと回答していた。
日産とスバルの会見イメージの違いは
トップとしての度量
社内の風通しを良くできなかったのはゴーン氏の責任という側面もあるだろう。また、「人員不足はうちだけではない」というのは、「不正がなかった」としている他のメーカーにも失礼な物言いだ。他のことについては、責任は回避しながらも筋が通っていたのだが、ゴーン氏を擁護する発言だけは、筋が通っているとは到底言い難いものだった。
情けないのはゴーン氏だ。
不祥事があったからといって別に辞任しなければならないわけではないし、倒産寸前だった日産をこれだけの成長路線に引き戻したという功績はすでに確固たるものになっている。現CEO(最高経営責任者)は西川社長だが、日産の顔役といえば今も圧倒的にゴーン氏なのである。
そんな人物が過去の至らなかったことを反省し、改めて将来のビジョンを語れば、日産のブランドイメージ回復に大いに寄与したことだろう。年間10億円ももらっておきながら、自分が批判の矢面に立つのがそんなに嫌なのかと、誰でも呆れるところだろう。
完成検査問題が取り沙汰されたのは日産とスバルの2社。
検査体制に問題があることを自覚していたかどうかの違いはあるが、未熟な人物に検査をさせていたのではなく、検査員の養成を過剰なほどのプロフェッショナリズム精神で行っていたことが問題の引き金になったという点は両社共通。また、説明の内容もほとんど同一だ。
その日産とスバルの記者会見のイメージに大差が出たのは、“社の問題は自分に責任がある”というトップとしての度量をどのくらい示せたか、というところが大きかったのが率直な印象だった。
「ゴーン氏が出てきて、素直に謝ってしまえばよかったのに……」と思うのは、イメージの問題だけではない。
旧建設省ではトンネル崩落や耐震偽装、旧運輸省では燃費偽装、完成検査不備とロクな話が出ていない国交省の官僚たちは今、メンツを保とうとムキになっているという話がある。
「泣くこと地頭には勝てぬ」という諺があるが、ゴーン氏が出てくれば“彼らの顔を立ててやる”という効果は絶大だったろう。
完成検査について批判の矛先が
国交省に向くのは避けたい
国交省も、本当に商品がちゃんとできているかどうかも覚束なかった自動車産業の黎明期に作った完成検査制度を、技術の進化をまったく無視して半世紀以上も放置していたとして、批判の矛先が自分たちに向くのは避けたいところなのだろう。
これは車検制度の根幹に関わる問題でもあるからだ。
一応、改善のポーズは取るようだ。完成検査の制度自体はなくさないが、現代の実情に合うような方法を検討するタスクフォースを立ち上げるという発表を11月21日に行った。
だが、有識者の陣容を見てみると、弁護士、学者、ISOのプロフェッショナルで、完成検査と品質検査双方の知見を持つ生産のプロは入っていない。“今のシステムをなるべく維持したい”という本音が見え隠れする。
国交省に詳しいある事情通は、国交省関係者から断続的に日産に関するネガティブ情報がリークされているという。これは昨年、三菱自動車が燃費偽装で糾弾されたときと似た手法だ。
三菱自は燃費偽装の業務改善の中でさらに偽装をしていたと国交省が発表し、轟々たる避難を浴びた。
しかし、2度目の偽装は実は国交省が一旦そのやり方でOKと言っておきながら、途中で手のひらを返した結果起こった、というより作られてしまった偽装だったという話が、当時いろいろなところでささやかれていた。糾弾される相手が何も言えないときの常套手段という観すらある。
もしネチネチとした嫌がらせを波状的にやられるようものなら、損をするのは日産側である。リスク回避を考えるなら、ゴーン氏が出てきて謝罪するのが日産にとって一番良かったのではないか。「負けるが勝ち」である。
ゴーン氏は経営者として
肝心な「求心力」を失いかねない
このまま問題が収束すれば、ゴーン氏は自分の体面を傷つけず乗り切ることになるが、あえて日本流に言うならば、少なからず“男を下げた”格好だ。今まで言っていた格好いいことは何だったのかと思った関係者も多いことだろう。
確かに、企業経営において、“潔さ”は少しも美徳ではない。徳川家康やチェーザレ・ボルジアのように、機を見るに敏で、攻め時と見れば手段を選ばず仕掛けるのは経営者として“必須の才覚”と言える。
それでも、経営者にはもう一つの必須ともいえるファクターがある。
それは「求心力」だ。
求心力は、決して強権だけでは生まれない。トップが求心力を保つ上で絶対にやってはいけないことは、皆が注目するような大舞台で自分の保身のために下に詰め腹を切らせることだ。
「ルノー=日産=三菱自」というアライアンスの関係を考えれば、今回の件でゴーン氏の強固な権力基盤が急に失われることはないだろう。
だが、肝心な求心力は徐々に弱まる可能性がある。その時には、西川社長以下、日産の現経営陣が真に経営者として振る舞わなければならない。果たして、それができるかどうか――。
少なくとも今回の会見では、その気配は感じられなかった。
もっとも、今回の件で西川社長が経営者として取り返しのつかない失態を演じたというわけではない。会見で当人が述べたように、大事なのはこれからである。日産を率いる経営者としてどれだけ大きくなれるのか、要注目である。
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