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富裕層が抱え込む"1000兆円"に課税せよ いつの時代もバカをみるのは庶民だ
http://president.jp/articles/-/23178
2017.9.28 経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎 PRESIDENT Online
税収増で今年度予算が史上最大規模となったのをいいことに、政府は公務員や大企業の優遇を続けている。「財政が厳しい」というのならば、富裕層への課税を強化すべきだ。経済アナリストの森永卓郎氏は「『国民経済計算』と『全国消費実態調査』を比較すると、約1000兆円の差がある。日本の富裕層は1000兆円の資産を抱え込み、課税逃れをしている」と指摘する。庶民に負担を強いるばかりでいいのか――。
※以下は森永卓郎『森卓77言 超格差社会を生き抜くための経済の見方』(プレジデント社)から抜粋、再構成したものです。
高すぎる「公務員給与」と濡れ手に粟の「法人減税」
2017年度(平成29年度)予算は、史上最大規模の97.5兆円で成立しました。それでも公債依存度は35.3% と、2010年度(平成22年度)の48.0% より大きく下がっています。景気回復と増税で、税収が大幅に増えているからです。しかし私には、政府が税収増をよいことに、やりたい放題をしているようにみえてなりません。最近、行政改革の動きがほとんどみられなくなってしまったからです。
成功したかどうかは別にして、民主党政権のときには事業仕分けを行って、行政の無駄を徹底的に排除しようとしました。安倍政権にしても、第一次内閣のときには、行革に熱心に取り組んでいました。それがいまや、完全に公務員天国になり果てています。正式な集計は出ていませんが、シンクタンクの推計によると、2015年冬の国家公務員の賞与は、平均で約72万円でした。一方、民間の平均は約37万円で、国家公務員が民間の2倍の賞与をもらっているのです。ちなみに労務行政研究所が調べた東証一部上場企業の平均が73万円だったので、国家公務員は、上場企業並みの賞与をもらっていることになります。国家公務員の処遇は、民間準拠ではなく、勝ち組準拠になっているのです。
高すぎる国家公務員給与を削減しようという動きは、東日本大震災の直後に表面化しました。復興財源に充てるために、2012年から国家公務員の給与が8%カットされたのです。ただ、それが続いたのは、たった2年間だけでした。復興事業は終わっていないし、国民が支払う復興特別所得税は25年間にわたって継続しています。これをお手盛りと言わずに何と言うのでしょうか。
もう一人、濡れ手に粟となっているのが、大企業です。安倍政権は、法人税の実効税率を2016年度から29.97%へと引き下げました。2017 年度からの予定を1年前倒ししたのです。第二次安倍政権が発足する直前の2011 年度の法人税(地方税を含む)の実効税率は40.69%でした。それが毎年引き下げられ、5年間で10.72%も引き下げられることになりました。
なぜ「財政が厳しい」と言いながら、安倍政権は法人減税を進めるのでしょうか。財務省のホームページによると、アメリカの法人税の実効税率は、日本より10.78ポイントも高いのです。もし、本当に法人税率が高いと企業が海外に流出するのなら、アメリカの産業は空洞化しているはずですが、そんな事実はまったくないのです。
法人税率の度重なる引き下げで、法人は4兆2880億円もの減税です。政府予算案で、基礎的財政収支の赤字が10.8兆円もあるのですから、まずそれを減らすことを考えるべきでしょう。
富裕層に適切な課税をすれば、庶民への増税は必要ない
NGO(非政府組織)のオックスファムは2017年1月16日、世界の富豪トップ8人が抱える資産額が、下位50%(36億人)の資産合計とほぼ同じだとする報告書を発表しました。報告書はトップ8の具体的な名前は明かしていませんが、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、投資家のウォーレン・バフェット、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグなどが含まれているとみられ、大富豪8人の大部分がアメリカ人であるとみられています。
それだけ大きな格差が存在すれば、アメリカの庶民が怒るのも当然です。一方、日本には、アメリカのような大富豪は存在しません。だから、日本はアメリカと比べれば、ずっと平等だということになっています。しかし、それは本当でしょうか。
2014年の「全国消費実態調査」は、国民が保有する資産を調査しています。この調査では、消費者自らが資産額を回答しているのですが、結果は、単身世帯の平均資産額が2652万円、2人以上世帯が3491万円となっています。不動産を含む資産額だから、こんなものでしょう。そして、ここに国勢調査の世帯数を乗ずると、国民全体の資産額は、1707兆円ということになります。
一方、内閣府が発表している「国民経済計算」によると、家計が保有する資産は2727兆円です。つまり、国全体で家計が持っている資産と、国民が申告している資産の間には、1000兆円もの差があることになります。
細かな統計上の差はあるものの、基本的な要因は、国民が資産額の過少申告をしているか、調査そのものを拒否しているということでしょう。そして、その犯人と思われるのは、どちらも富裕層です。日本の富裕層は、目立たないように息をひそめています。目立ってよいことは、何もないからです。そして、こっそりと1000兆円以上の資産を抱え込んでいるのではないでしょうか。
アメリカの経済誌「フォーブス」の2016年米長者番付トップ10をみると、上位8人が保有する資産は、日本円で約50兆円です。いかに1000兆円が大きいか分かるでしょう。国際決済銀行の統計によると、すでに日本が英米を抜いて世界最大のタックスヘイブン利用国になっています。都心の数億円の新築マンションが、即日完売になるのも、日本に富裕層がたくさんいる何よりの証拠でしょう。
だから、政府がまずやらなければならないのは、日本の富裕層の実態を明らかにすることではないでしょうか。彼らに適正な課税をすれば、庶民の増税など、まったく必要がなくなるはずです。
国会議員の資産も不透明なカラクリはどこにあるのか
2016年7月の参院選で当選した議員121人の「資産等報告書」が公開されています。1人あたりの平均資産額は2990万円で、4年前の前回選挙のときよりも780万円少なくなりました。
ただ、この数字を知って、「そんなに少ないの」と思った方が、多いのではないでしょうか。国会議員はお金持ちというイメージがあるからです。
実は、資産額が少ないのには、カラクリがあります。今回の資産公開は、国会議員資産公開法に基づいて行われているのですが、法律上、資産公開に含めなくてよい資産がいくつもあります。
一つは、株式です。働いた報酬で大金持ちになる人はほとんどいません。大部分の大金持ちは、創業した会社とか、親から受け継いだ株式が値上がりすることで、お金を増やしているのです。
国債などの債券は資産公開の対象になっていますから、なぜ株式だけを隠すのか、理屈が通りません。
もう一つは、普通預金です。定期預金は公開対象ですが、普通預金だと公開しなくてよいのです。いまの超低金利の状況では、定期預金にも、ほとんど利息が付かないので、預金を隠したかったら、定期預金を解約すれば済むのです。国会議員は国民の代表ですから、保有資産を公開する義務があると思います。それなのに、なぜ抜け穴の大きな法律を作ったのでしょうか。
私には、法律を作った国会議員が、他人に言えない資産を持っていたからとしか、思えません。
森永卓郎(もりなが・たくろう)経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『雇用破壊 三本の毒矢は放たれた』『消費税は下げられる! 借金1000兆円の大嘘を暴く』などがある。
『森卓77言 ―超格差社会を生き抜くための経済の見方』森永卓郎著 プレジデント社
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