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話題のVR旅行、6千円で実に楽しかった…往復20時間かかる海外旅行の必要性が議論に
http://biz-journal.jp/2017/10/post_21102.html
2017.10.27 文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役 Business Journal
VR(Virtual Reality:仮想現実)が、かなり身近なものになり始めている。大手家電量販店でもVR機器の販売コーナーが出来上がっているし、VRを活用したゲームもシューティング、ホラー、パーティーゲームなどさまざまなジャンルが登場し、人気を集め始めている。
そんななか、ある大手旅行代理店が運営するVR旅行体験に申し込んでみた。東京の池袋にあるこのサービス、テレビでも何度も取り上げられたこともあり、なかなかの人気になっていて、予約表を見ると1カ月半ぐらい先まではかなり席が埋まっている状態だ。
さて「席が埋まっている」と言ったが、このサービスの特徴を先に簡単に説明しておこう。
来店してみるとわかるが、航空会社のフライトを模したサービスになっていて、座席はファーストクラスとビジネスクラスに分かれている。完全予約制のフライトは日時ごとに行き先が異なっており、現在はパリ、ローマ、ニューヨーク、ハワイの4路線が就航しているという設定だ。
ネット上で行き先と搭乗クラスを決めて、予約した時間に来店すると、航空機の座席へと案内される。私が搭乗したファーストクラスは実際の航空機のファーストクラスの座席とそっくりだ。いつもはビジネスクラスに搭乗するので、かなりゆったりとした広めの座席を楽しませていただいた。
全員が着席すると模擬フライトが始まる仕組みだ。メインのサービスコンテンツは2つあり、ひとつがVR用のヘッドマウントディスプレイを装着したVR旅行体験、そしてもうひとつが本格的なシェフの調理による機内食体験。ファーストクラスとビジネスクラスではこの機内食の内容が異なっている。
現在はキャンペーン価格でファーストクラスのVR旅行が5980円、ビジネスクラスが同じく4980円となっている。仮想旅行体験として考えると、かなりお得な内容である。
とはいえ、いったいどのようなものか? 私の場合、この分野が将来どのようにビジネスに広がるのか興味があったので、取材半分、楽しみ半分で申し込ませていただいた。ただ、本当はパリに行きたかった(フランス料理が食べたかった)が、忙しい日程のなかで空席があったのがニューヨークだったので、今回は泣く泣くニューヨークに出かけることにした。
なぜ「泣く泣く」なのかも解説しておくと、仕事で数カ月に一度、ニューヨークは必ず出張に出かけているのだ。なので、ニューヨーク市内観光も、ニューヨークリブステーキも、どちらもかなり飽きがきている。ただ逆にいえば、それだけニューヨークに出かけている者の立場でこのVR体験を評価できるので、取材的には一番良い行き先を選んだともいえる。
■これはかなり良い体験である
実際に体験をしてみてどうだったのか。全般的に「実に楽しかった」というのが、まずはの感想。後で詳しく解説したいのだが、注目のVR体験だが、確かに画質は現時点ではいまひとつ粗い。また時間が10分程度と物足りないといえば物足りない。
とはいえ、ニューヨークに頻繁に出かける立場でいえば、実際にニューヨークに行って体験できるのは、ほぼこんな感じで間違いない。往復26時間かけて出かけるよりも、池袋まで電車で6分で同じ体験ができると考えれば、これはかなり良い体験である。
そしてもうひとつの楽しみの機内食だが、これは実によくできている。施設内に大規模な厨房は見当たらないことから、近所の本格的なお店からケータリングで持ち込んでいるのだろうか。いずれにしても、ニューヨークの有名店と比較してそん色のない食事が提供されている。
■代替財
さて、経済コラムとしてはここから本題に入らせていただきたい。現状でもここまで良いVR海外旅行体験ができるとすれば、これから先、さらに内容が充実した場合に、いったいどこまで仮想旅行体験は進化するのだろうか。そしてそのとき、リアルな海外旅行需要は減少していくのだろうか、それとも逆に増えるのだろうか。
すでに述べたように、今回体験したVRは時間も10分と限られているし、画像解像度はかなり粗い状態のものだった。もしこのまま技術が進化すればハイビジョン上の4K画像を提供することも可能だろうし、10分ではなく2時間でも8時間でも仮想旅行コンテンツを用意することは可能である。
しかし、そのようなサービスが登場して、それが本物のニューヨーク旅行体験とまったく遜色のないものだったとしたら、われわれはわざわざ往復26時間かけてニューヨークに出かける必要があるだろうか。
あるサービス商品が登場した際に、既存の別の商品の売上がそれに従って減少してしまうような場合に、このふたつの商品は「代替財である」という言い方をする。ビールとチューハイ、外食産業とコンビニ弁当、スマホと格安スマホはすべて代替財であり、後者の需要が増えれば前者の売上は減ってしまう。
リアルな旅行商品である「ニューヨーク旅行」は、VRによる「仮想ニューヨーク旅行体験」と代替財である可能性は十分にある。もしその通りであるとすれば、世の中にたくさんの類似サービスが登場して、気楽に海外旅行の疑似体験を楽しめるようになるとすれば、わざわざ苦労をして、混雑する機内で我慢しながら、長時間かけて旅行に出かける必要はなくなるかもしれない。
たとえば、パリからさらに片道5時間かけてあこがれの世界遺産モンサンミッシェルに行くよりも、VRでいきなりモンサンミッシェルに渡る橋のところに出現して、そこから歩きはじめて、3時間たっぷりモンサンミッシェル入口の参道のにぎわいから、寺院の中をくまなく見学できたとしたら、それは素晴らしい体験かもしれない。さらにツアーの最後に名物のオムレツを堪能することができれば(注:モンサンミッシェルのオムレツは実際、東京の丸の内で販売している)、仮想ツアーとしての完成度は現実の旅行に比肩する可能性はある。
同様に、ケニアのサファリツアーや、ペルーの空中遺跡マチュピチュ、壮大なヒマラヤ山脈のトレッキングツアーなど、行きたくてもなかなか行けないような場所への仮想VRツアーであれば、これまでになかったほどの新規需要を生み出せるかもしれない。
■補完財
そうなるとリアルな旅行業は今後、縮小していくのだろうか?
いや、もうひとつ別の考え方がある。VRの仮想旅行商品はリアルな旅行の「補完財」になるかもしれないのだ。
ひとつの商品の需要が伸びると、それにつれて同じように需要が伸びる商品のことを補完財という。パンが売れればバターやマーガリンも同じように売れる。自動車が売れればガソリンも売れる。それと同じ原理で、VRによる仮想海外旅行の需要が増えるにつれて、「こんなに素晴らしいのだったら、一度、本当のニューヨークを見てみたい」と思う人が増えることで、海外旅行の需要が増えるといった現象が起きるとすれば、旅行とVR旅行は補完財になるのである。
こちらのシナリオも十分にありそうだ。実際、私の場合、可能なら年に2回、長い休みを取ってハワイに出かけたいと考えている。それでハワイに行くことができない日常の中では、ハワイの映像を収録したブルーレイの映像ソフトを大画面テレビで流して自分自身を癒している。そうしてハワイの映像を見れば見るほど、私の心はハワイに行きたくなってしまうのだ。
また、実際に行ったことがない人に対しての仮想体験は旅行商品の販売にプラスになる要素が多い。たとえば豪華客船クルーズという旅行商品がある。これは行ってみるとわかるのだが、豪華客船が立ち寄るそれぞれの停泊地での観光もさることながら、豪華客船の船内にあるさまざまなエンタテインメント体験がクルーズの醍醐味である。
そういったことは口で説明してもなかなかわらかないものなのだが、最近ではクルーズ商品の販売現場でこのVRがとても役に立っているというのである。
さらに可能性としていえば、旅行先のオプショナルツアーの販売などではこのVRは販売増加に役立つかもしれない。ハワイに出かけたうえでのイルカツアーやダイビング体験、クルージングによる釣り体験など、10分間の仮想体験を通じて「実際のツアーに行ってみたい」という需要は簡単に喚起できそうだ。
筆者の回りで意見を聞くと、今の段階ではVRは代替財というよりは補完財ではないかという意見のほうが根強い。確かにVRは面白いが、それで旅の代わりになるかというと、旅は実際に出かけ、そこで現地の空気を吸い、風を感じなければ面白くないというのだ。それに日本を離れなければできない買い物という楽しみもリアルの旅行の重要な要素である。
ということで、現時点での仮説としてはVRが広がれば広がるほど、リアルな旅行需要はそれにつれて拡大するということなのだが、この先の未来はいったいどうなるのだろうか。業界の発展が楽しみである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)
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