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米国のトイザラス店舗(「Wikipedia」より/Raysonho)
トイザラス破綻は、セブン&アイやイオンさえ危機に陥る可能性を示している
http://biz-journal.jp/2017/10/post_20773.html
2017.10.01 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
18日、米国の玩具小売り大手トイザラスが、連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。
米国の小売り企業全体が、アマゾンをはじめとするネット企業の脅威にさらされている。その脅威は、従来のビジネスモデルを基礎とした経営の強化だけでは、成長が実現できないほどに厳しい。今後もこのトレンドは続くだろう。アマゾンを筆頭とするネット関連企業の急成長を受け、消費者の行動が大きく変化している。世界中でネット関連企業のビジネスによって、競争が激化している。トイザラスの苦境はわが国の企業にとって、対岸の火事ではない。
■激動の時代を迎える小売り業界
世界中で小売り業界が激動の時代に突入している。背景には、オンラインショッピングサービスを展開するアマゾンなどの存在感が大きくなり、店頭でモノを買うことが少なくなってきたことがある。中国のアリババドットコムは、自ら店舗を運営してきた。そこには、スーパーマーケットだけでなく、オンラインショッピング、購入した食材を調理してもらうサービスなども含まれる。アリババは従来のビジネスモデルと大きく異なるコンセプトを実現したのである。
言い換えれば、オンライン(インターネット上での消費行動)と、オフライン(実店舗)の融合が急速に進んでいる。小売り革命というよりも、物流革命と呼ぶにふさわしい動きだ。アマゾン、アリババだけでなく、オンライン上でのフリーマーケット出店サービスを提供するわが国のメルカリなど、スタートアップ企業の存在感も日増しに大きくなっている。
トイザラスはこうした動きに対応することができなかった。そのため、顧客をつなぎとめることができず収益性が悪化した。アマゾンに対抗するためオンラインショッピングにも進出したが、投資負担が業績を圧迫し、同社は4期連続の最終赤字に陥っている。
トイザラスの経営悪化には、スマートフォン(スマホ)などの普及によって子供の遊び方が変化してきたことも影響している。たとえば、児童がスマホでゲームアプリをダウンロードし、友人同士で遊ぶケースは日常化している。ハード(玩具などのモノ)ではなく、ソフト(ゲームや動画などのコンテンツ)が重視されるようになってきたのである。
このように考えると、消費を行い一定の効用(満足感)を得るという心理は、技術の革新とともに大きく変化してきたことがわかる。モノをつくっている、あるいはモノを販売してきた企業が、これまでと同じことをやり続けることによって成長を達成することは、一段と難しくなっていくのではないか。
■苦戦する国内小売り企業
わが国でも、今のところ米国ほどではないが、小売り企業の苦戦が鮮明となっている。特に、総合スーパー業界の事業環境は深刻だ。それを印象付けたのが、激安ディスカウントチェーンを運営するドン・キホーテが、東海地方を地盤としてきた総合スーパーのユニーに出資したことだ。
業界のなかでは、“ドン・キホーテは異端児”との見方が強かった。激安を謳い、圧迫陳列といわれる独自のマーケティング手法によって同社は成長を遂げ、老舗スーパーの長崎屋を再生した。それでも、近隣住民などとのトラブルなどもあり、ドン・キホーテのやり方はなじまないと考える小売り業界の関係者もいるようだ。そのドン・キホーテに救いの手を求めなければならないほど、ユニーは窮地に追い込まれたといえる。
小売り業界の苦戦は今後も続くだろう。すでに、イオン、セブン&アイ・ホールディングス、西友、良品計画(無印良品)、イケアなどが値下げを進めている。消費者の節約志向が強いというのがその理由だ。プライベートブランドを豊富にそろえている大手企業であれば、値下げ競争が進むなかでも、一時的に売上高をつなぎとめることはできるかもしれない。しかし、メルカリの急成長を見ていると、小売り業界が本当に顧客が欲するモノとサービスを提供できているかは疑問だ。
わが国の小売り業界は薄利多売のトレンドに陥っている。これを短期間で修正するのは難しいだろう。この動きが続くと、国内の小売り業界はかなりの規模での業界再編に直面する可能性がある。
その際、国内企業同士の経営統合だけでなく、国内の小売り大手や百貨店などが中国などの新興国企業の傘下に入る展開も排除できない。企業が拠点を置く国、歴史の長さが企業の競争を左右する要素ではなくなっている。新興国の企業が先進国の大企業を吸収し、さらなる発展を目指す時代に入っていることは、確実に理解すべきポイントだ。
■通用しないこれまでの常識
4〜6月期の米国の企業決算を見ていると、多くの小売り企業の経営者の弱気な発言が目立った。いわば、“アマゾン恐怖症”だ。アマゾンに顧客が流れ店舗への客足が遠のいている状況のなかで、どのようにすれば業績を改善できるか妙案が見当たらないと苦悩を吐露する経営者もいた。
打開策が見当たらないということは、事実上、今後の戦略展開を描けないことに等しい。その背景には、これまでのビジネスモデルありきの発想が影響しているのだろう。慣れ親しんだ発想=“常識”がこれまでにはない新しい動きを生み出すことを阻害しているように見える。
アマゾンやアリババ、メルカリなどのベンチャー企業はこうした常識とは関係がない。こうした企業の発想は、人々が必要とするものを発掘し、需要を喚起することを重視している。モノを売るのはその一つの手段だ。アマゾンのように、必要とあらば自社製品を開発し、販売していくことも増えるだろう。オンラインとオフラインの融合が進む以上、従来の「製造業」「非製造業」という区分けは難しくなる。
そのなかで、「小売り」「物流」など個々の事業に特化し、シェアを維持し伸ばすことはさらに難しいだろう。生き残るためには、アマゾンなどのネット企業との協働を模索する、あるいは異業種を買収してビジネスモデルを刷新するなど、大胆な取り組みが必要だろう。
今後、連邦破産法11条の申請を検討し、より抜本的な経営立て直しを検討し始める米国企業が増えたとしてもおかしくはない。それは、わが国の小売り業界にも当てはまる。それほど、オンラインビジネスは急速な勢いで拡大している。
オンラインビジネスの成長は続き、さらに競争は熾烈化するはずだ。そのなかで、これまでの発想=常識に基づいて現状維持を選択することがベストとはいいづらい。それは、さらなる低迷への第一歩と考えるべきかもしれない。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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