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GPIFが一兆円を運用すると決めた「ESG投資」その判断は適切か 気持ちはわかるが、リターンは?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52572
2017.08.18 山崎 元 経済評論家 現代ビジネス
■注目の「ESG投資」とは何か
公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、国内株式への投資の3%程度にあたる資金1兆円を、「ESG投資」で運用し始めたことを発表した。
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の視点から企業を評価して、優秀企業に投資する運用手法で、かつて普及しかけたSRI(社会的責任投資)に近い運用の考え方だ。
具体的には、ESG投資の考え方に基づいて作成された3種類の株価指数(それぞれ採用された上場銘柄数は151社、251社、212社だという)をターゲットとする。
3種類の株価指数の中には、例えば「MSCI日本株女性活躍指数」などといった、女性活躍推進法により開示される女性雇用に関するデータに基づき、多面的に性別多様性スコアを算出、各業種から同スコアの高い企業を選別して構築する指数もある。
指数に採用されたい企業は、女性の管理職ポストを増やすとか、あるいは女性の社外取締役を多数選任するといった「傾向と対策」が可能だろう。
これが、ある種の社会的望ましさにつながる面はあろうが、経営的、あるいは業績的にプラスに働くのか否かは、率直に言って、何とも言えない。
GPIFは、ESG投資の拡大を検討しているとのことなので、今後、こうした指数に採用される企業が投資の上で注目されると見る向きもあって、企業側が関心をもつ可能性もある。
「ESG投資」の趣旨からすると、企業がESGに関して競争的になって、環境問題や社会問題を起こすリスクが縮小するようになるといい、ということになろうか。
■「他人のお金で正義ヅラ」は許されるのか
年金基金のような投資家がESG投資を行うことは、望ましいのだろうか。
前記の趣旨を考えるなら結構なことのように思う向きもあろうが(事実、GPIFはそう思ったのだろう)、反対論もあり得る。
簡単に言うと、ESGの観点で相対的に劣る会社でも、「投資のリスクとリターンの観点で望ましい状態にある会社」は多数存在する。
ESG投資は、投資可能な会社の中からこうした会社を除外してしまう可能性があるので、ESG的な制限のない投資と比較すると、必然的にポートフォリオに期待できるリスク・リターンが劣後する(ポートフォリオを作る時点のリスクとリターンで、必ずそうなることは、運用のプロなら分かるはずだ)。
言い換えると、ESG投資は、社会的な望ましさの観点から、リスク・リターンの効率性を一部犠牲にしている。
一方、年金基金のような投資家は、他人から預かった資金でベストの運用を行うことを義務付けられている。組成時点で最適ではないことが明らかなポートフォリオに対して投資することが、厳密な意味で許されるのかには疑問がある。
百歩譲って、個人投資家が「社会的に好ましい行動だ」と思って自分のお金をESG投資に振り向けることは、人それぞれの判断なので問題ないが、年金基金のような「他人のお金」を預かる投資家が、「他人のお金で、正義ヅラをする」ことが許されるのだろうか。
筆者個人は、年金基金でのESG投資に対しては、この意見に与する。
ちなみに、個人投資家に対する投資アドバイザー、あるいは、年金加入者に対する年金基金のような、「他人のお金」に影響を与える専門家は、最終投資家ほど立場が自由ではないはずだと筆者は考えている。
■これは不適切ではないか
もっとも、GPIFの意図も分からなくはない。
まず、固いことを言わなければ、ESG投資と通常の投資(GPIFであればTOPIX連動のインデックス運用)の勝ち負けは、大まかに言って、「勝ったり、負けたり」だろう。
先のポートフォリオ上の優劣は、期待値に基づく論理的な優劣であり、実際の運用がどう転ぶかは、「やってみなければ分からない」。
仮に、ESG投資がパフォーマンスの足を引っ張らないとすれば、GPIFの高橋理事長が「ESGの情報開示に積極的な企業が正当に評価されるような循環を作りたい。
今後、企業側の情報開示の促進が不可欠」と語っている(『週刊東洋経済』2017年8月12・19日号記事より)ように、企業に情報を出させて、投資家により広い側面から企業が評価されるようにする効果があれば、長期的に日本企業の企業経営に対して「刺激」になるかも知れない分だけ、日本企業への投資家として得な場合があるかも知れない。
ざっと35兆円もの日本企業の株式を抱えて、ポートフォリオを大きく動かすことがままならないGPIFにとって、ESGの概念を持ち出すことで日本企業を「刺激」して、日本企業のパフォーマンスを向上させることを通じて、運用成果を改善しようとする試みなのだと解釈するなら、当たらずといえども遠からずだろうか。
もっとも、あまりに迂遠な試みのような気がしなくはない。
また、もともとの制度設計として、公的年金が日本企業の軒並み大株主になることが、適切なのかどうか、という問題がある(筆者は「不適切」に一票入れる)。
■「ESG投資はお勧めしない」
観点を変えて、GPIFのような大手機関投資家から運用資金を預かる運用ビジネスの側からESG投資を見ると、その普及は「止むに止まれぬ新機軸の一つだ」という側面があろう。
率直に言って、インデックス・ファンドによるパッシブ運用は、「ライバルの平均を持つことの有利性」に加えて「運用報酬が低廉であること」もあって、無難で、安くて、同時に有利だ、という事実が、投資家の間に相当に広く知られてしまった。
それでも、何らかのアクティブ運用で資金を集めようとする試みは相変わらずあるが、ビジネス的には必ずしも有望でない。
そうなると、巨大化する低廉なコストのパッシブ運用に滞留している資金を、何とかあぶり出して、運用に別の付加価値を付けなければならない。付加価値を付けるとは、もっと直裁に言うと、より高い手数料を稼ぎたいということだ。
そのためには、「ESG」のような価値観を持ちだして、純粋な運用効率から顧客の視点をずらしたり、あるいは議決権行使に熱心になることに付加価値を付けようと考えたりといった、ビジネス上の試みが必要になる。
こうした試みは、年金運用のコンサルタントや、株価指数を作るインデックス・プロバイダーにとっても好都合だし、実は、年金基金業界にとっても、自分たちの仕事を作り出す上で好都合な面がある。
もっとも、今回のGPIFは、新しい株価指数を作るようインデックス・プロバイダーに働きかけて、その株価指数をターゲットとしたインデックス・ファンドで運用するので、運用業界としては大きな手数料収入増は期待できまい。
なお、証券業界としては、これらの株価指数の構成銘柄やウェイトが変わる際に、株式を取引することで利益が得られる可能性がある(投資家が不利になる!)。今後、3つのESG株価指数の何度かの銘柄入れ替えがどのような影響をもたらすかを注意して見る必要がある。
個人投資家にとって、ESG投資を行う運用商品は魅力的だろうか。
「考え方が好ましいので、投資効率を度外視してでも投資したい」という人がいる場合には敢えて止めはしないが、筆者個人がアドバイザーの立場に立つなら、「ESG投資はお勧めしない」と答えるだろう。
投資するものではなく、眺めるものにしておくのが良い。
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