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深く考えず実家を相続→毎年多額税金地獄…売却も賃貸も活用もできず方策なし
http://biz-journal.jp/2017/09/post_20521.html
2017.09.11 文=秋津智幸/不動産コンサルタント Business Journal
少し前に、親から相続した土地と家屋について相談を受けました。この相談を通して、空き家問題だけではなく、土地も個人にとって負の財産となりかねない怖さを垣間見ました。
相談に来られたのは、東京にお住いの30代後半のご夫婦で、相談の対象となった不動産はご主人の両親が亡くなるまで住んでいた実家の土地・家屋に関するものでした。その土地と家屋を相続したご主人は、固定資産税等の不動産の維持費が馬鹿にならず、このままではお金がもったいないうえ、将来子どもの養育費などを考えると生活不安の材料になるのではないかと心配しての相談でした。
問題となっている土地・家屋は、北関東の田と畑に囲まれた一角にありました。相続した土地には宅地と、それほど広くありませんが農地が含まれていました。周辺には農業を営む親族もいたようですが、代が進むにつれ疎遠になり、現在は特に付き合いがあるという関係ではないといいます。今は両親が亡くなり、住む人のいなくなった家屋は次第に傷みが出てきており、管理されていない農地も荒れ始めているという状況で、毎年、土地と家屋にかかる固定資産税を支払っていました。
今後、建物の維持、もしくは解体などの費用や農地も雑草に対する苦情などを考えると少なからず土地の維持費も相応に負担となります。そうした状況で、何かいい方法はないかというのが相談内容でした。
■相続放棄はできなかったか
この状況で議論しても始まらないのですが、相続放棄という手はあったのではないかという話が出ました。相続放棄すれば、特別縁故者がある場合、その人に対する相続財産分与、それでも相続人がいない場合は国庫に帰属することになります。しかし、相談に来られた方は、親が少し金銭的な財産を残していたうえ、当該不動産は自分にとっても実家という思いもあり、そのまま相続したそうです。一般的に、同じようにあまり深く考えずこうして相続を受ける方が多いのではないかと思います。
また、このときは話題に出なかったのですが、相続時に土地等不動産で納税する「物納」という方法もあります。しかし、物納には条件があり、この相談者の方のケースでは相続財産の中に金融資産が含まれていたので、物納はできないケースでした。仮に、金融資産がなかった場合でも、当該不動産は物納の対象とならなかった可能性が高いように思われます。
■売却はできないのか
最初に相談者が考えたのは当然、売却することでした。地元の不動産業者に何件か相談したようですが、どの業者も難色を示したようです。実際に何カ月か売り出したものの、買い手は付かなかったそうです。
すでに所有してしまっている以上、黙ってお金が出ていくだけというのは腑に落ちないため、何かに活用し、少しでも収入を得て負担を軽くしたいというのは当然の考え方です。そこで、以下のような案を出して検討してみました。
(1)そのまま少し家屋を直して賃貸住宅として貸す
賃貸需要が見込めず、貸し出すことは難しい立地でした。仮に安い賃料で貸すことができたとしても、大家として修繕義務を負うこともあり、建物の傷み具合から考えるとかえって支出のほうが多くなるのではないかということで断念しました。
(2)更地にして駐車場として貸す
周辺の住宅は敷地が広く、自家用としての駐車場需要はほとんどなく、またトラックなどの事業用としても環境的に難しいことからやはりこの案も断念。
(3)更地にしてコンテナなどを置き、収納として貸す
駐車場と同様に、周辺の住宅環境からトランクルームのような外部収納に対する需要が期待できず、断念。
(4)更地にした後、太陽光発電設備を設置し、売電収入を得る
もっとも可能性が高そうでしたが、解体費や、特に太陽光発電設備購入費などの捻出が難しく、その時点で断念。
このほかにも、住宅ではなくレトロなカフェとして貸すなどの案はありましたが、結局、立地に対する需要が見込めず、何か収益を得ることに関しては、投下する資金に対して回収のめどが立たず、リスクが大きく資金的な余力がないと難しいという結論になりました。
■行政に移管する
相談者は行政区である町に移管できないかという相談もしていました。私道は道路として、周辺に広域避難所などがない場所では公園用地などとして、周辺に対して公共的に維持することが有益な土地などは、市区町村など行政に無償で提供(移管)するということもあり得るのですが、あくまで維持管理することになる行政側が承諾しないと移管することはできません。相談のあった土地は、そうした条件が当てはまらず、町に移管を断られました。
■周辺の人に破格あるいは無償で譲渡する
売却はできなかったのですが、周辺で農業を営む親族あるいは第三者がいることは間違いないので、そういった周辺の方に破格あるいは無償で譲渡するということも考えました。もちろん、相手があっての話ですが、問題となってしまった土地・家屋を手放すには、このケースではもっとも可能性が高い方法でした。
今は疎遠になってしまっていても、親族なので相談を持ちかけてみることになりました。これからいつまで支払うことになるかわからない負担が、解体や更地化の費用などに限定されるならそのほうがいいということでした。
■空家等対策の推進に関する特別措置法の制定
相談の中では、家屋の傷みがひどくなる前に、早々に解体してしまうのはどうかという話も出ましたが、解体費や更地化に伴う課税額負担の増加を相談者は懸念されていました。しかし、平成27年2月26日に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、簡単に言えば、人が住まなくなった家屋と敷地について、「特定空家等」と指定されると、所有者は行政から「指導」「勧告」「命令」「代執行」といった措置がなされることになります。
この指導や勧告は、その空き家を「適正に管理しなさい」というものです。また、「特定空家等」に指定されると、固定資産税の優遇措置から外され、更地と同じ税金を支払わなければなりません。
この特措法によって、家屋がある以上はその管理費用も発生することになるので、前述の周辺の方に無償譲渡の相談という方向性もあるので、解体については検討するということになりました。
今回の相談のケースは、実家ということであまり深く考えず相続した土地と家屋が、後に自分の負担となっているケースでした。ただ、これは珍しくないケースだと思い、話題として取り上げました。
空家対策特措法の施行によって空き家に対する関心は高まっているようですが、個人の負担という側面で見ると、家屋だけではなく、土地そのものも負担になってしまうことを忘れてはいけません。仮に、特措法によって行政が家屋の解体を代執行し、更地になった後も土地に対する固定資産税などの個人負担は残ります。空き家のみならず、人口減少や過疎化に伴う地方の土地問題は、今後もっと深刻になっていくのではないかと懸念しています。
(文=秋津智幸/不動産コンサルタント)
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