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2017年3月、EU本部で講演を行った安倍首相 Yves Herman-REUTERS
「グローバル化は終焉、日本はEUに加盟せよ」水野和夫教授
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/eu-81.php
2017年7月24日(月)15時51分 長岡義博(本誌編集長) ニューズウィーク
<トランプ当選もブレグジットも歴史の必然だ、と説く『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』著者の水野和夫・法政大学教授。「閉じた帝国」が複数並び立つ時代を、日本はどう生き抜くべきか。インタビュー前編>
グローバル化の旗振り役だったはずのアメリカとイギリスが昨年、「トランプ当選」「ブレグジット」によって相次いで自国第一主義に舵を切ったことは世界を驚愕させた。しかし、これは繰り返される歴史の必然だ、と説くエコノミスト、水野和夫・法政大学教授の新著『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済 』(集英社新書)が話題を呼んでいる。
常に「フロンティア」を求める資本主義とグローバリズムは終焉の時を迎え、これから世界は100年を掛けて「閉じた帝国」が複数並び立つシステムに移行する――。グローバル化と資本主義を追い求めた「海の帝国」アメリカが衰退し、EUや中国など閉じた「陸の帝国」が生き残る、という水野教授の主張は、現実の世界で起きていることと不思議なほど符合する。
超低金利政策の出口が見えず、中国という「帝国」の圧力を常に受ける日本は今後どう国際社会を生き抜くべきなのか。水野教授に聞いた。
――グローバリズムと資本主義が終わりを迎え、世界が「帝国」化に向かうのであれば、その中で日本はどうふるまうべきなのか。EUと連携をと主張されるが、遠く離れた「帝国」との連携は現実的なのでしょうか。また、中国という隣の「帝国」と日本はどう向き合うべきでしょうか。
EUに加盟申請すべきと最新刊『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』で主張したのは、日本もEUと同じく「陸の国」の陣営につくというメッセージを出せ、という意味です。世界史は「陸と海のたたかい」であるという見方がありますが、「海の国」である英米が勢力を握った時代が、資本主義の終焉とともに終ろうとしています。だからこそ、EUという「陸の国」に接近しておかなくてはなりません。
ただ、露骨に「陸の国」と同盟を結びたいと打ち出すとアメリカを過剰に刺激してしまう。まずは世界的な超低金利傾向のトップランナーである日本とドイツが仲良くしよう、というサインを出すのです。いわばゼロ金利同盟です。
長期金利と利潤率は近似値を示すものなのですが、ゼロ金利の日本とドイツでは、利潤率が限りなく低い。資本主義は利潤を増やすことを金科玉条としてきましたが、日独ではいち早く資本主義が終わろうとしているのです。大きな歴史の転換期、「歴史の危機」にいち早く突入したこの2国で、21世紀の新しい経済を考えよう、という提案をすればいい。
過去をさかのぼると、ほぼゼロ金利の国はほかにもあった。17世紀初頭のイタリアです。イタリアは当時のゼロ金利という「歴史の危機」を乗り越え、400年後の今もG7に残っている。ゼロ金利を経て生き残っているイタリアに、何が決め手か教えてもらわねばなりません。
――刺激的ですね。
そうした形で、EUとアメリカに対して、二股を掛けておくことが必要です。「海の国」であるアメリカは衰退の兆しを見せ、混乱しています。メキシコとの国境に壁を作ろうとしたり、イスラム教国からの入国を禁止したり。
なにより、「世界の警察官」の役割から降りる、世界秩序に責任を持たないとも言っている。例えば、北朝鮮が持っているミサイルのうちアメリカに届くICBMだけに反発し、それより射程の短いミサイルを許容する姿勢を見せているということは、同盟国・日本を守る気がないと言っているのに等しい。
日本は、国家として二枚舌を使っても、「海の国」と「陸の国」の両方に保険をかけておく必要があります。
水野和夫・法政大学教授
――どちらかと言うと日本自身が「海の国」のようにも思えますが。
日本は過去に「海の国」についた時もあれば「陸の国」についた時もある。「海の国」の時代には「海の国」と同盟を結ぶのが正解で、例えば、第一次世界大戦の時の日英同盟ですね。第二次世界大戦に際しては、まだ「海の国」の時代が続いていたのに、「陸の国」の独伊と手を結び、「海の国」アメリカに歯向かって大敗した。
しかし、21世紀のこれからの時代は「陸の国」の時代。「海の国」にしがみついても良いことはありません。
――EUのような遠く離れた地域連合と同盟を結ぶのはイメージしにくい。
もちろん理想は、地理的に近い諸国との連携です。ASEANプラス3(日中韓の3カ国)あるいはASEANプラス6(上記に加えてオーストラリア、ニュージーランド、インド)で、日本海から南シナ海までを「平和の海」にする。かつてローマ帝国の最盛期、地中海には軍艦も海賊もいなかった。長い目で安全保障体制を築いていくためには、南沙諸島や尖閣列島の問題も早期に解決しようとあせらず、じっくり取り組むべきです。
――著書で中国も閉じた「帝国」になると指摘しているが、まさに「閉じた中国」はその影響力を東南アジアまで拡張しようとしている。非民主的な「帝国」である中国とどう向き合うべきか。
中国は今のままでは存続できないように思えます。国が豊かになるためには近代化を経る必要があり、生産力は工業化でつけるしかない。工業化はすなわち機械化で、動力を動かすためにエネルギーがいるし、高速で動かす必要もある。エネルギーは近代化にとってコストです。
日本の高度成長は1960年代に1バレル=2〜3ドルという低価格で原油を手に入れることができたおかげで達成できましたが、21世紀に入ってからは1バレル=50〜100ドルとなり、中国の成長の足かせとなっている。
また現代は、市場の需要の限界という問題もある。高度成長期の日本は、アメリカという巨大な市場があって成功した。しかし、21世紀の現在は先進国を中心に需要は飽和状態になっている。もう市場がないのです。
これを逆から見て言われるのが、中国の過剰生産問題です。鉄鋼、マンション、自動車などで需要以上の過剰な生産が起きている。今の中国の製鉄所の生産能力と現実の稼働率からすると、ほぼ赤字だと思う。稼働率が75〜85%でないと採算が合わないと言われています。中国は年間8億トンの鉄鋼を作っているが、あと4億トンの余力がある。つまり12分の8(66%)しか稼働していない。
中国ではこうした民間の赤字を国家が肩代わりするから、国家債務も増えています。日本の財政赤字は、医療や年金、介護の形で国民に還元しているけれども、中国は国民皆保険もできていない。その段階なのに、国家財政が赤字だというのは大変なことです。
国民全体が豊かになる以前に、近代化が行き詰まってしまっている。今の帳尻合わせが限界に達した時に中国共産党はどうするのか。打つ手がないのではないでしょうか。
【参考記事】貿易戦争より怖い「一帯一路」の未来
――「一帯一路」は中国が自分を救うための戦略だ、過剰生産を解消するためのプロジェクトだ、と著書で指摘されています。中国経済をハードランディングで崩壊させていいのか、という問題だとも思うのですが、もしそれが起きたらショックはリーマン危機の比ではない。ただ、中国経済を救うと非民主的な中国が今後も続いてしまう、というジレンマがある。
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中国経済が危機に陥った時、それを救える国はありません。1000兆円規模のGDPがある中国を、500兆円規模の日本が救済しようとしても無理。ASEANプラス日中韓で連携する時の中国とは、ひょっとしたら分裂した後の中国なのかもしれません。
――日本人の中には安易な「中国崩壊期待論」があります。89年のベルリンの壁崩壊後、「やっかいな社会主義」は数年で消え去った。それと同様に、「やっかいな中国」がある日突然消え去ってくれないか、という願望ですが、一方でこれほど大きくなった中国が崩壊するリスクは大き過ぎます。
日本企業は、中国に進出するなら慎重になったほうがいいと思う。世界の上場企業が保有する現金預金は12兆ドル(日本円で1350兆円)。これは使い道のないお金なのですが、もし世界が「中国は有望だ」と感じていたら、この中の相当部分が企業の中国進出に使われているはず。世界の経営者はもはや中国を魅力的だと思っていない。
――アメリカについてうかがいます。トランプ当選が必然なら、トランプは当然再選する、と考えますか?
トランプが再選するか、あるいは、トランプでは物足りないとアメリカの中間層が判断すれば、右派か左派かはともかく「もっと過激なトランプ」が登場するでしょう。中間層の痛みを理解できないヒラリー・クリントン的な政治家が当選することはもうないと思います。
インタビュー後編
「日本に移民は不要、人口減少を恐れるな」水野和夫教授(ニューズウィーク)
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