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2040年までに"全車を電動化"は絶対無理 アウトバーンの走行には課題がある
http://president.jp/articles/-/23052
2017.9.11 モータージャーナリスト 清水 和夫 Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員 安井 孝之 PRESIDENT Online
電気自動車(EV)への期待が高まっている。英仏は2040年までにEVへの完全移行を宣言した。本当にクルマはガソリンから電気に置き換わるのか。「EVの構造は単純なので、どんな会社でもクルマが作れるようになる」という指摘もあるが、モータージャーナリストの清水和夫氏は「そんなことはない。EVはガソリン車より難しい」という。清水氏と元朝日新聞編集委員の安井孝之氏の2人が、EVの実力を技術面から掘り下げる(全5回)。
日産の技術者も「EVのほうが難しい」
【安井孝之】EVへの期待が膨らんでいます。NOx(窒素酸化物)などの排ガス問題に苦しんでいる欧州ではガソリン車やディーゼル車の販売禁止への動きが出ています。金融市場関係者やメディアの一部には「内燃機関の終わりが見えて来た。EVの時代がやってくる」とはやし立てていますが清水さんはどう見ていますか。
【清水和夫】多くの人が、クルマがモーターとバッテリーになれば、どんな会社でもクルマが作れるみたいなこと言っているので、僕は頭にきたから「やれるものならグラム1円で作ってみろ!」って言っているんですよ。
【安井】自動車って重量換算すると1グラム1円程度で安いんですよね。それに比べてスマホは1グラム数百円もする。スマホがつくれるからクルマもつくれるかというと必ずしもそうではない。クルマの場合、人の命を預かっていますから、そのモノづくりに求められる信頼性はスマホに比べより高いです。たとえつくれたとしても「こんな儲からないものはつくれん!」ということになってしまうかもしれませんね。
9月6日に日産が発表した新型EV「リーフ」。 1回の充電で400キロが走行可能という。(写真=AFLO)
【清水】そもそもEVは簡単に作れると言っているほうがおかしい。日本で一番たくさんEVをつくっている日産自動車の人に聞いても「EVのほうがガソリン車よりも難しい」と言うんです。バッテリーが効率よく動く使用温度は15度から40度ぐらいの範囲です。一方、ガソリン車はマイナス30度から灼熱の60度の砂漠までエンジンはかかります。
【安井】EVは気温が低くなると動きにくくなりますね。雪山でスマホやデジカメが使えなくなるのは、寒くなるとリチウムバッテリーもダメになるからですね。
【清水】そうです。同じことがEVでも起こります。気温が高くなっても発電効率は悪くなる。だから実はEVのほうが難しいのです。
【安井】EVはバッテリーが熱くならないように冷却する必要がありますね。
【清水】冷却が難題です。例えば100度の沸騰したお湯を60度に冷却するのはたやすいんですが、実は60度のお湯を、うまく40度に下げるのは難しい。バッテリーが使用限界の50度を超えて70度ぐらいに上がったときに、冷やそうとすると高性能な冷却システムが必要になります。
バッテリーの「劣化」は宿命的な問題
【安井】EVの課題としてはバッテリーの劣化の問題や充電時間の問題などもありますね。
【清水】バッテリーは電気化学反応だから劣化は宿命的です。電気がなくなる途中で充電すると劣化しやすいので、いったん空にしてから充電すればいいんだけれど、走っていてバッテリーを空にするなんて怖くてできない。電気自動車を3、4年乗ればバッテリーは劣化しているから中古価格はとても低くなる。2年たったスマホなんて誰も買いませんよね。
モータージャーナリストの清水和夫氏
【安井】まだEVの課題は多いですね。
【清水】でも、テスラは劣化が少ないというユーザーの報告もあります。おそらくそれはファクトだと思いますが、バッテリーの使い方に工夫があると思います。
【安井】どんな工夫でしょうか?
【清水】バッテリーは満充電すると劣化が激しくなるので、SOC(State of charge)90%以上は使っていない。つまり、目一杯電気を充電しない。また、充電温度に関しては0℃以下や60℃以上では劣化が早いのです。テスラが使うパナソニックのバッテリーはもともとパソコン用なので、体積当たりのエネルギー密度は高いのですが、体積当たりの出力密度が低いと聞いています。温度管理を徹底し、セルの数を増やして対応しているのだと思います。
【安井】大量のバッテリーを積むことがポイントですね。
【清水】はい、当然コストがかかります。このように温度管理をどうするのか。自動車としてバッテリーを使うには高い技術力が必要となります。科学技術的な事実を無視して、ゴルフ場の電動カートや簡単な街乗りのパーソナルEVのようにモーターとバッテリーがあれば簡単にクルマは走るって、みんな思いすぎている。だからいろいろなベンチャーが出てきて、挫折していったんです。そこを乗り越えたのがテスラだけだったんですがね。
【安井】でもテスラが技術的な限界を乗り越えて、普通の使用に耐えるクルマをつくったとは言えませんか。
【清水】もちろんカリフォルニアとかフロリダとか、あまり暑くなく、あまり寒くない地域はOKです。でもテスラのクルマが売れている理由はEVだからではなくて、クルマがセクシーだからだと思います。速い、かっこいい、乗ると静か。排ガスを出すテールパイプがないから白いドレスも汚れない。タキシードを着てパーティーに行くならテスラで行ったほうがいいとなる。ポルシェを持っている人がテスラに乗り換えている。
すべてが「テスラ」にはなり得ない
【安井】EVがプレミアムブランドならまだしも、大衆車としてガソリン車やディーゼル車に置き換わるのはすぐには難しいということですか。
【清水】重要だと思うのは(1)どういうEVをつくるのか、(2)EVをどのように使うのか、の視点です。その視点が欠けています。アーリーアダプター(オタク)を満足させることができても、本格的な普及は難しいと思います。
【安井】EVが今あるすべてのクルマに将来は置き換わるのではないか、という見方が多いわけですが、EVは特定分野で特定の使い方をする、ということですか。
【清水】テスラのようにプレミアムブランドを目指す道が一つ。もう一つはコモディティ化したシェアリングのモビリティとして使うという道です。EVは二極化が進むと思います。テスラが開拓したEVのプレミアムブランドの世界はベンツもポルシェも本気になってクルマを出してくるでしょう。プレミアム市場をテスラに奪われていますからね。一方、別の使い方としては、例えば京都や鎌倉の郊外までマイカーで行って、そこで小型のEVをシェリングサービスで借りる。観光地の中はEVばかりが走っているというイメージです。そういうマーケットはできると思います。
【安井】充電時間も短く、高速道路を何時間も走れるというクルマがEVに代わるというのは難しいということでしょうか。
【清水】現時点では既存の自動車メーカーは難しいと考えていると思います。ドイツのメーカーは、アウトバーンを時速180キロで何時間も走れるようなクルマじゃないとクルマじゃないと思っています。そんな走り方は今のEVでは無理です。イギリスやフランスが2040年までにガソリン車やディーゼル車を禁止して、EVに置き換えると言っているし、ドイツも最近はディーゼル批判をかわすために、EVにシフトすると言ってますが、これはかなりポリティカルな発言だと思います。
英仏の「2040年」の目標は政治的
【安井】でも欧州ではEV化の動きが激しくなっていませんか。
【清水】フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車の排ガス不正問題がパンドラの箱を開けたからです。もともと欧州の排ガス規制は甘かった。欧州は緯度が高くて日本のように光化学スモッグが出にくいのでNOxに対する規制は緩かった。いまはようやく厳しくなりましたが。一方、温暖化で氷河が溶けているということは欧州では身近な現象だったのでCO2(二酸化炭素)に対する規制は厳しかったのです。
清水和夫氏(右)と安井孝之氏(左)
【安井】VWの排ガス不正問題で、欧州でも排ガス問題に厳しく世論の目が向いてしまったということですね。
【清水】最新の基準は日米と同じくらいNOx(窒素酸化物)を厳しく規制するようになりましたが、欧州の過去の基準はNOxは甘かったのです。そのために、昔の規制で認可されたディーゼル車がまだ多く走っています。古いディーゼル車から新車にすればインセンティブを出していますが、今回のVWの不正で世論に火が付き、「一気にEVに移行せよ」と勢いがついたわけです。
【安井】ところがEVの実力をみるとガソリン車やディーゼル車を総入れ替えできるほどではないように思います。もちろん今後、予想もしないような技術が生まれ、課題を克服することもあるでしょうが、英国やフランスが宣言した2040年までにすべての新車をEVにするという目標はどうなると見ていますか。
【清水】見直されると思います。ただEVを否定しているわけではありません。EVにはいいところもたくさんある。次回以降でお話しますが、水素を燃料とする燃料電池車(FCV)の利点もあります。EVと言ってもバッテリーとモーターだけのEVだけでなく、日産ノート(e-POWER)のようにエンジンを使って発電し、モーターで動くクルマもありますし、EVに小さなエンジンを発電機として使うレンジエクステンダー型EVもあります。いろんな形の電動化したクルマが適材適所で使われるということだと思います。クルマの世界が一種類のクルマで支配され、一色になるという将来像は間違っていると思います。
(次回更新は9月14日の予定です)
清水 和夫(しみず・かずお)
モータージャーナリスト
1954年生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年に自動車ラリーにデビューして以来、プロレースドライバーとして、国内外の耐久レースに出場。同時にモータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで活躍している。日本自動車研究所客員研究員。
安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
(写真=AFLO
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