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年収1千万でもマンションを買えない時代…もう私たちは異常な高値での購入はやめよう
http://biz-journal.jp/2017/08/post_20099.html
2017.08.08 文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト Business Journal
会社員にとって「年収1000万円」というのは、ひとつの目標だ。年末に渡される源泉徴収票を見て、支給総額が初めて1000万円を超えていたときの感動はひとしおのはずだ。
『2025年東京不動産大暴落 』(榊淳司/イースト・プレス)
しかし、今の東京都心では年収1000万円でもまともな住まいを購入することは難しくなった。
この現象を解くキーワードは「不自然」と「不健全」。たとえば、家族4人でゆったり暮らすには85平方メートル程度の広さが必要だ。この広さの新築マンションを山手線の内側で購入するとなると、今の市場感覚では1億1500万円くらいが必要となってくる。仮に、年収1000万円の会社員が年収と同じ1000万円の自己資金を持っていても、その購入には無理がある。その人の属性にもよるが、ローンは組めないだろう。これはいったいどういうことか?
■不自然な力
アベノミクスと呼ばれる経済政策が始まったのは2013年。その頃から東京の都心では不動産価格の上昇が始まった。やがてその波は都心から城南エリアに広がる。同年の9月に東京での五輪開催が決まるや、埋立地である湾岸エリアにも波及した。
その後、異次元金融緩和や円安による外国人の不動産爆買い、さらには相続税対策の不動産投資などが重なって、都心のマンション価格はどんどん上昇。アベノミクスが始まる前の12年当時と比べると、マンションの価格は実感として1.3〜1.5倍にハネ上がった。
まだ民主党(現民進党)政権だった12年、港区内新築マンションの相場観は、超一等地でもない限り坪単価で350〜400万円台前半だった。文京区なら300〜350万円。仮に坪単価350万円だとすると、85平方メートルのマンションなら販売価格は9000万円。年収1000万円のサラリーマンが同じく1000万円の自己資金で購入する場合、多少無理目だがなんとか購入は可能だ。ローンも下りる可能性が高い。ただ、私はそういう買い方は勧めないが。
しかし、年収1000万円といえば全男性会社員の上位6%に入る、いわば「勝ち組」。その勝ち組でさえ山手線内でマンションを買えない、というのはどういうことだろう。
これは、明らかに不自然な力が働いている異常現象である、と私は考える。不自然な力とは、まずは史上最低水準の低金利。銀行経営まで危うくしているこの低金利は、不自然を通り越して不健全だ。
次に、相続税の控除枠を厳しくしたにもかかわらず、不動産の評価基準を低く抑えたまま放置している不自然な制度。これももはや不健全である。相続される財産が金融資産であろうと不動産であろうと、市場の認める価値で評価すべきなのだ。
外国人の不動産購入を無制限に認めているのも、不自然だ。外国人が居住のために所有権を得ることに規制を設けるべきではないが、投機目的の購入にはなんらかの制限を設けてもしかるべきであろう。日本の不動産市場を外国人の思惑によって混乱させてほしくない。
■不自然な価格高騰を助長する行為をやめる
ただ、こういったさまざまな外的要因を見つけ出してあれこれと処置を講ずるだけでは、この不自然な価格高騰を抑えることはできない。最も不自然な現象は、このバカ高くなった都心のマンションを、不自然とは思わずに買っている人がいるということなのだ。
私は一般の方々からマンション購入の相談を受けることが多い。常々感じることは、多くの人は不動産を購入することに大いなる歓びを感じている。興奮もする。つまりテンションを上げてしまうのだ。そのこと自体は悪くない。マイホームを持ったり、収益を上げてくれる不動産を所有することは人にとって大きな喜びだ。
しかし、テンションが上がり過ぎると普通なら見えるものも見えなくなってしまう。
「こんな価格、いくらなんでもおかしいだろう」
そう思う人が多数派になれば、高くなったマンションは売れなくなる。売れないと、価格が下がり始める。
私はマンション市場を眺めて、あれこれと自分の考えを書いたり話したりするのが仕事だ。この30年ほど、首都圏のマンション市場を継続してウォッチしてきた。私から見ると、今の市場は明らかに不健全だ。その理由は、年収1000万円の方でもまともなマンションが買えない現実がある一方で、マンション自体は新築も中古も賃貸も、市場では余っているという、市場原理では説明の困難な現象の共存状態。これがなんとも不健全なのだ。
さらに不思議なことに、バカ高くなったマンションを「さらに上がる」という思惑を持って購入している人々が少なからずいる、という実に不可解な購買行動。
都心の超の付く一等地で建設が進められている、とある新築マンション。立地も最高だが、価格も最高水準。不動産業界人なら「あれが今回のバブルの最高峰か」と思える物件だ。
私は今まで、そのマンションについての購入相談を3件ほど受けた。驚いたことに、その3件すべてが転売目的での購入だった。その内、2件はすでに購入したあとで、私への相談は売却についてだった。
不動産業界では、17年に入ってピークアウト感が定着し始めた。6月に出版された拙著『2025年東京不動産大暴落』(イースト新書)は、たちまち増刷が決まった。世間が「そろそろ不動産価格は峠を越した」と気づき始めた兆しではなかろうか。
私が「局地バブル」と呼ぶ地域限定の不自然な不動産価格の上昇も、ある一面「買う人がいる」から継続、拡大してきたわけである。その「買う人」の中のかなりの割合が、住むためではなく、値上がり期待や相続税対策が目的だったが、これは不健全だ。
だから、多くの人がそういう不自然な価格高騰を助長する不動産の購入をやめれば、市場は健全な状態に戻ろうとする。すなわち、不自然に上がった不動産価格の下落。そうなれば、年収1000万円の人が山手線内でまともなマンションを買える、という自然な状態に戻る。
不自然な現象を起こしている不健全な購買行動は厳に慎むべきだろう。そうすることで将来の損失を回避できる。同時に、このゆがんだ都心のマンション市場を自然かつ健全な状態へと導くことができる。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)
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