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風俗嬢にもなれない「最貧困女子」から人生について考えてみた
http://diamond.jp/articles/-/138222
2017.8.16 橘玲:作家 ダイヤモンド・オンライン
作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は現代日本の貧困について考える。
■リア充とプア充
私が「人生のインフラ」を構成する3つの資本(金融資産・人的資本・金融資本)に思い至ったのは、現代日本の(とりわけ若い女性の)貧困を取材したノンフィクション作品を読んだときです。読者のなかには「貧困のことなど興味がない」というひともいるかもしれませんが、これは私たちがどのような社会に生きているかを知る興味深い事例なので、その話をしましょう。
ジャーナリストの鈴木大介氏は、『最貧困女子』(幻冬舎新書)で“リア充”と“プア充”について述べています。
リア充とは、一流企業に勤めていたり、友だちや恋人がいたりして、ネット上だけでなくリアル(現実)も充実している若者のことです。
一方プア充は、貧困ラインを大きく下回る年収100万〜150万円の地方の若者たちのことですが、鈴木氏は「彼らはプアではあるが“貧困”ではない」といいます。なぜなら、彼らの日々の生活は充実しているからです。
鈴木氏が紹介するプア充は北関東に住む28歳の女性で、故障寸前の軽自動車でロードサイドの大型店を回り、新品同様の中古ブランド服を買い、モールやホムセン(ホームセンター)のフードコートで友だちとお茶し、100円ショップの惣菜で「ワンコイン(100円)飯」をつくります。肉が食べたくなれば公園でバーベキューセットを借りて、肉屋で働いている高校時代の友人にカルビ2キロを用意してもらい、イツメン(いつものメンバー)で一人頭1000円のBBQパーティをします。
家賃は月額3万2000円のワンルーム(トイレはウォシュレットでキッチンはIH)、食費は月1万5000円程度だから、月収10万円程度のアルバイト生活でもなんとか暮らしていけます。負担が重いのはガソリン代ですが、休みの日はみんなでショッピングモールの駐車場に集まり、車1台に乗ってガソリン代割り勘で行きたいところを回るのだといいます。宮藤官九郎脚本のテレビドラマ「木更津キャッツアイ」で描かれた世界そのままで、彼ら彼女たちの生活は友だちの絆によって成立しています。
誰もが同じような経済状況で貧富の格差がほとんどないから、「生活がキツい」と感じることはあっても自分が「貧しい」とは思いません。不幸や貧困は相対的なものですから、客観的な基準ではプアでも主観的には充実しているひとたちがいることは不思議でもなんでもないのです。
ちなみに彼らは将来についても現実的で、「さっさと彼氏と共稼ぎになったほうが生活も人生も充実」するから早婚が当然で、「(この辺では)女は30代になっても賃金上がらないし、むしろ年食うほどマトモな仕事がなくなる」から、金はなくても体力がある20代で第一子を産んで、30歳になるまでに「気合で」子どもを小学校に上げるのだといいます。
乏しい収入を人的ネットワーク(社会資本)で補うのは、東南アジアなど貧しい国ではごく当たり前のことです。そこに日本的な特徴があるとすれば、フィリピンなどでは家族のつながり(血縁)が大切にされるのに対し、地方のマイルドヤンキーたちは「友だち」を社会資本にしていることでしょう。
地方の若者たちの友だちネットワークは、同級生からなる5〜6人の「イツメン」を強固な核とし、同い年の仲間が30人くらいいて、先輩や後輩を合わせれば100人程度の集団を形成しています。彼らは地元が大好きで友だちを大切にしますが、金融資産や人的資本はほとんど持っていません。「資本」が社会資本に大きく偏っていることを考えれば、“友情”や“地元愛”という特定の価値観だけが極端に強くなるのは当然のことなのです。
■デフレ化するセックス
バイトや非正規雇用で貯金がなくても、分厚い社会資本を持つことで充実した人生が送れる。そんなプア充が存在するのは素晴らしいことですが、問題なのは誰もが「友だちの輪」に入れるわけではないことです。
友だちグループは、「俺らに合う」奴を仲間とし、「ウザい」奴を排除することで成立する人間関係です。これはあらゆる共同体(コミュニティ)に共通する法則で、参加資格に(しばしば暗黙の)高いハードルがあるからこそ、内部の結束が高まります。
しかしこれは、どの友だちグループにも所属できない層が一定数生まれるのは避けられない、ということでもあります。これほどまでいじめが社会問題になりながらも“根絶”できないのは、それがヒトの本性にもとづいているからです。
「地元」はベタな人間関係の世界ですから、いったん友だちグループから排除されてしまうと、なにひとつ楽しいことがありません。こうして学校を卒業すると(あるいは中退して)東京や大阪などの大都市を目指すのですが、そのときじゅうぶんな金融資産か人的資本を持っていないと、(社会資本は地元に捨ててきたのですから)すべてをかき集めてもほとんど「資本」を持たない状態になってしまいます。鈴木氏はこの状態を「貧困」と定義するのです。
これまで経済大国・日本では、若い女性は貧困とは無縁だと考えられてきました。「若い」というだけで市場価値があり、その気になれば人的資本を「水商売」や「風俗」でマネタイズ(現金化)できるからですが、ジャーナリストの中村淳彦氏は『日本の風俗嬢』(新潮新書)で、2000年あたりを境に風俗の世界に大きな地殻変動が起きたと述べています。
ひとつは、少子高齢化と価値観の多様化(男子の草食化)によって風俗の市場が縮小したことです。もうひとつは、女性の側に「身体を売る」ことへの抵抗がなくなって、風俗嬢志望者が激増したことだといいます。
需要が減って供給が増えたのだから、市場原理によって価格が下落するのは当然です。これが「セックスのデフレ化」で、かつては月100万円稼ぐ風俗嬢は珍しくなかったのに、いまでは指名が殺到する一部の風俗嬢の話でしかなく、地方の風俗店では週4日出勤しても月額20万円程度と、その収入はコンビニや居酒屋の店員、介護職員などとほとんど変わらないといいます。
貧困線上にある若い女性にとってさらに深刻なのは、景気の悪化によって風俗業界が新規採用を抑制するようになったことです。そのため現在では、10人の応募者のうち採用されるのはせいぜい3〜4人という状況になってしまいました。日本社会は(おそらく)人類史上はじめて、若い女性が身体を売りたくても売れない時代を迎えたのです。
このようにして、金融資産と社会資本をほとんど持たずに地方から都会にやってきた若い女性のなかに、唯一の人的資本であるセックスすらマネタイズできない層が現われました。
彼女たちは最底辺の風俗業者にすら相手にされないので、インターネットなどを使って自力で相手を探すか、路上に立つしかありません。それでもじゅうぶんな稼ぎにはほど遠く、家賃滞納でアパートを追い出され、ネットカフェで寝泊まりするようになる――すなわち「最貧困女子」の誕生です。
■風俗で働く高学歴女子大生
風俗の仕事が若い女性たちに認知されたのは、獲得した顧客に応じて収入が増える実力主義・成果報酬の給与体系で、出退勤や労働時間、休日を自由に決められる完全フレックスタイムだからです。これはグローバルスタンダードにおける最先端の働き方で、サービス残業で会社に滅私奉公するのが当たり前という日本的労働慣行に適応できない若いひとたちにはきわめて魅力的なのです。
『日本の風俗嬢』でもうひとつ驚いたのは、風俗嬢たちがきわめて堅実な将来設計を持っていることです。
東京新大久保のファッションヘルスに勤める33歳の女性は介護福祉士の資格を持ち、あと2年実務経験を積めばケアマネジャー(介護支援専門員)の受験資格をもらえるといいます。育児休業中の時間がもったいないのでAVデビューするという35歳の女性は、介護老人保健施設の現場主任をしていました。また大阪難波のSMクラブでは、9人の女王様のうち3人は介護の仕事をしていたといいます。彼女たちはみんな、年齢的に“性”を売ることができなくなったら介護の仕事に戻ることを考えているのです。
風俗業界に介護関係者が多いのは、介護業界の賃金が低くてそれだけでは食べていけないということもありますが、いちばんの理由は仕事の性質がよく似ているからです。彼女たちからすれば、介護において高齢者に提供していたサービスを男性一般に拡張すると風俗になるのです。
かつては身体を売ることが女性にとっての最後のセイフティネットとされていましたが、いまでは介護業界が、風俗で働けなくなった女性のセイフティネットになっているのです。
(作家 橘玲)
『幸福の「資本」論』 橘玲著
ダイヤモンド社 定価1500円(税別)
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