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生活保護の扶養義務が叫ばれるなか、家族の貧困を描いた漫画作品『家族の約束 〜あなたを支えたい〜』を読んでみたい。家族の助け合いによって困窮が倍加していくストーリーは、現実に起き得る事態だ(写真はイメージです)
家族の貧困、助け合うほど苦境が深まる残酷な現実
http://diamond.jp/articles/-/136625
2017.7.28 みわよしこ:フリーランス・ライター ダイヤモンド・オンライン
助け合うほどに深まっていく
家族の困窮を描き出した漫画
レディース・コミック誌『フォアミセス』(秋田書店)に連載されていた、漫画家・さいきまこ氏の連載『家族の約束〜あなたを支えたい〜』(以下『家族の約束』)が、現在発売中の同誌8月号で完結した。
全5回の連載は、家族への愛情に溢れた70代の夫妻と40代の娘・息子が、互いに支え合いたいと思うあまり、不安と苦しみをかえって拡げていくことになるメカニズムを余すところなく描き出す。個々のエピソードは、貧困状況に陥る家族の「あるある」話だ。
典型的な中流サラリーマンとその妻という70代の夫妻は、子どもたちに可能な限りの教育を与えつつ、郊外の団地の4階に「終の棲家」を購入していた。娘は結婚し、夫と1人娘とともに幸せな生活を送っている。息子も結婚して1人息子に恵まれていたが、妻と息子に去られ、1人暮らしをしていた。
ところが、夫が病に倒れて半身不随となったところから状況が一変していく。退院後は妻の懸命な自宅介護が始まり、ついで息子が介護を手伝うために両親のもとに身を寄せる。後に、息子はうつ病で失職し、アパートを家賃滞納で追い出されていたと判明するが、そんなときだからこそ息子を守りたいと願う両親だった。しかし一家の状況は、深い家族愛があるにもかかわらず、悪化するばかり。影響は、結婚している娘の一家にも及んでいく。
『家族の約束 〜あなたを支えたい〜』連載第1回扉絵。年金生活を送る70代の夫妻、それぞれの暮らしを営む40代の子どもたちの平穏な日常から物語はスタートする (c)さいきまこ
家族の状況は、夫の病気を機に一変する。「一変したかのように見える」というのが正確なところだろう。というのは、たまたま同じタイミングで起こったかのような出来事、あるいはいきなり表面化したかのように見える出来事のそれぞれに、一家や家族のメンバーそれぞれの努力ではどうにもならない背景の数々があるからだ。
物語後半、妻と息子は他の家族と支え合うことを断念せざるを得ない状況に陥り、生活保護で暮らし始めるのだが、そこから物語は光明が指す方向へと展開してゆく。さらに、息子の別れた妻子を含む孫世代の未来への歩みも重なり、感動的な結末へ至る。
感動を語る私に、作者・さいきまこ氏は、「フィクションですからね、希望のある結末にしなくては」と冷静に答える。
「『家族は互いに助け合わなくてはならない』ということになったとき、本当に助け合ったらどうなるのか、シミュレーションで示したいと思ったんです」(さいき氏)
そんな折となる7月19日、生活保護の扶養義務を果たしていない親族に対する調査を行うという厚労省方針が、メディア各社によって報道された。とはいえ、まさか『家族の約束』の完結直後という時期にぶつけたわけではないだろう。
フィクションを凌ぐ現実の勢いに「まさか、と思っていたのですが」と語るさいき氏は、「家族の『助け合い』の核が、実は『金銭の援助』だということを、この扶養義務調査は示唆していると思います」と言う。身も蓋もない話ではあるが、現実ではある。まずは生活保護と扶養義務の関係を整理しよう。
扶養「義務」と「不正」受給は
芸人の騒動以来、誤解されたまま
息子は、多忙と過労から妻子と離別することになったが、「自分が幼少期に遊んだフウセンカズラで、自分の息子と遊ぶ」という夢を持っていた。元妻は、中学生になった息子に父親のことを伝えるため、フウセンカズラを育て続けていた (c)さいきまこ
さいき氏は、お笑い芸人の母親が生活保護で暮らしていたことに関する、2012年春の一連の報道から語り始めた。当時「年収5000万円」と伝えられた芸人は、ひとり親の母親が生活保護で暮らし始めた当時は全く売れておらず、母親の扶養を考えたくても考えられない貧困状態にあった。その後、収入が増加すると、芸人は福祉事務所との相談によって仕送り額を決定し、母親に仕送りを行っていた。もちろん母親の生活保護費は、仕送りの分だけ減額されていた。芸人は、生活保護法が定める扶養「義務」を充分以上に果たしており、もちろん「不正」受給ではなかった。しかしネット世論には、「不正受給」という声が溢れた。
「恐ろしいと思うのは、『親に生活保護を受けさせるのは不正受給』という考え方が、日本人に馴染んでしまっていることです。扶養『義務』と言われたら、たいていの日本人は『義務なんだから、親族の扶養から逃れちゃダメ、逃れるのは脱法行為』と思い込んでしまいますよね」(さいき氏)
今回の報道の見出しや本文には、「扶養義務逃れ」を改善して生活保護の「適正化」に結びつけるための調査、といった文言が並ぶ。しかし生活保護制度は、日本の他の制度と地続きだ。家族に関しては、民法に従うことになる。民法で、自分の生活を切り崩しても親族の生活を支えなくてはならない「生活保持義務」が定められているのは、未成熟の子に対する親・夫婦間だけだ。高齢の親に対する子の扶養義務、成人に達した子に対する親の扶養義務、その他3親等内の親族に求められる扶養義務は、「生活扶助義務」と呼ばれる弱い扶養義務である。「したければ、全く無理がない範囲で仕送りを」ということだ。
考えてみていただきたい。高齢の両親が生活保護で暮らす必要は、年収1200万円の企業管理職にも発生する。「子どもが医学部に進学したがっているけれども国公立大学の医学部は難しそう」「近々、米国に赴任する可能性が高いけれども、円安なので貯蓄をできるだけ増やしておきたい」など、収入と外見だけでは測れない事情が、どの家庭にもあるはずだ。
両親の生活費の援助だけなら何とか可能でも、「医療費や介護費用の負担までは全く無理」というケースも多いだろう。1人っ子同士の夫妻なら、4人の親と夫妻の子の負担を一気に背負うことになるが、それは不可能というものだ。20世紀に計算機シミュレーションに従事していた私は、「そんなの、シミュレーションしなくてもわかる」と言いたくなる。無意味なシミュレーションを貶す言葉の定番だ。
生活保護で暮らし始めた母と息子のもとに、福祉事務所のケースワーカーが訪問調査に訪れ、なかなか就労できない息子に苛立つ。息子は、40代の働き盛りの年齢なのに働けない自分を受け入れられずに苦しんでいる (c)さいきまこ
「今回の厚労省の調査は、『だって扶養は義務なんでしょう?』『逃れるのは不正なんでしょう?』というように、『扶養』『義務』『不正』といった言葉が独り歩きしそうで、心配でなりません。2012年、お笑い芸人のお母さんのことが騒がれたときに、『不正受給』という言葉が誤解されたまま広まってしまったように。それを心の底から懸念しています」(さいき氏)
私も同感だ。ただ、私は良くも悪くもロジックに強く、法の論理で納得してしまう。扶養義務についても、「どんなことになっても親の面倒を見なくちゃいけない? 親だけで生活保護を受けさせてはいけない? 節子、それ民法の『扶養義務』と違う。お前の思い込みや」で済んでしまう。
しかし、さいき氏の紡ぐ漫画作品と物語は、あらゆる人々の感情に届き得る、広く長い射程を持っている。
「実質的に『家族に生活保護を受けさせてはいけない』ということになったとき、結果として困るのは、どこの誰か? それを、物語として提示したいのです」(さいき氏)
「助け合い」の恐ろしさと
家族の苦しみの必然性
そもそも世の中には、「家族の助け合い」が考えられない家族もいる。配偶者の暴力から命からがら逃げ、その後も怯え続けるDV被害者がいる。暴力を振るったり振るわれたりする両親を目の前に見てきたDV被害者の子どもたちもいる。子どもを虐待する親がいれば、高齢の親を虐待する子もいる。家族の中には、どのような人間も、どのようなシチュエーションもあり得るのだ。
「でも、『自分は家族と助け合って暮らしていける』という方々には、助け合えない家族のことは『所詮は他人事』という感じで、なかなか共感してもらえないんです」(さいき氏)
とはいえ、家族の助け合いを難しくする出来事はありふれている。たとえば親の介護、介護により余儀なくされる離職、子どもの進路変更……直面してから気づいても遅い。
「ですから、『家族と助け合って暮らしたい』と思い、家族に何かあったら『心から助けたい』と思っている方々のために、実際にやってみたら何が起こるのかを見てほしい。そうすれば『助け合い』という言葉の裏にあるものが見えてくるのではないかと思うのです」(さいき氏)
実際に支え合ったら何が起きるか、
シミュレーションによる思考実験
医療ソーシャルワーカーは、必死のパート労働で母と弟を支えようとする娘に、「困窮という苦しみは分け合うと倍になる」と語りかける (c)さいきまこ
そして、『家族の約束』の物語が生まれた。主人公一家を含め、「支えられる」人数に対して「支える」人数が少なすぎるわけではない。少なすぎる場面をあえて挙げれば、息子の別れた妻と1人息子が母子世帯となり、厳しい状況にあること程度だ。それなのに、家族が助け合い支え合おうとすればするほど、困窮の深刻さと範囲が広がっていく。
もしかすると、家族が助け合い、支え合っていられる状況は、偶然のめぐり合わせの重なりの上に、家族それぞれの家族の内外との人間関係や社会的な状況がバランスしているようなものなのかもしれない。辛うじて成り立っている均衡と平衡は、重なった「めぐり合わせ」のどれか1つが変化したり、あるいは家族のうち1人の状況が変化したりするだけで、容易に崩壊するものである。『家族の約束』の一家の均衡と平衡も、高齢夫妻の夫の病気と死を直接の引き金として、カタストロフィックに崩壊し始めた。
しかし、家族それぞれを「健康で文化的な最低限度」ながら支える生活保護があったため、最も厳しい状況に陥った母親と息子は、個人レベルでの崩壊を免れた。そして、母親の娘(=息子にとっての姉)と安定した関係を結び直すことができた。さらに息子には、別れた妻子との関係が再び紡ぎ始められる幸運が訪れた。10月中旬に刊行予定の単行本(『助け合いたい 〜老後破綻の親、過労死ラインの子〜』に改題予定)で、ぜひ物語を味わっていただきたい。
いずれにしても、家族が家族だけで助け合い、支え合おうとしたとき、家族愛が吹き飛ぶほど苦しい状況に置かれるのは、その家族たち自身なのだ。そして私は、『家族の約束』の全話を読み返して思う。この作品はまぎれもなく、シミュレーションならではの、シミュレーションによってしか成し得ない思考実験そのものだ。
「困窮は分け合うと倍加する」
という気づきを生んだもの
病院の医療ソーシャルワーカーは、助け合おうとする家族が結果として引き起こす悲劇を、職業柄、数多く見てきた (c)さいきまこ
『家族の約束』に登場する医療ソーシャルワーカーは、「分け合えば、喜びは倍に、苦しみは半分になるというけど、困窮という苦しみは分け合うと倍加する」と語る。母と弟に生活保護を受けさせまいと、サラリーマンの夫・高校生の娘との生活を支えながら必死でパート収入を増やし、自分の健康・夫や娘の生活を危機に陥れかねない状況にある娘にかけた言葉だ。この「困窮という苦しみは分け合うと倍加する」という言葉は、誰かが語ったわけではなく、「取材を通じて浮かび合ってきた」(さいき氏)だということだ。
「経済的な問題に関しては、家族の助け合いはしないほうがいいんです。問題が個人にとどまっている間に、その個人を救済したほうが、リスクは最小限で済みます」(さいき氏)
『家族の約束』の冒頭では、40代の息子が、離婚・うつ病発症・失職の末、アパートの家賃を滞納して住まいを失う。その事実が発覚するのは、父親の介護のため両親との同居を始めてからだが、「そういう時こそ息子を支えたい」というのが夫妻の思いだった。しかし、この同居に端を発して、一家はドミノ倒しのように困窮状態に陥っていく。さいき氏は「同居前に、息子が1人で生活保護を受けていれば、一家の悲劇は起こらなかったはず」という。
「生活保護のもと、医療扶助を使って、うつ病を治療すれば、無理なく『自立』へと歩めました。家族が助け合ったために、かえって家族の傷が深くなったんです」(さいき氏)
個人の問題が個人にとどまっていれば、ドミノ倒しの最初のドミノは倒れない。しかし、息子が生活保護で暮らし始めることは、現実的に可能だろうか。福祉事務所に行けば、家族の状況を質問されるだろう。両親は一応は持ち家に住んでおり、年金暮らし。福祉事務所の相談員は、おそらく実家に帰ることを勧めるだろう。
「両親もおそらく、彼の窮状を知れば『帰ってこい』と言うでしょう。それが家族愛によるものであっても、結局はこの物語と同じ成り行きをたどることになります。個人が個人として救済される仕組みが必要なのではないかと思います」(さいき氏)
困窮した人の生活基盤には
やはり生活保護が必要
本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中
現在、働き盛りの世代にとっては、高齢の親が生活保護を利用できるかどうかの方が、切実な問題かもしれない。親が生活保護を申請すれば、子どもには「扶養義務」がある……と説明される。とはいえ、親に対する子どもの「扶養義務」は生活扶助義務。親の生活を丸抱えする必要はない。
「でも『扶養義務』と言われると、誰もが果たすべき義務だと誤解されますよね。『仕送りでいいんです』と福祉事務所に説明されても、『丸抱えは無理ですが、何円なら許してもらえますか?』となるでしょう。そして、そのために子どもの学資保険を解約しなくてはならなくなったら、どうします? 子どもに『希望通りの進学はあきらめてくれ』と言えますか? ならば、その『扶養義務』を果たした先に何が起こるのか、それを示すのがフィクションの役割だと思うのです」(さいき氏)
困窮は、明日、あなたを襲うかもしれない。あなたの身近な誰かを襲うかもしれない。そのとき、これまで大切にしてきた関係を保ち続けるためには、困窮した人の生活の基盤が生活保護で支えられる必要がある。今のところ、社会保障が脆弱な日本には、他の選択肢がほとんどないからだ。
(参考)
・秋田書店『フォアミセス』誌ページ
https://news.yahoo.co.jp/byline/ohnishiren/20170720-00073519/
・時事ドットコムニュース「扶養調査の実態把握へ=生活保護適正化で−厚労省」(2017年7月19日)
http://www.jiji.com/jc/article?k=2017071900742
・朝日新聞デジタル「扶養義務逃れ、改善狙い調査 生活保護で厚労省」(2017年7月20日)
http://digital.asahi.com/articles/DA3S13045137.html?_requesturl=articles%2FDA3S13045137.html
・Yahoo!ニュース「生活保護の『扶養義務の強化』は『貧困の連鎖』を生む」(大西連氏、2017年7月20日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/ohnishiren/20170720-00073519/
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