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年金は月6万5千円以下…難民化する老人激増の実態
http://biz-journal.jp/2017/11/post_21407.html
2017.11.19 取材・文=武松佑季 Business Journal
「それでリンゴがいくつ買えるのかい?」
“消えた年金”問題により、25年間も身寄りのない苦しい無年金生活を強いられていた85歳のおばあちゃんは、事務的なミスが発覚したことで、約3000万円の年金を新たに受給できると伝えられて、そう聞いた。金銭感覚がなくなってしまっていたとのことだ。
これは書籍『ルポ 難民化する老人たち』(イースト新書/林美保子)のなかで紹介されているエピソードである。老いは恐怖だ。体の自由はきかなくなるし、考える力も低下する。そして、何より問題なのが経済的な困窮といえる。
厚生労働省の施設等機関である国立社会保障・人口問題研究所によれば、2035年には総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が33.4%となるという。となれば、高齢者問題は今以上に日本の大きな課題となる。
本書は、底をつく老後資金や孤立死、介護施設不足問題など高齢者と彼らを支える人々の悲しい実情を、多くの取材を通して伝えている。今回は、その著者で自身も62歳と老後に不安を抱えるフリーライターの林氏に、決して他人事ではないこの問題について話を聞いた。
■高齢者貧困問題の要因は核家族化
――高齢者問題をテーマとした著書を取材、執筆するに至った経緯を教えてください。
林美保子氏(以下、林) 数年前に日刊ゲンダイで年金生活者を取り上げる連載を担当し、そこで高齢者が生きにくい世の中になっていると実感し、本書の企画を出すことにしました。私自身、この連載を担当するまでは、そこまで問題意識を持っていたわけではなく、むしろ私たちの世代は悠々自適とまではいかなくとも、公的年金が老後の生活を保障してくれると思っていました。ですが、実際はそれどこか、悲惨な生活を送っている高齢者が本当に多い。その実態を知ってもらいたかったのです。
――どういった人に読んでもらうことを意識しましたか?
林 当事者である中高年から高齢者はもちろん、若い人にも向けて執筆しました。実際にインターネットのレビューなどでは若い方から「身につまされる」「他人事じゃない」といった反響もいただいて、なかには「全編を通して暗くて悲惨な内容なので、気が滅入ってしまった」という声を頂戴することもありました。
――私も読んでいて、将来に対してひたすら絶望感を覚えました。特に国民年金の支給額が6〜7万円しかないというのは、恥ずかしながら初めて知りました。
林 今年4月から国民年金支給額が1年間で約77万9300円となり、これを月に換算すると6万5000円を切ります。国民年金は厚生年金よりも安いのは知っていましたが、私もまさかこんなに安いとは思いませんでした。この額でどうやって生活していくのかと。今の若い方は非正規雇用の方も増えていると聞きますし、この額で1カ月を生活しなくちゃいけない高齢者が将来的にもっと増える可能性もありますよね。
――やはり超高齢社会のなか、一人当たりの高齢者を支える現役世代が減っていることが、国民年金の支給額がどんどん減ってしまっている原因なのでしょうか?
林 国民年金の支給額が近年大幅に減っているかといったら、そうではないのです。支給額が一番多かった年が1999年ですが、そのときですら年間80万4200円で、現在と大差ありません。では、なぜこれほどの少額でも今まで問題にならなかったかというと、それまでの日本は家族主義で、高齢者の多くは家族と同居していたので固定費がかからなかった。それが今は核家族化によって、ひとり暮らしをする高齢者も多く、その人たちは年金で衣食住のすべてを支えなくてはいけない。それが原因なんです。
■多角的に問題提起
――このような高齢者の貧困問題について、超高齢社会が進んだ近年、報道量が増えている印象です。
林 一昨年、藤田孝典氏の『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新書)という本をきっかけに、テレビなどで広く取り上げられるようになりました。みんなが「こんなことに困っている高齢者がこんなにたくさんいるんだ」「自分の老後はどうなるんだ」と現実をつきつけられて、危機感を煽られたでしょう。
――年金問題だけでなく、本書では多角的に高齢者問題を紹介しています。底をつく老後資金や孤立死、介護施設不足問題、高齢者を狙った詐欺の話にいたるまで、老後はこんなに恐ろしいことが待っているのか、と思わせるような構成でした。
林 2015年くらいから取材を始めたのですが、進めている間にテレビが高齢者問題の特集をあまりにやるものですから、当初の構成だと二番煎じになってしまう。それで「底をつく老後資金」「ケアメンの辛い生活」「フリーランスの末路」「孤立死」「年金パラサイト」「ハウジングプア」「介護施設不足」「老後資金を狙った詐欺」「支払えないローン」の9つの章に分けることにしました。
――二番煎じを避けるために多角的に取り上げようと?
林 そうですね。ネットのレビューには総合的な内容で一つひとつの問題を深堀りしていないという意見もありましたが、私の意図としては、高齢者に関する仕事をするような専門家に向けて書いたわけではなく、現状高齢者問題に直面していない人に、さまざまな事例でこんなにも困っている高齢者がいるんだよ、と知ってもらいたかった。
――確かに、このような章立てによって、多くの人が当てはまる、もしくはいくつか当てはまるような内容になっていると思います。
林 そうですね。だから「私は普通のサラリーマンだから関係ない」ではなく、誰しもが老後についてしっかりと考えるべきだと思います。
■不安のない老後を過ごすには
――では、まだ老後が先に控える世代が今のうちにやっておくべき対策は、どんなことがあるのでしょうか?
林 若い人の場合は、公的年金に頼らないという認識を持って、少しずつ準備をしておく必要があります。私の場合、たまたまではありますが、35歳くらいのときに生命保険会社の個人年金に加入していました。ただその年金を支給できるのは60歳から69歳までの10年間なので、最近70歳から15年間支給される別の個人年金にも加入しました。今は不景気なので利率がそんなによくありませんが、これがだいぶ助かるんです。そういった商品は利用したほうがいいでしょうね。国に頼っていてはダメ、ということです。
――では、定年が近づいている世代は?
林 私は、定年を過ぎても70歳くらいまでは老後資金を貯めるべき、と考えています。ある調査では、高齢者の身体能力は10年前に比べて11歳も若返っているんだそうです。そして、もう少しすると日本人の平均寿命は90歳にも届くといわれています。60歳で定年退職しても、あと30年あるんですよね。なので、まだ働ける70歳まではしっかりとお金を貯めると。4、5年前は定年後の第2就職先はあまりなくて、あってもブルーカラー的な仕事が多かったのですが、最近は労働力不足から高齢者を活用しようという動きがあり、ホワイトカラー層的な仕事も増えるとともに、再雇用契約を延長するケースも出てきています。
――やはり、自分の老後は自分でしっかり考えなくてはいけない、ということですね。では最後に、この記事を読んで高齢者問題や本書に関心を持った読者に、メッセージをお願いします。
林 本の内容は暗く滅入ってしまう部分も多いと思うのですが、こういった問題から目を逸らさずに、現実を見据えて、今後の人生の生き方の参考にしていただきたいですね。
――本日はありがとうございました。
(取材・文=武松佑季)
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