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「俺が憲法だ!」クビ切り社長が食らった法律の手痛いしっぺ返し
http://diamond.jp/articles/-/149317
2017.11.14 木村政美:社会保険労務士 ダイヤモンド・オンライン
あなたの勤め先は働きやすい環境だろうか。世間には、社長が気に入らない社員を冷遇したり、理由をつけてクビにしてしまったりする働きにくい職場がある(写真はイメージです)
中小企業の社長を見ていると、労務管理に関して法令などを自分勝手に解釈して運用するところがある。俗に言う「社内では俺が憲法だ」タイプの人である。もし、社員が「憲法」に背く行為をすれば、たちまち会社に居づらくなってしまう。今回は、勤務時間中、社員が無断で行ったことに対し、社長が下した行為の是非について考えてみたい。(社会保険労務士 木村政美)
<甲社概要> 地元では中規模の食品卸売業。会社設立から今年で20年目。現在の従業員は50名。総務課はあるが、社内人事に関しては社長が自ら行っている。 <登場人物> A:甲社の社長。50代後半 B:新入社員(女性) C:Bの同僚(男性) D:A社長の大学時代の友人で社労士 |
「おれが憲法」社長の会社は
人材流出が止まらない
甲社では毎年新卒者を数名採用しているが、そのほとんどが地元にある乙専門学校の学生である。A社長と専門学校の校長が懇意にしている関係で、毎年優秀な学生が入社してくる。
A社長は仕事に関してはなかなかのヤリ手。これまで事業の売り上げは順調に推移してきたが、人材が育たないのが社長の悩みであった。なぜなら1年間で10名以上の社員が退職してしまうからだ。そのため社員の平均勤続年数は短く若手が多い。社長は基本的には面倒見の良い性格で、若手社員を自分の子どものようにかわいがっていたが、その反面、自分が気に入らなくなった社員に対しては冷遇したり、場合によっては理由をつけてクビにしてしまったりすることが少なからずあった。
また労務管理に関しても、法令などを自分勝手に解釈して運用するところがあり、俗に言う「社内では俺が憲法だ」タイプである。もし、社員が憲法に背いた行為をすれば、たちまち会社に居づらくなってしまうのだ。
やけど治療による通院で早退の社員と
高熱で休んだ別社員の家で鉢合わせ
11月のある日、新入社員のBが自宅で足にやけどをしてしまった。
「やけど治療のため、医者から2週間毎日通院するように言われたので、その期間、会社を1時間早退させていただきたいのですが……」
Bの申し出に、社長は快く了承した。そして、「たかだか1時間の早退だし、そのことで業務に支障は出ないだろう」と思い、毎日1時間分の賃金カットはせずに、通常の出勤扱いとして処理した。
それから1週間後のことである。Bの同僚であるCが40度近い高熱を出し、会社を休んでしまったのだ。
「Cは確か一人暮らしだったな。心配なのでお見舞いがてら様子を見に行くか」
次の日の夕方、社長はCのアパートを訪ねた。
「あはははは……」
玄関前に来ると、部屋の中から笑い声が聞こえてきた。誰かお見舞いに来ているようだ。A社長はその様子に少し躊躇したものの、チャイムを押した。するとドアが開き、パジャマ姿のCが出迎えた。そして部屋の中を見てびっくりした。そこには、会社を早退して病院に行っているはずのBがいたからである。
社長がBに事情を聞くと、Bは別に悪びれる様子もなく答えた。
「Cさんが病気だと聞いたのでお見舞いに来ました。なので今日は病院を休みました」
社長はその態度に絶句してしまった。
Bを社長室に呼び出し、
「クビ」を言い渡す
翌日の朝、社長はBを社長室に呼び、Bには弁解の余地を与えることなく一方的に言い渡した。
「君は会社にウソをついて早退したわけだな。もう明日から会社に来なくていいよ。クビだ!クビ!」
A社長が怒りを込めて放った言葉にBはショックのあまり「ウワーーーーーン!!!」と泣き叫んで社長室のドアを開け、会社から飛び出していった。その後Bが出社することはなかった。
数日後、Bの両親と専門学校の教員が会社にやって来た。そしてBの父親は、社長に向かって大声でまくしたてた。
「ウチの娘をクビにしたとはどういうことだ!」
社長はこれまでの経緯を説明したが、父親は納得しなかった。
「娘が会社の許可を得ないで勝手に同僚の見舞いに行ったのは悪かった。しかし、こちらが言いたいのは、そんな理由で即刻クビにできるのかということだ。その辺はどうなんだ?何なら労働基準監督署に訴えてやる!」
母親も負けてはいない。
「あれから娘はショックで毎日泣いています。一体どう責任を取ってくれるんですか?」
さらには教員まで強く抗議した。
「今回の件では校長も怒っています。こんな理由でウチの卒業生をクビにするのであれば、次年度から学生の紹介は考えさせてもらいます」
社員を簡単に「クビ」にできると
考えている社長が意外にも多い!
困った社長は、大学時代の友人でもあるD社労士を訪ね、Bに関するこれまでの経緯を話し、アドバイスを受けることにした。
「会社に対してウソをついて休んだから、クビにしたけど、まさかあんなに大騒ぎになるとは思わなかった」
「この件では確かに、Bさんにも悪いところがある。治療が原因で早退を認められているのだから、見舞いの件は事前に会社へ相談するべきだったよね。なのにそれをしなかった」
「その通りだ」
「しかし、だからといって、その理由だけでBさんを即刻クビにしたのはマズかったね。社員をクビにするなら、それ相応の理由が必要だ。例えば重大な罪を犯したとか……ましてや弁明の機会もなく即刻クビなんて無理な話だ」
「じゃあ、今回の場合はどうなんだ?」
「うーん、Bさんの行為は厳重注意をするか、始末書を書かせるくらいの扱いになるんじゃないかな」
「処分が厳しすぎで、俺が間違っていたってことか?」
「そうだね。いまだに従業員を簡単にクビにできると考えている社長が意外に多いけど、そんなことはできない。それに、社員をクビにしてから社労士に『これで良かったんですかね?』って相談してくる会社があるけど、クビにする前に相談してほしいよね」
「俺はこれからどうすればいい?」
A社長は、すっかり青ざめた顔で尋ねた。
「まずは、明日にでもBさんに会うことだね。労働基準監督署どころか、もしユニオンや弁護士に相談されたらかなり厄介なことになるかもしれないよ」
D社労士のアドバイスは以下の通りである。
(1)即刻Bと面会をする。懲戒解雇は無効であるから、会社への復職を勧めること (2)Bがもし退職を希望した場合の対処について考えること (3)Bが精神的苦痛を訴えているとのことであり、Bから慰謝料の請求があるかもしれないことを想定して対応を考えておくこと。慰謝料を求められた場合は弁護士に相談すること (4)乙専門学校側への対応を考えること |
アドバイスを受けたA社長は、早速B宅に赴き、まずはBとその両親に謝罪、復職を求めた。しかしBは「もう退職をしたい」と結論を出した。そこで会社はBに対し、未払い分の給料と30日分の解雇予告手当を早急に支払った。そして弁護士との相談の上、今回の件でBが受けた精神的ショックを勘案して、見舞い金を支払った。Bはその後、気分も落ち着き、1ヵ月後就職が決まった。
また社長は専門学校にも行き、校長に対して今回の件について一部始終を報告するとともに謝罪した。話を聞いた校長は来年度以降も引き続き学生紹介することを了承してくれた。
社労士から有給休暇に関する話を聞き
社長は就業規則や規程などを見直す
後日、社長はその後の状況報告も兼ねて、D社労士と居酒屋で飲んでいた。
「俺は納得できない!Bは優秀な社員で期待していたし、その彼女がやけどを負ってかわいそうだと思ったから、早退分カットなしで給料を払ってやったのに……。まるで裏切られた気分だ!」
「お前の気分次第で労務管理を扱うから、おかしなことになるんだ。今回の場合はBさんに有給休暇を取ってもらえば問題なかったんじゃないの?あっ、そうそう、その有給だけど、今では年間5日以内だったら1時間単位でも取得可能(*)だよ」
「えっ、ホント??知らなかった。有給って1日とか半日単位で取るんじゃないの?それどこに書いてあるの?」
「労働基準法第39条4項だね。詳しい内容はこの紙に書いておいたから確認してみるといいよ」
「わかった。ありがとう」
「これからの労務管理は、就業規則や規程などに基づいて運用していくのがいいと思うよ」
*時間単位の有給休暇制度について:時間単位で取得できる有給日数は勤続年数に関係なく、1年間に最大5日までとなっている。
D社労士は続けた。
「会社の人材不足はどんどん深刻化しているのに、せっかく入社した社員をお前の気分次第で冷遇したりクビにしたりするのはどうかな?『甲社はすぐに社員をクビにする』という悪い評判がドンドン広まったり、『甲社はブラック会社だ!』と就職関係のサイト上に書き込まれたりして、採用活動に苦労するよ」
A社長はその後甲社の就業規則や規程、人事考課基準等の見直しを行った。今回の件に関しては、これまでも通院に対して温情で賃金を払っていたこともあったが、有給休暇を1時間単位で取得できる制度を導入することにした。また、他の点に関しても社長の感情で労務管理をすることは止め、就業規則などに則って行うようにした。
その後、社長の努力の甲斐もあって、退職する社員は大幅に減った。若手が多く活気のある会社なので、人材を上手く活用できれば、これからも業績は伸びていくであろう。
今回のケースを見て、社長がBをクビにした行為を正しいと思われた方も少なくないかもしれない。しかし、社員を懲戒解雇することは、たとえば重大な罪を犯すといった相当の理由がないと不可能だし、ましてやもし懲戒解雇の対象だったとしても、即刻クビにはできないのである。
もう1つは、有給休暇を時間単位で取得できることだろう。この話が出てきて驚かれる方も少なくない。実は有給に関する法律は労働基準法第39条に定められているが、法改正で時間単位に関する法律が4項に新たに定められ、2010(平成22)年4月1日から時間単位で有給休暇を取得できるようになったのである。ただし、この制度はそのまま適用できず、導入する場合は労使協定を締結しなくてはならないことを知っておいてほしい。
※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。
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