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家路を急ぐサラリーマン=港区のJR新橋駅 (c)朝日新聞社
「結婚しない男」急増は「やせ我慢」が理由?〈週刊朝日〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170922-00000025-sasahi-life
週刊朝日 2017年9月29日号
結婚しない男が急増している。国立社会保障・人口問題研究所の調べでは、「50歳まで一度も結婚したことがない男性」が今や4人に1人に。2035年には3人に1人になるとの試算だ。未婚・独身男がマジョリティーとなりつつある裏事情を探った。
「一人で生きていて今、非常に心地よい毎日を送ってます。多忙であっという間に過ぎていった感じはありますが、結婚するメリットや憧れはあまり感じませんね。山登りしたり、居酒屋に飲みに行ったりして、心の安らぎは十分得ています」
こう語るのは北海道函館市在住で教育関係の仕事をしている独身男性Aさん(56)だ。Aさんは北海道出身だが主に首都圏で過ごし、慶応大学文学部卒業後、IBMに入社しシステムエンジニアとして約3年間勤務し、30歳を前に全国紙記者に転身。社会部警視庁担当のほか、カイロ特派員時代、イラク戦争を取材するなど国際派ジャーナリストとしても活躍した。50歳を前に病気療養中の母親の面倒を見ようと、函館市にUターンした、今はやりの地方移住者でもある。
Aさんは現在の心境を「よく周りに『一人で寂しくないの?』と聞かれますが、全く感じません。彼女もいましたし独身主義者でもありません。お酒を飲むのが好きなので、居酒屋などに飲みに行けば、その場に集まった人たちと疑似家族的な付き合いはできます。周りの既婚者を見ても、家計の柱は夫なのに主導権は妻が握ってます。いびきがうるさいとか、トイレの蓋の上げ下げとか、妻の顔色をうかがう生き方をしているようにしか見えなくて、疲れると思う」と話す。
趣味は山登りとマラソン。毎週1回は近くの函館山に登り、これまで地元のハーフマラソンにも3回参加するなど、「健康問題もなく、人生悔いなく生きてますよ」と言い切る。
博報堂シニアプロモーションディレクターで、独身研究家でもある荒川和久氏はこう語る。
「Aさんのように『結婚できない』ではなく、『あえて結婚しない』層がいることを指摘したい。ちゃんと働いて、親などに金銭的な依存もしない。自由、自立、自給の価値観を持っている独身男性が世代を超えた特徴としてあります」
広告会社でマーケティングをした結果、荒川氏による結婚しない男の定義はこうだ。「束縛されず自由に過ごしたい」「一人で過ごす時間を確保したい」「誰かに頼らず生きていける」。荒川氏はこう解説を続ける。
「気楽な地位を好み、一人の時間を大切にする。一方で、仕事面で人に認められたい承認欲求はある。趣味でも同じような達成感を求める人が多い。自分の好きなことをとことん追求したい。映画でもスポーツでも読書でも一人で十分楽しめるのです。野球などの球技も含め集団でつるむのを好まないのも大きな特徴です。彼女や親友がいないわけでもない。本質的な部分でも、既婚者が家族のために頑張って働いているのと同様に、独身者も働いている。既婚者同様に普通に子供が欲しいと思う面もある」
「おひとりさま」ブームを生んだマーケティング評論家、牛窪恵氏は「今は男損時代。結婚しても小遣い3万円台が主流の調査結果もあり、お金や時間が自由にならない。周りの既婚者も幸せそうに見えないのでしょう。結婚のメリットは子供ぐらいに思えて、趣味などを犠牲にするのも馬鹿らしい」と語った上で、「仕事が安定しない状態で結婚するのは無責任だと思っている半面、仕事に真面目で古い男の概念も持っていて、無責任には結婚できないと思っている男性が多いのではないでしょうか」と分析する。
一方で、かつて「お見合い歴30回」と公言し結婚できない女性の代名詞にされていたエッセイスト、阿川佐和子氏が今年5月、63歳で晩婚した例を挙げ、こう指摘する。
「国の施策として、遅くても結婚できる時代にしないといけないとも思います。60歳を過ぎて、『人生って何なのか?』と感じやすい時代になっていて、一人でも楽しめない社会になってしまっては悲惨です」
前出のAさんは米・コロンビア大学大学院に留学中の2001年9月、米同時多発テロに遭遇し、複雑な心境をこう語った。
「人生の成功は富にあると考える風潮が蔓延しているアメリカ社会を実感していた矢先の衝撃的な出来事でした。物理的な我流より、連帯感や人とつながっていたいという意識が植えつけられました。だから、母親が亡くなったら、一人で生きる張りを失ってしまうかもしれないと、ふと感じる瞬間も正直あります。ですので、60代以降にあえて所帯を持つことを考えてみてもいいかなとも思います」
確かに、定年後にどう社会と接点を持ち日々過ごしていくべきかを指南する新書『定年後』(楠木新著・中公新書)が20万部を超える異例の大ヒットとなるなど、本屋を覗くと、「定年後の歩き方」や「100年人生マニュアル」など、中高年の生き方を問う特集を組む書籍、雑誌がやたらと目立つ。
人口減少時代に直面し、「従来の結婚観や適齢期の変化の表れかもしれません」(荒川氏)。
現在ベストセラーになっている直木賞作家、五木寛之著の『孤独のすすめ』(中公新書ラクレ)では「人間は孤独だからこそ豊かに生きられると実感する。孤独の素晴らしさを知る。孤立を恐れず、孤独を楽しむのは、人生後半期のすごく充実した生き方だ」との記述がある。
これについて、荒川氏はこう見解を示す。
「孤独を楽しむことや一人が好きということに関しては大賛成です。ただ、それは自分の中の多様性を活性化するための手段。人と一切の関係性を遮断して心理的に孤立してしまうこととは別物です。孤独とは自分の能動的な選択肢として選べる自由があるものだと解釈したい」
一方、牛窪氏は違った見方を示す。
「ある意味でやせ我慢と言ってみてもいいかもしれません。昔で言うと、高倉健さん風に『不器用なんで〜』『だから素直になれなくて独身』と言ってみたり。いわゆる日本の恥や虚勢の文化こそが、40代以上のオジサンたちの可愛いところだと思っていますので、そこはなくしてほしくないし、『いい!』と感じる女性は若い子も含めて必ずいる。大事にしてほしいなあと思います」
荒川氏の言う「こだわり」と牛窪氏の言う「やせ我慢」。
Aさん同様に未婚の記者が「男の生き方の美学ではないか?」と、あえて強気に両氏に問うと、荒川氏は「美学と言うのはちょっと無理があるかもしれませんね」と苦笑。
牛窪氏も「妥協したくない、生き方を変えたくない、という美学を持った中高年の未婚男性が多いという言い方はできます。ただ、結婚のためにはそれを変えるという柔軟性が高い人でないと未婚のまま残る、ということでもあります」と話した。
「結婚しない男」の急増は、“こだわりとやせ我慢”の狭間でもがいているAさんや記者のような存在自体が案外リアルな実相なのかもしれない。(本誌・村上新太郎)
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