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日銀本店。衆院選後、「再び国債買い入れを増加すれば、財政や金融政策の信認をともに損ねます」と、木内氏は危ぶむ(撮影/長谷川唯)
日銀の金融緩和 こっそり「出口」へ〈AERA〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171003-00000052-sasahi-soci
AERA 2017年10月9日号
デフレ脱却をめざした過去最大の金融緩和が「店じまい」に向かいつつある。明言しないのは、政権の動向も気にするからだという。選挙の行方にも気をもむ。
日銀は衆院選に苦い思い出があるようだ。今回も与党の旗色が悪ければ、「金融緩和を拡大して、景気を持ち上げてほしい」などと求められるだろう。黒田東彦(はるひこ)総裁は断れるか──日銀関係者はそんな心配をする。
黒田総裁は就任直後の2013年4月、「異次元の緩和」を打ち出した。国債の保有が年50兆円増えるように買い、世の中に過去最大量のお金を流し込む。お金の価値が下がり、相対的に商品やサービスの値段が上がる。政府とデフレ脱却の政策連携を強化し、物価を安定的に前年比2%上げる目標を設けた。「安倍晋三政権を最大限支援しました」(日銀OB)
●「はしごを外された」
緩和に加えて14年4月、消費税率が8%に引き上げられ、物価も前年同月比3%を超えて上昇。だが、1年半後に税率10%への再引き上げを控えていた。政府との連携に沿って景気の冷え込みを防ごうと、日銀は14年10月、緩和を拡大して国債の買い入れを年80兆円に積み増した。
ところが翌月、安倍首相は衆院を解散。税率引き上げの先送りを訴えて勝利を収めた。国債を「買い過ぎ」と批判を受けながらも緩和拡大に踏み切っただけに、「政権にはしごを外された」(日銀幹部)。日銀の一部には、この記憶が残るようだ。
15年4月には物価上昇率が2%を大きく割り込み、緩和のあり方に疑問の声が噴き出した。日銀内でも木内登英(たかひで)審議委員(当時、現・野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)は買い入れを年45兆円に減らすように提案。木内氏の試算では、増加を年60兆円としても来年半ばには「在庫切れ」で限界に達する。
「14年で副作用が効果を上回りました」(木内氏)。国債市場が「品薄」で価格が乱高下しやすい。金利が低く抑えられて金融機関は運用難の半面、国は借金しやすい。「日銀が国の借金を支える」という批判は、日銀も避けたい。逆に将来、物価と連動して金利が上がる(国債価格が下がる)と日銀が損失を被り、国も借金の負担が重くなる……。
日銀もわかっていた。このころ緩和規模を縮小、つまり「出口」を模索し始めたようだ。「アベノミクスに付き合えない」。そんな声が現場から上がり、執行部を翻意させたという。「執行部はメンツもあって方針転換が難しい。でも職員は日銀の存続が大事」(別の関係者)
●「攻め」から「守り」に
「出口」が姿をみせたのは16年9月の新たな緩和だ。長期金利がゼロ%程度になるように国債を買う。買い入れ額は「めど」で目標から「格下げ」。お金の量を追うのは「放棄した。政権との関係もあって明言できないけども」(前出のOB)。
国債保有の増加は15年度の79.4兆円に対して、16年度は68.5兆円。日銀は「攻め」から「守り」に軸足を移したと受け止められた。物価目標達成の先送りも6度に及び、黒田総裁の任期中(18年4月まで)の達成をあきらめた。今後、方針転換の印象を薄めるには「操作対象を2、3年の短い金利にする」(木内氏)、「強いコミットメント(公約)を打ち出す」(クレディ・スイス証券の白川浩道副会長)などの見方がある。
米国では今年9月20日、FRB(連邦準備制度理事会)が10月から緩和で増えた資産を減らすと決めた。日本の「出口」が再び脚光を浴びる。そこに、また衆院選がめぐってきた。安倍首相は今回、消費税を前面に据え、金融緩和への言及は目立たない。「このまま平穏にやり過ごせるかもしれない」。前出の幹部は希望を抱く。「出口」からどう進むのか。後任総裁に託された。
(編集委員・江畠俊彦)
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