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米トイザラス経営破綻、リアル店の王者がアマゾンに負けた理由
http://diamond.jp/articles/-/143457
2017.9.26 真壁昭夫:法政大学大学院教授 ダイヤモンド・オンライン
人類の歴史の中では、時にそれまでの潮流を大きく変えるような「非連続な事象」が発生することがある。9月18日に発生した、米国トイザラスの経営破たんもその一つに入るかもしれない。
米国玩具販売大手の“トイザラス”は、IT化投資などを軸に進めてきた自力での経営再建を諦め、“連邦破産法11条=チャプターイレブン”(わが国の民事再生法に相当)の適用を申請した。
この背景には、同社が、時代の最先端を走るネット企業であるアマゾンとの競争に対応できなかったことがある。この問題は、米国の小売業界をはじめ、その他多くのビジネスにも当てはまる。アマゾンをはじめとするネット企業の成長は、世界中の企業にとって大きなチャンスでもあり、脅威でもある。それは、わが国企業にとっても対岸の火事ではない。
トイザラスについて、経営陣が事業の改善を実現できなかったことへの批判などさまざまな意見がある。ただ、このまま同社が経営を続けた場合、更なる低価格競争に巻き込まれ、より厳しい状況に直面する可能性は高かっただろう。ある意味、今回の決定は抜本的な改革の下、再出発を進めるためには不可欠だったかもしれない。
トイザラスの破綻から得られる教訓は、「過去の延長線」として将来の競争環境を考えることはできないということだ。“非連続”というべき状況変化が加速する中、企業経営者の意思決定が企業の将来を大きく左右するだろう。
消費者の行動変化に
対応できなかったトイザラス
トイザラスがチャプターイレブンの申請に追い込まれた理由は、消費者の行動の変化に対応できず、顧客離れが進んだ点が大きかった。小売業の多くの企業では顧客の流出に直面した場合、販売価格を引き下げるなどして客足をつなぎとめようとする。
しかし、当該企業を取り巻く構造的な変化が大きい場合、その効果は一時的なものに留まることが多い。構造変化に上手く対応ができないと、企業は競争に勝ち残れず淘汰される。それは基本的な市場原理だ。
現在、こうした動きを加速させているのがネット企業、特にアマゾンの存在が圧倒的だ。これまで、玩具などの消費財(モノ)は専門店で購入することが多かった。親子連れで玩具店を訪れるとさまざまな品物が陳列され、子どもの嬉々とした表情に相好を崩すことが多かった。
ところが、今、状況は一変している。多くの家庭がアマゾンなどのネットショッピングサイトで品物を見定め、最も価格の低い企業・店舗から欲しいものを買うことが増えた。そのような消費行動の中で、トイザラスなどの店舗では「ショールーム」のように実際の品物を確認するだけという消費者も多い。それでは店舗の売り上げは増えない。
店舗などからオンラインへ消費の場がシフトする中、トイザラスはネット事業の強化のために投資を行った。しかし、消費者にとってトイザラスは数多く存在する店舗の一つに過ぎなかったと見られる。その中で、同社が顧客に自社の店舗で消費することの“満足感”を実感してもらうことは難しかった。
例えば、アマゾンで買い物をすればポイントがたまり、それをアマゾンに出店する別の店舗でも使うことができる。アマゾンプライムで配信される動画なども顧客を離さないコンテンツだ。
アマゾンでショッピング、映画の鑑賞、ゲームなどのコンテンツ購入を行うなど、休日に外出する必要性は低下している。“来店”を前提とした小売りをはじめとする企業は、この消費行動の変化にどう対応するか打開策を見いだせていない。その結果がトイザラスの連邦破産法11条の適用申請につながったと考えられる。
圧倒的な
“アマゾン効果”の恐怖
小売業界を中心に、今後の事業環境に関する不安を口にする経営者が増えている。それは、アマゾンのシェア拡大を受けて客足が遠のく中、売り上げの確保と株主への価値還元を実現できるかという危惧、恐怖心だ。この状況に対応する“常識的な発想”としては、リストラが思い当たる。しかし、それは競争に対応することとは異なる。
アマゾンだけでなく、ネット企業の“イノベーション=創造的破壊”を引き起こす力は凄まじい。重要なのは、サイトやアプリで検索すれば、世界中から欲しいものを、より望ましい価格で手に入れることが可能になってきたことだ。在庫管理、物流を含め、アマゾンは家に居ながらにして消費者の満足を高める取り組みを実現している。
基本的にこのビジネスモデルは、店舗に行きそこが消費の場となることを想定していない。消費の場はリビングであり、通勤の電車の中だ。従来の発想で小売店などがアマゾンに対抗することには、限界があるように思えてならない。
アマゾンだけが競争相手ではない。生鮮食品の販売の分野においては、アマゾンよりも中国のアリババが先行している。国内では、メルカリがインターネット上でのフリーマーケット出展アプリを開発し、上場が実現した場合には1000億円以上の時価総額が達成されると期待されている。さまざまな分野で店舗がネット空間とつながるなどし、需要の創造と発掘が進むだろう。
これまでにはなかった新しい取り組みを従来の企業が提供できれば、ネット業界の攻勢に対応することはできるだろう。ただ、各企業にはこれまでの事業を運営するために投資してきた設備や、ビジネスモデルがある。経営者にはプライドやこれで勝てる(勝ってきた)という成功体験に基づく方法論もあるはずだ。
トイザラスもこの発想でアマゾンに対抗しようとした。しかし、薄利多売の“負のスパイラル”に陥り、採算の悪化を止めることはできなかった。今後の競争に勝ち残るためには、既存のコンセプトやコミットメントを続けるべきか否か、冷静に考える必要がある。
非連続的な
イノベーション=革新の加速
“非連続”――。今後の企業の競争や経済の動きを考える視点は、このキーワードに集約されていくだろう。「非連続」とは、文字通り、物事が地続き的につながっていない状況を指す。あるステータスにあったものが、別の次元に飛び移る(リープする)かのように劇的な変化が、これまでの展開と断絶された状況で起きる。大変革、常識の通用しない状況などということもできるだろう。
トイザラスの決定から得られるインプリケーションは、専門店が当該分野におけるマーケットリーダーであり続けるわけではないということだ。これまでの状況が今後も続くという“連続的”な発想では、今後の競争に対応することは一段と難しくなるだろう。技術やノウハウを蓄積してきた先進国の大企業が、新興国の企業よりも優位とは限らない。大手企業がベンチャー企業よりも優位な立場にあるともいえない。ネットワークサイエンスの進化とともに、非連続的な競争と革新は加速していくだろう。
極論かもしれないが、長い目線で考えた時、アマゾンにできることを行っている企業は勝ち残れないかもしれない。少なくとも、店舗販売が減少し、事業の採算が悪化する可能性は高まっていく恐れがある。こうした展開が想定される場合、過去の延長線上にある発想からの脱却は不可欠だ。
世界全体で、さまざまな分野で非連続的な競争が進んでいる。例えば、自動車業界では内燃機関から電気自動車へのシフトが急速に進んでいる。わが国の自動車メーカーは、程度の差はあるが、この動きに遅れ気味だ。環境の変化に対応するためには、既存の設備とは別に、これまでにはなかった新しいビジネスを進めるためのプラットフォーム整備が不可欠である。工場の建設など企業が二の足を踏んでしまう部分では、政府のバックアップも重要だ。
従来の取り組みでは限界があることを理解し、それを行動に移すことには、かなりのエネルギーが必要だ。その上で、どのようなビジネスモデルを組み立てるかが問われる。これまで以上に、経営者の意思決定が中長期的な企業の成長性を左右する時代が到来している。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
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