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スマイルカーブから富士通のスマホ撤退を考える
富士通のスマホ撤退が象徴する、日本の「ものづくり」の価値の低さ
http://biz-journal.jp/2017/09/post_20558.html
2017.09.13 文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表 Business Journal
富士通が携帯電話事業から撤退することを発表した。具体的には投資ファンドか他の事業会社に売却するようだ。富士通が撤退すれば、携帯電話の主要国内メーカーはソニー、シャープ、京セラの3社だけとなる。
ガラケー時代には国内電機メーカーのほとんどが携帯電話事業に参入していたことを考えると、なんとも様変わりしたものだ。その変遷は、製造業がますますスマイルカーブ化している状況を如実に物語っているようにみえる。
■スマイルカーブとは
スマイルカーブとは、台湾のパソコンメーカー・エイサーの会長であるスタン・シー氏が、パソコン事業における付加価値の源泉をバリュー・チェーンに沿って説明する際に、この図を用いたのが始まりといわれている。
製造業のバリュー・チェーンを一般化すれば、上流から下流に向かって、企画・開発、加工・組み立て、そして出来上がった製品の活用というように大きく分けられる。それらがどれだけの付加価値を生み出しているかを考えてみると、図1のように両端が上がった形状になるというのがスマイルカーブだ。このグラフの形状が、人が笑ったときの口元のようなので、「スマイルカーブ」と命名されたのである。
誰しもが「これぞ製造業の仕事」と思うのは、真ん中の加工・組み立てという、いわゆる「ものづくり」の部分だろう。スマイルカーブが意味していることは、その「これぞ製造業」のはずのものづくりのところが最も価値を生まないということだ。
スマートフォンはその格好の具体例だ。現在国内のスマートフォン市場で5割のシェアを持つ米アップルは、業種としては間違いなく製造業だ。しかし、彼らは真ん中の「ものづくり」はやっていない。その部分は台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)などに全面的にアウトソーシングしている。
彼らがやっているのは一番左側の企画・開発のみだ。iPhoneやiPadという今までにない製品(さらにはスマートフォンやタブレットというカテゴリーそのもの)を考え出すのが彼らの仕事なのだ。
さらに、スマートフォン業界で多くの付加価値を生み出しているのは、スマイルカーブの一番右側に位置するプレーヤーだ。それは例えば、スマートフォンという製品上で動く便利なアプリを開発しているLINEのような企業だ。
真ん中に位置するプレーヤーは誰かというと、アップルやグーグルが決めた仕様通りにスマートフォンというハードウェアをただつくっているだけの人たちだ。それが国内電機メーカーである。
国内メーカーがスマートフォンから相次いで撤退してきたのは、そういう立ち位置では富を生み出せないことをまさに物語っているのだ。
■言われた通りにやるだけの仕事は取って代わられる
では、鴻海はなぜスマイルカーブの真ん中の立ち位置でいられるのだろうか。
それは、人件費が安いからである。高度成長期の日本は現在の鴻海のような立ち位置だった。「誰よりも安く、かつ、高品質でものをつくってあげます」という“世界の工場”としての役割が、多くの日本企業の強みだった。
しかし、そういう時代を経て日本はすっかり豊かになった。その結果、アジア諸国に比べると、日本人の人件費は少なくともワーカーレベルにおいては、非常に高くなってしまった。今や日本は“世界の工場”の役割は担えないのである。人件費が高いこと自体は決して悪いことではない。それは、国が豊かになったということだから、むしろ誇るべきことだ。
本質的な問題は、高い人件費に見合う付加価値を生み出せていないことだ。「誰かの考えたことを、言われた通りにただやる」というだけの仕事は、豊かになった日本という国では高く評価されないのである。
製造業に関していえば、日本人はすぐに「ものづくりニッポン」と言うが、「ものづくり」の意味をもっと広く捉える必要があるだろう。多くの人がイメージするであろう「加工・組み立て」だけを「ものづくり」と捉えるのは狭すぎる。スマイルカーブの両端を含めて「ものづくり」と考える必要があるだろう。むしろ、スマイルカーブの両端こそが先進国が担うべき「ものづくり」なのかもしれない。
これは、製造業に限ったことではない。すべての仕事において、言われた通りにやるだけの仕事は早晩取って代わられる。これからは、外国人に取って代わられる前に、AIやロボットに取って代わられる可能性も出てきている。
スマイルカーブに沿って自分の仕事を見つめ直してみることは、すべての人に求められる視点だろう。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)
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