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日本郵便まで宅配料金を値上げすることを発表。実は、宅配大手3社の料金表を読み解くと、苦境の裏で周到なシェア奪取作戦を練っていることがわかる
「宅配値上げ」に透けて見える各社の周到なシェア奪取作戦
http://diamond.jp/articles/-/141479
2017.9.8 鈴木貴博:百年コンサルティング代表 ダイヤモンド・オンライン
ついに「ゆうパック」まで
宅配クライシスで相次ぐ値上げ
9月5日、日本郵便が「ゆうパック」の料金を来年の3月1日から平均12%値上げすることを発表した。これまでにヤマト運輸、佐川急便も値上げを発表しており、これで宅配便大手3社がすべて値上げを決めたことになる。国内の宅配便シェアはこの3社で93%を占めるため、この発表は宅配市場全体が値上げをすることになったのとほぼ同義であることを意味する。
値上げの背景には、周知のように「物流クライシス」と呼ばれる業界の危機がある。インターネット通販やオークション、フリマなどの発達で宅配便の量が増加し過ぎて、すでに運び切れない量の荷物が宅配業者に持ち込まれているのだ。
そのため国内の半分近いシェアを持つヤマト運輸では、総量コントロールを施策として打ち出した。今期の宅配便取扱個数を前年度と比べて3600万個減らすというのである(当初計画の約8000万個から削減幅を下方修正)。
しかし、8月の段階でもまだ荷物は減らずに増加している。確かに今年3月時点で前年比6.0%増だったヤマト運輸の宅急便取扱い個数は、6月には4.6%、8月には2.6%となっており、削減へのコントロールは効き始めている。しかし結局のところ、8月までの上期累計では4.2%増加しているので、年間の取扱数量を大きく削減することは不可能な状況である。
とはいえ物流危機を回避するには、少なくとも短期の数量の抑制は不可欠である。経済学的な視点で言えば、数量を抑制する一番確実な方法は値上げだ。仮に価格弾力性を保守的に1.0だと見積もっても、ゆうパックのように12%値上げをすれば荷物の量は12%減少する。
おそらくだが、実際に今の宅配便の量を押し上げているのは、通販の送料無料の需要であろうことを考えると、そこが値上げされれば需要は値上げ幅以上に減るはずだ。なぜなら、不要不急の衝動買い的な需要は価格弾力性が大きいから、送料が無料でなくなれば、買う人は減るはずだからだ。
ただ問題は、宅配便の荷物の9割が値上げが確定した個人向けではなく、現在進行形で値上げを交渉している大口契約の法人向けであるということだ。中でも最大顧客であるアマゾンが、ヤマト運輸に対してどれだけ値上げに応じてくれるか、そしてその値上げ分をどれだけ消費者に転嫁するかがはっきりしないと、宅配便の量が減るかどうかははっきり見通せない。
この夏、アマゾンをはじめ大口の通販業者と宅配各社がぎりぎりの交渉を重ねている。一部の大口顧客は値上げどころか取引を切られてしまったという報道もあるとおり、何らかの成果は出ているようだ。ただ残念なことに大口取引の契約内容は各社のトップシークレットであり、公表されることはないだろう。だからこの切り口で宅配クライシスの未来がどうなるのかを占うのには限界がある。
個人向けの値上げプラン
に見る宅配3社の「思惑」
その代わりと言っては何だが、個人向け宅配の値上げプランを分析してみよう。実は、そこに各社の異なった戦略が見て取れて興味深いのだ。各社がどんな思惑を持っているかを、ナナメ視点から読み解いてみよう。
3社の中で最初に値上げを発表したのはヤマト運輸だ。値上げは今年の10月1日から。ヤマトによれば、値上げ幅は平均15%になると発表されている。
ヤマトの発表から2ヵ月遅れて佐川急便が値上げを発表した。値上げ実施は11月21日からで、「大型荷物は現行より平均17.8%、最大133%(当初33%と発表したが後に訂正)の値上げ」とされているが、実は値上げ幅が大きいのは170サイズを超える飛脚ラージサイズ宅配便で、宅急便と同じ60サイズから160サイズでは値下げ幅は3社の中で一番小さい。ヤマトから少し遅れて、あまり値上げをしないというのが佐川のスタンスである。
そして、今回発表された日本郵便の値上げ実施は来年3月1日で、値上げ幅は平均12%と極めて平均的だ。ここから、各社それぞれの戦略意図を裏読みすることができる。
まず重要なのは値上げ時期だ。早く値上げをする会社ほど荷物の量を減らしたい、遅く値上げをする会社ほど荷物の量を増やしたいという台所事情がありそうだ。
つまり、シェア47%と業界トップのヤマト運輸は、とにかく他社に先んじて値上げをすることで総量を減らしたいのだ。また2位でシェア31%の佐川急便は、そのヤマトの荷物を奪いたい意欲がありそうだ。ただし、荷物の量が増える年末が来る前に一定のシェア奪取を終え、年末年始は平穏にやり過ごしたいという考えだろう。
そして3位の日本郵便は、シェア16%と上位2社に引き離されている。日本郵便であるがゆえに、実は配送キャパシティも3社の中では比較的余裕があるようだ。そのため今回の値上げのタイミングは、完全にシェアを取りに行くために設定されたように感じられる。
需要の多い年末も含め、5ヵ月のタイムラグを大いに利用して安い運賃で荷物を引き受けることが狙いではないか。ただし、それでは長期的に見て現場に無理が出るため、3月にはきちんと値上げをして辻褄を合わせるということだろう。
大きな荷物を残したいヤマト、
小さな荷物を安くしたい佐川
一方で興味深いのは、3社の値上げ幅が荷物の大きさによってまったく異なるという点である。ここに各社の戦略の違いが見て取れる。
各社の運賃を東京〜大阪間の荷物の場合で比較してみよう。ヤマト運輸の場合、値上げ幅が一番大きいのは60サイズで値上げ率は17%、そこからサイズが大きくなるにつれ値上げ幅は小さくなり、160サイズは10%しか値上げしていない。
つまり、どうせ総量を減らすのであれば、玄関まで配達する手間は同じなのだから、できるだけ大きい荷物を残しておきたいという考えで、値上げ幅をコントロールしているわけである。
次に佐川急便はこの逆で、60サイズは税込864円で、価格はなんと据え置きになっている。そこから100サイズは5%、160サイズは10%の値上げと、大きい荷物の価格を上げていく。実はもともとの価格の違いもあって、佐川急便の料金体系では60サイズが3社の中で最安になる一方で、100サイズ、160サイズはほぼ3社横並びの価格設定になっている。
これは、ヤマトやゆうパックから価格に敏感な顧客を奪い取る際に取られるプライシング。最安値の商品ではとにかく一番安くすることによって、「価格が安い」というイメージをつくることができるやり方なのだ。特にヤマトと逆のプライシングをすることで、ヤマトが進んで手放そうとしている60サイズの顧客をごっそりと引き受けることができる価格設定になっている。
3社の中で、ゆうパックがどのサイズでも同じような値上げ幅になっているあたりは、何となく郵政省時代の慣習を踏襲しているように見え、これはこれで微笑ましい。
値上げに走る苦境の裏に
実は周到な「シェア奪取作戦」
実際の荷物の変動がどうなるかは、大口顧客の動向を見なければわからないが、価格表を見た限りで言えば、次のことが言えるのではないか。
・ヤマト運輸は、小さい荷物の数量をとにかく減らしたい。
・佐川急便は、逆に小さい荷物が増えてもいいから安いイメージを維持し、ヤマトの顧客を奪いたい。
・日本郵政は、とにかく5ヵ月間のタイムラグを利用して、他の2社からシェアを奪いたい。
そんな思惑が透けて見える、今回の値上げ発表なのであった。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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