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【アップル】“成長神話”の復活なるか「二つのiPhone」の賭け
http://diamond.jp/articles/-/144654
2017.10.6 週刊ダイヤモンド編集部
iPhoneを世に送り出してから10年。売り上げの約6割をiPhoneに依存するアップルは、2種類の新機種を同時に発表するという異例の手段で、成長神話の復活をもくろんでいる。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)
年に1度の“お祭り”としては、寂しい光景だった。9月22日、米アップルのスマートフォン最新機種、iPhone8の発売日。通信大手3社は恒例のセレモニーで発売を盛り上げようと努めたが、店外に例年のような長蛇の列はなかった。
世界でも類を見ない「iPhone好き」の日本ですらこのありさまなのだから、世界各地でも8の初速は低調。中国のあるアップルストアでは行列がたった2人だったことが報じられ、「恥ずかしい」との声まで上がっている。
ただ、出足が低調なのも当然だろう。なぜなら、8は現行のiPhone7の改良版。有機ELを採用した全画面ディスプレーや、顔認証によるロック解除などの新機能は、11月発売のiPhoneX(テン)に搭載されるからだ。
「予約の半分以上はXになるだろうと予測しており、案の定その通りになりそうだ」とKDDIの田中孝司社長が語るように、8は発売時点で既に“旧機種”のような存在。新し物好きのユーザーは皆、Xを待っている状態なのだ。
約7900億ドル(約88兆円)と世界最大の時価総額を誇るアップルは、2007年のiPhone発売でスマートフォンという新たな製品分野を開拓。以降、iPhoneの世界的なヒットの波に乗って躍進を遂げ、“成長神話”を紡ぎ続けてきた。
その成長神話に陰りが見えたのが、16年度の決算だった(図(1))。売上高は2156億ドル(約24兆円)と前年度から約8%ダウン。売上高の約63%(1367億ドル、約15兆円)を稼ぐiPhoneの販売台数の伸びが鈍化したため、15年ぶりに減収減益となったのだ。
今や世界で毎年2億台以上売れるiPhoneへの依存度の高さは、アップルの季節別の売上高にもゆがみを生み出した。
9月下旬に新機種が発売されることが恒例となっているiPhoneは、クリスマス商戦を含む第1四半期(10〜12月期)に最も売れる(図(2))。その後、販売台数が減少していき、新機種の発表が迫り買い控えが起きる第3四半期に最も落ち込むのだ。
アップルにとって、第1四半期の3カ月こそが、年間売上高の約3分の1を稼ぐ最大の書き入れ時。この3カ月の売り上げが年間業績の命運を握るのだ。
しかし、一部の時期に売り上げが集中することは、デメリットも大きい。部品調達や輸送などのコストが膨れ上がるからだ。
年間を通してiPhoneを売り続けたい。アップルとしては当然、そう考えるはずだが、苦い失敗がある。16年3月に投入した廉価版のiPhoneSEである。
15年9月に発売したiPhone6sの販売不振を受けて急きょ投入したような形になったが、販売台数の減少を食い止められないどころか、iPhoneの平均販売単価の下落を引き起こした。
アップルの高収益体質を支えているのが、強気な価格設定だったのだが、廉価版を投入したことで16年度第3四半期の平均単価は600ドルを割り込む事態になり(図(3))、15年ぶりの減収減益を引き起こす一因となっている。
こうした視点から見ると、ティム・クックCEO(最高経営責任者)が今回、8とXを同時発表した意図が伝わってくる。
まず最大の稼ぎ時のど真ん中でXを投入し、8とXの“2段ロケット”効果での売り上げ増を狙う。そして、最安でも999ドル(約11万円)というXを敬遠する人には、廉価版や旧機種ではなく、8を代替案として選んでもらうことで端末価格の下落を抑え込む。
発売10年の節目で初めて仕掛けた「二つのiPhone」というクックCEOの“賭け”の裏には、そんな狙いが透けて見える。
「二つのiPhone」戦略で成長神話復活をもくろむアップルにとって、アキレスけんになりそうなのが、成長市場と見込んでいた中国で苦戦が続いていることだ。
中国市場で苦戦
頼みの綱は買い替え需要
中国での大ブレークのきっかけとなったのは、14年9月に投入したiPhone6である。大画面化の波に乗り、15年度の中華圏(台湾を含む)での売上高は前年度からほぼ倍増の587億ドル。地域別売上高で欧州を抜き、米国に次ぐ第2の市場へと浮上した。
ところがその反動か、16年度第2四半期以降は6四半期連続で減収が続いている(図(4))。
アップルが伸び悩む中で、存在感を増しているのが地場メーカーである。米調査会社IDCによれば、16年の中国市場ではOPPO、ファーウェイ、vivoと中国勢がトップ3を占め、4位に沈んだアップルは1年で23.2%も出荷台数を落とし、シェアは10%を割り込んだ。
アップルの頼みの綱は、大ブレークした6の買い替え需要だ。高級志向で新し物好きの中国人ユーザーの流出を「二つのiPhone」で食い止めることができるか。11月のXの発売時に、クックCEOの賭けの成否が分かるだろう。
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