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日産の無資格検査問題、コンプラ軽視は命取りになりかねない
http://diamond.jp/articles/-/145018
2017.10.10 真壁昭夫:法政大学大学院教授 ダイヤモンド・オンライン
日産自動車のリコール問題が社会を震撼させている。日産自動車の経営陣は、国内六つの工場で無資格の従業員が完成検査に携わっていたことを認識していなかった。つまり、本来起きてはいけないことが起きていた。自動車の安全につながりかねない問題で、人々の関心は高い。
今回の事件に関連して、リコールの対象は116万台程度に上るとみられ、その費用は250億円を上回ると見られる。今後の展開によっては、リコールの費用がさらに増加する可能性もあるようだ。
この問題の最も重要なポイントは、経営陣が無資格検査の常態化を知らなかったことだ。無資格検査が行われていたことは、国交省の抜き打ち検査によって発覚した。完成車の検査が、どれほど車の安全性に影響するのか詳しいことは分らないが、直感的に安全性が損なわれることが心配になる。
モノであれサービスであれ、エンドユーザーの安心感(満足感)は何物にも代えがたい重要な要素だ。その要素に少しでも不安があると、その企業の製品そのものが社会に受け入れられなくなる可能性がある。それは、リコール問題への対応が後手に回り経営破綻に陥ったタカタのケースが如実に示している。
日産は、リコール問題や燃費の改ざんで経営悪化した三菱自動車を傘下に収め、改革を進めようとしてきた。ところが、今回、自社にも重要な瑕疵があることが発覚した。今後の同社の経営の先行きに不透明要素が増えたことは間違いない。
日産は収益を
追い求めすぎたのだろうか?
日産自動車の無資格検査の実態が発覚したことを受けて、専門家の間でもさまざまな指摘がなされている。三つのポイントに分類すると分りやすい。
一つ目は、規制当局に関する批判的な見方だ。国土交通省が、完成車の検査を個別の自動車メーカーに任せていたこと自体に問題があるとの指摘である。本来であれば、第三者の立場で完成車の検査を行うべきだったかも知れない。
ただ、法規制の運用は業界全体にかかわる問題であり、他社はそれを遵守している。日産の無資格検査問題は切り離して考えるべきで、今回の日産の瑕疵を消すものではない。重要な点は、国が定めた完成車の検査基準が満たされていなかったことだ。
二つ目は、人手不足のあまり、認定登録された作業員の確保が追い付かなかったとの見方だ。確かに、人手不足の問題は全国的に深刻化している。しかし、それと法令遵守は別の問題だ。これら二つの議論は、今回の日産の問題と直接的な因果関係にはないと考えられる。
そして、三つ目の問題は、日産の経営監督体制が機能してこなかったことだ。法令を遵守し、需要に対応できるだけの検査体制が整備されているか、それが実際にワークしているか、十分な確認と検証がなされていなかった。それは経営責任に直結する問題だ。
何がこのような状況をもたらしたか。はっきりとした原因を示すことはかなり難しい。一つの可能性として考えられるのは、1990年代初めのバブル崩壊を受けて、90年代後半から経営再建が重視される中で、収益性の高い"売れる車"を求める意識が強くなりすぎたのではないかということだ。
検査体制の実態が明らかになっていないことは、同社の経営が収益を重視しすぎていたことの裏返しに映る。その見方がそれなりに適切だとすると、日産は大きな転換点に差し掛かっているといえる。
1999年6月に始まった“ゴーン改革”は徹底したコストカットと効率性の重視によって日産の経営を立て直した。その中で、無資格検査が常態化してきた可能性がある。日産自動車は安全への信頼の回復と収益性をいかに両立するか、難題に直面している。
競争激化に向かう自動車業界
競争力なき企業は淘汰される
今回のリコール問題は、国内市場を対象としたものだ。しかし、それが自動車のグローバル市場における同社の経営に与える影響は軽視できない。
世界の自動車業界全体で、EV(電気自動車)の開発を巡る競争が急速なスピードとマグニチュードで進んでいる。加えて、株主は企業の社会的責任を果たすよう要請を強めている。十分な競争力と社会的な信用力を維持できない組織は、淘汰される可能性が高まっている。
特に、新興国の動向や、自動車産業への新規参入の動きには注意が必要だ。中国は国を挙げて電気自動車の普及に力を入れている。その背景には、深刻化する大気汚染などの環境問題がある。
今後、中国はバッテリーの増産と電気自動車の販売台数の引き上げに向けた政策を進める可能性が高い。その中で、中国の自動車メーカーやその他の企業が、先進国の自動車メーカーを買収し電気自動車の生産能力の引き上げを狙う可能性もある。
もし、日産自動車が短期間で今回のリコール問題を解決できない場合、機関投資家の多くは同社への投資を敬遠する恐れがある。その状況が続くと株価が低迷し、日産を買収して電気自動車の生産能力の強化を目指す海外の企業が現れるかもしれない。それは、わが国の技術力の流出だけでなく、電気自動車開発におけるわが国の後退にもつながる。
電気自動車は、従来のガソリン車に比べて4割程度部品数が少ない。そうなると、日独の自動車メーカーが得意としてきた、部品同士の微妙な“すりあわせ技術”が重要な要素ではなくなることも考えられる。新興国のメーカーだけでなく、自動車業界以外の企業が当該分野に参入する可能性は高まる。
特に、電気自動車の開発には、航続距離の延長に向けたバッテリーの性能と耐久性の向上が欠かせない。この点では、自動車メーカーよりも電機メーカーに有利な部分があるだろう。そうした企業にとって、不祥事などから株価が低迷した自動車メーカーの買収は、短期間で新事業の成長を実現するための有効な戦略といえる。
日産はピンチを
チャンスに変えられるか
東芝、タカタ、三菱自動車など多くの企業の問題に対して、投資家や経営学者などの専門家らは「ガバナンスを強化しなければならない」との指摘を繰り返してきた。それは正しい。日産には有資格者による検査体制の強化など、経営体制の改善に向けたコミットメントが求められる。
今回、コンプライアンス=法令遵守でつまずいた日産に、今後、どれだけのマイナスが降りかかるかは不透明だ。しかし、最近、コンプライアンスに対する人々の意識が高まっていることを考えると、同社の経営が無傷でいられるとは考えにくい。同社の経営は、少なくとも迅速に有効な対応策を提示すること必要だ。
一度受けた“傷”を再生することは口で言うほど容易ではない。問題が発生しても、これまで行ってきた業務のありかた、経営体力などを理由に、「何とかなる」と思う人は多いかもしれないが、そうしたスタンスは今の社会では通用しない。
日産の場合、明らかに違法であると分かっていることが続けられてきただけに、問題の根は深いとの見方もできる。ユーザーの信頼を回復するためには、検査体制の強化、経営監督の刷新を図ることは必要不可欠だ。
その上で、同社は電気自動車等など次のステップに挑戦し、成長を目指さなければならない。日産は電気自動車を経営戦略の軸に据え、シェア獲得に取り組むべきだ。これは、ゴーン改革に次ぐ変革といえる。難局を活かして旧来の価値観を徹底的に捨て去り、新しい経営理念、組織を生み出すことが求められる。
すでに日産は三菱自動車を傘下に収め、電気自動車のラインナップ拡充に向けた取り組みを進めてきた。それでもなお、三菱自動車のリコール対応は続いている。検査体制の問題が加わることで三菱自動車の再建が進みづらくなれば、日産自動車はさらなる苦境に立たされるかもしれない。
世界全体で電気自動車の開発競争がし烈化する状況は、ある意味では、日産が再出発を図るためのチャンスになるかもしれない。そうした発想が重要だろう。足元の環境をどう考えるかによって、同社の将来は大きく異なる可能性がある。
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