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日本銀行(撮影=編集部)
日銀、政策を間違え、景気悪化を招いていたことが判明
http://biz-journal.jp/2017/08/post_20143.html
2017.08.12 文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授 Business Journal
8月1日付日本経済新聞のインタビュー記事で、元日本銀行副総裁の岩田一政氏が、在任中の2007年2月の利上げが失敗であったと発言し、注目されている。当時岩田氏が反対したことは、先日公表された07年1〜6月の金融政策決定会合の議事録で確認することができる。
筆者にとって、今から10年前の日銀議事録はきわめて興味深い。06年3月、日銀は量的金融緩和を解除した。筆者は当時総務大臣補佐官をしていたが、そのときの消費者物価統計が安定的にプラスになっているという日銀の主張に対し、筆者は消費者物価統計には上方バイアスがありプラスでないと主張していた。そのため、06年3月時点では日銀が量的緩和を解除することに反対であった。
この主張は、当時の竹中平蔵総務大臣と中川秀直政調会長らには賛同してもらったが、与謝野馨経済財政担当大臣らが強く反対し、結局政府は何もアクションを取らずに06年3月、日銀は量的緩和を解除した。当時官房長官だった安倍晋三現首相に、筆者はこの量的緩和解除により半年から1年後に景気が悪くなるといった。結局、筆者の主張が正しく、安倍首相は国会でもこの量的緩和解除に懐疑的な意見を述べており、それがアベノミクスの金融緩和につながっている。
量的緩和解除に続いて、無担保コールレート(オーバーナイト物)について、06年7月に0%から0.25%、07年2月に0.25%から0.5%へと利上げし、さらなる金融引き締めを行った。06年7月の利上げは全員一致で岩田氏も賛成であったが、07年2月には岩田氏が反対した。副総裁は総裁を補佐する立場であり、利上げは決定会合議長つまり総裁の提案なので、これはかなり異例である。
07年2月の金融政策決定会合の議事録をみると、岩田氏の苦悩が読み取れる。岩田氏と他の委員との意見の違いは、物価の将来見通しについてである。岩田氏は物価上昇率の先行きに不透明感が強いことを強調し、他の委員は楽観的であった。
物価については、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比でみて、06年7〜12月は小幅プラス(0.1〜0.3%)であったが、07年1〜6月は小幅マイナス(▲0.3〜0%)だったので、岩田氏の懸念はもっともだった。その根拠として、岩田氏は潜在成長率を1.7%としていると主張していたが、これは驚きである。日銀は最近まで0%台半ばとしている。今年4月には上方修正し0%台後半としているが、07年当時に日銀執行部である副総裁が潜在成長率1.7%と主張していたのは驚きだ。もちろん当時の議事要旨にはまったく書かれていない。
■白川日銀の失敗
筆者としては、この岩田氏の前提はまともであり、その後の物価上昇率の推移を説明できると考える。しかし、岩田氏は06年3月の量的緩和解除、7月の利上げにも反対すべきだった。というのは、岩田氏が根拠とした潜在成長率1.7%は、中期的には大きく変化するものではなく、07年になって初めて出てきたものではないはずだからだ。そしてこの前提は、06年の量的緩和解除以降の物価の動きを説明できる内容になっている。
さらに重大だったのは、その後の白川方明日銀総裁は岩田氏の意見を取り入れることはできなかったことだ。そして、潜在GDPの天井が低いという日銀の前提は、リーマンショック後に他の先進国で採用された巨額の量的緩和を、日銀がやらなかった原因になっている。
白川総裁時代のデフレ志向の審議委員は、安倍政権になってすべて入れ替わった。ただし、今でも事務方の資料では潜在GDPの低い天井という前提を引きずっている。具体的には、日銀のいう構造失業率である。これは「下限の失業率」を意味するが、理論的には潜在GDPと表裏一体のものだ。日銀は公式には構造失業率を3%台半ばとしているが、これは潜在GDPを低く見積もっているのと同義である。
もっとも日銀金融政策決定会合の審議委員は、日銀事務方があまりに低い構造失業率を採用していることを承知している。このため、06年と07年のような白川日銀のような性急な金融引き締めは行わないはずだ。ましてや、ゼロ金利解除については、失業率が十分に低下してから行うはずだ。
この意味で、白川日銀のOB評論家がいくら出口論を主張しても、今の日銀はそうしないだろう。なぜなら、白川日銀の失敗を、今の日銀幹部はよく理解しているからだ。
(文=高橋洋一/政策工房代表取締役会長、嘉悦大学教授)
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