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日本の「旅館」は、なぜ外国人にはウケが悪いのでしょうか(写真:hideko / PIXTA)
外国人が心底ガッカリする「日本の旅館事情」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170714-00180391-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 7/14(金) 5:00配信
『新・観光立国論』が6万部のベストセラーとなり、山本七平賞も受賞したデービッド・アトキンソン氏。
安倍晋三首相肝いりの「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」委員や「日本政府観光局」特別顧問としても活躍している彼が、渾身のデータ分析と現場での実践とを基に著した『世界一訪れたい日本のつくりかた』が刊行された。
本連載では、訪日観光客が2400万人を超え、新たなフェーズに入りつつある日本の観光をさらに発展させ、「本当の観光大国」の仲間入りを果たすために必要な取り組みをご紹介していく。
右肩上がりで成長を続け、何の問題もないかに見える日本の観光が、実はまだまだ多くの改善点や「伸び代」に満ちあふれている。そのことをわかっていただくための具体的な例として、前回、日本には「5つ星ホテル」が28軒しかないという問題を指摘させていただきました。
外国人観光客が年間2900万人訪れ、観光収入でも世界第6位につけているタイには「5つ星ホテル」が110軒あります。年間3200万人訪れているメキシコでも93軒。実際、139カ国を対象に分析すると、観光収入と高級ホテルの数との間には91.1%の相関があることがわかりました。
それをふまえると、日本の観光が「金持ちの客から稼ぐ」ことを重視してこなかったのは明らかです。だから日本は、観光客1人あたりの消費額が世界第46位と、かなり低いのです。
この記事は非常に多くの方に読んでいただいたようで、コメント欄にもさまざまな意見が寄せられました。このテーマが日本の観光戦略を考えていくうえで、非常に大事な議論だということを改めて感じました。
そのコメントのなかに、「5つ星ホテルはなくても、高級旅館があるからそちらに泊まればいいのでは」という主旨のものがありました。
「5つ星ホテル」のようなサービスをありがたがるのは海外の価値観に過ぎず、日本にはそぐわない。日本文化を体験しようとやってきているのなら「旅館」に泊まるのが筋であると言いたいのでしょうか。だとすれば、それは「郷に入れば郷に従え」ということで、かなり「日本人目線」です。
しかしそれをいったん脇に置き、外国人の立場から言わせていただくと、日本の「旅館」には、外国人が泊まるには多くの「ハードル」が存在するのです。
滞在中ずっと日本の旅館に泊まるという選択は、外国人にとっていろいろな点でハードルが高いと言わざるをえません。まして、普段「5つ星ホテル」に宿泊するような富裕層であればなおさらです。
それにくわえて、多くの方たちが主張する「旅館が伝統的な日本文化」という考え方にも疑問を感じます。いまのような「日本旅館」のスタイルは、戦後に人口が右肩あがりで増え、観光が大衆レジャー化していくなかで確立されました。新著『世界一訪れたい日本のつくりかた』のなかでも指摘している、いわゆる「昭和の観光業」です。
昭和時代の日本人観光客と、遠く離れた国から十数時間かけて訪日する、文化も価値観も異なる外国人観光客をいっしょくたにしてしまうのは、かなり乱暴な「おもてなし」ではないでしょうか。
■旅館が抱える「5つの大問題」
そこで今回は、「日本旅館」が訪日外国人観光客の受け皿になりづらい理由として、5つの問題点を指摘させていただこうと思います。
●問題点1:長期滞在に不向き
これからの日本がとるべき観光戦略を考えた際、「観光客数」よりも「観光収入」を重視していくべき、つまり「量より質」をとるべきだということは、かねてからお伝えしているとおりです。そこでカギになるのは「長期滞在」だというのは言うまでもありません。
1カ所に長く留まって、その周辺でさまざまな観光、飲食、ショッピングにおカネを落としてもらうのが理想的な稼ぎ方です。事実、外国人観光客の平均滞在日数は約10日間。アジア地域からの観光客を除くともっと延びて、約14日間になります。
そのような「長期滞在」戦略をふまえて、あらためて「旅館」がその受け皿になるか考えてみてください。
夕飯に出てくる豪華なコース料理も1日、2日なら新鮮で喜ばれるかもしれませんが、10日間食べ続けるのはかなりハードルが高いです。せっかく異国にきたのだから、さまざまな料理を食べてみたいと思うのは当然です。
日本人でも、同じ旅館に10日間泊まれと言われたら、多くの方が断ると思います。それは外国人ならなおさらです。「旅館を変えればいい」という意見もあるかもしれませんが、たとえ別の旅館だったとしても、10日間連続で旅館に泊まるのは、やはり厳しいのではないでしょうか。
●問題点2:ファミリー層に不向き
日本の旅館が家族旅行に向いているというのは、あくまで1〜2泊しかしない日本人の話であって、残念ながら外国人にはあてはまりません。
そもそも、家族が同じ部屋で宿泊するという文化のない国もあります。1泊くらいならば「これが日本の文化か」と布団をしいて川の字になって寝ることを体験しても、それを2週間も続けようとは思いません。
また、日本の「旅館」は宿泊費に食事が含まれていることが多く、なかには料理がメインになっているところもありますので、非常にコストがかかります。それほど食事をとらない小さな子供がいるようなファミリーの場合、ホテルよりもかなり割高になってしまうのです。
さらに一部屋いくらではなく、同じ部屋でも人数分の宿泊料を取られますので、家族連れにとって2週間分のコストはまったく割に合わないのです。
■旅館の「常識」は世界の「非常識」
●問題点3:ルームサービスが不十分
外国人が日本に10日間滞在するとなると当然、衣類などを洗濯しなくてはいけません。しかし、そのようなルームサービスを行っている「旅館」は少ないです。ほとんどが、地図を書いて近所のコインランドリーを教えるという対応でしょう。
「貧乏旅行」を楽しむバックパッカーならばそれでも問題ありませんが、限られた時間のなかでできるかぎり日本を堪能しようとしている外国人観光客に対する「おもてなし」としては、気のきいた対応とは言えません。
また、長いフライトを経て来るわけですから「時差ボケ」でなかなか眠りにつけないこともあります。夜中になにか食べたいという要望に応えられるルームサービスを行っている旅館も少ないのではないでしょうか。
●問題点4:「夜のエンターテインメント」がない
日本の旅館のフロントは、10時くらいになると人がいなくなってしまいます。「門限」が決められている旅館も少なくありません。部屋には仲居さんがやってきて、布団をしいてしまいます。お隣のお客さんもいますので、静かにしなくてはいけません。
そう、完全に「おやすみなさいモード」なのです。
外国人観光客からすれば、これも1日くらいであれば「これが日本の旅館か」という体験になりますが、10日間もこれを続けるのはさすがに「酷」であると言わざるをえません。
みなさんも自分に置き換えて考えていただきたいのですが、かなりの費用をかけて航空券や旅行代金を支払い、時間を捻出して遊びに来た海外のホテルで、夜になったら強制的に寝るように勧められたらどうでしょうか。
大きなお世話だと思うのではないでしょうか。
せっかく遊びにきたのですから、その国のナイトライフを最大限楽しみたいと思うのは当然です。訪日外国人観光客もしかりで、日本の夜を最大限に満喫したいのです。そのようなニーズに「旅館」がどれだけ応えられるのか、私には大いに疑問です。
●問題点5:老朽化が目立つところも
最後の大きな問題は設備です。特に地方の旅館の設備は、残念ながら遠い異国からやってきた観光客をもてなすのに十分とは言えません。
実は私も、自身が社長をつとめる「小西美術工藝社」の出張や観光関係の視察で、地方の旅館をよく利用しています。文化財に携わっている職業柄、どうしても建物の傷み具合などを確認してしまうのですが、悲しくなるくらい老朽化してしまっているところが多くあります。
壁紙が剝がれている、水回りや浴室が古い、しばらく畳を替えた形跡がない……例をあげればきりがありません。
みなさんが観光に訪れた国で「この国の観光の発展のためですから、こちらのメンテナンスができていない部屋で我慢してください」と言われたらどうでしょうか。「2度と来るか」と落胆するのではないでしょうか。
■そもそも、今のスタイルは「日本文化」なのか
ここまで、「旅館」がなぜ訪日外国人観光客の主な受け皿として不適切なのかを指摘させていただきました。このような話をすると、「日本の文化にケチをつけるなら来なくていい」と、建設的とは言いがたい議論になってしまうことがたびたびあります。
ただ、「旅館」に関して言わせていただくと、「そもそも日本文化なのか」という大きな問題もあります。
鬼怒川温泉、箱根、熱海などにある宴会場をそなえた大型観光旅館は、企業の慰安旅行や、町内会の親睦旅行などの「団体旅行」を対象に発展してきました。
団体でバスに乗り込んでみな同じような観光をするので、食事も同じ、部屋もみな同じ。滞在するのはほぼ1泊か2泊なので、布団をしけるだけの狭い部屋をたくさんつくったほうが効率良く稼げるのは言うまでもないでしょう。
では、このような「団体旅行」が、江戸時代などから続く日本の伝統的な観光のスタイルかというと、決してそうではありません。
たとえば、いまは多くが取り壊され、大型ホテル風の建物に変わってしまっていますが、明治期の文学作品などを読んでいただければわかるとおり、当時は長期滞在をすることもよくありました。
つまり、多くの方が「日本文化だ」と信じている「旅館」のスタイルは、実は戦後、人口が急激に増えたことによってポピュラーになった「団体旅行」をさばくために発展したものにすぎないのです。
実際、昭和時代に造られた大型の旅館は、つぶれてしまったところも多くあります。これからは、よりコンパクトで環境に配慮したものに変えていくべきでしょう。東京は1990年代から大再開発されていますが、観光の盛り上がりを受け、これからは地方の大再開発が活発になると思われます。
■そもそも「5つ星ホテル」の基準とは?
時代に合わせて「旅館」というスタイルが生み出されたのなら、訪日外国人観光客が2400万人を突破したいまの日本社会にマッチする宿泊インフラが求められるのも当然でしょう。
このようなお話をしても「日本の旅館やホテルは施設の質が高いから、新しい5つ星ホテルなどいらない」と主張される方もいます。
このような方の意見を聞くと、もしかしたら「5つ星ホテル」というものの定義自体が、まだ日本国内では十分に理解されていないのではないかと感じます。
英国政府観光局によると、「3つ星ホテル」と「4つ星ホテル」と「5つ星ホテル」の決定的な違いは、設備の豪華さなどの「ハード面」ではなく、サービスに代表される「ソフト面」、つまり「スタッフの質」です。
「3つ星ホテル」は、一般のホテルよりもややルームサービスの選択の幅が広いものの、限定的。「4つ星ホテル」はスタッフの経験が豊富で、客の細かい要望に応える。そして「5つ星ホテル」になると、滞在中の「すべて」の要望にしっかりと応える。
「すべて」ですから、館内にいるときに丁寧な対応をするだけではありません。
ビジネスパーソンであればイベントの企画なども手伝います。観光客ならば、どこへ行ってどのように観光をすれば最大の満足が得られるのかといったコーディネートから、ガイドブックに掲載されていない隠れ的なレストランの紹介や予約など、そこに宿泊している間のすべての面倒事を解決してくれるのです。
このようなサービスを提供するため、一般的には「1つの部屋に2〜4人のスタッフが必要」と言われているのです。
さて、それをふまえて日本の「旅館」を考えてみてください。はたしてそのようなサービスを提供できていると言えるでしょうか。
■宿泊施設の日本人スタッフには、もっと高い給料を
もうひとつ「5つ星ホテル」に否定的な意見として、「日本は土地が狭くて給料が高いので、そんな高級ホテルをつくっても収益をあげられない」という主張がありますが、これは事実ではありません。
欧州には日本より土地が狭く、給料が高い国はいくらでもありますが、「5つ星ホテル」は日本よりも多く、きちんと運営されています。
日本では考えられないほど高い宿泊料でも泊まる富裕層がいるので、働いている人たちも、格安ホテルで働く人たちよりはるかに高い給料をもらっています。
よその国が当たり前にできていることを、優秀な日本のホテルマンたちができないとは、私はとても思えません。
まだ整備されていない「5つ星ホテル」をつくって、海外の富裕層にも満足してもらえるサービスを提供して、そのサービスの高さなりの宿泊料をもらって、ホテルマンたちが今よりも高い給料をもらう。これがなぜ悪いのでしょうか。
私は日本の「旅館」を否定しているわけではありません。観光は「多様性」が命ですので、外国人観光客のなかには、「日本の旅館は最高だ」という人もいるでしょう(そういう人でも、2週間も泊まるのは無理だと思いますが)。
ただ、時代も客も変わってきているなかで、新しいサービスが整備されていくのは当然です。「旅館」という昭和のスタイルですべてに対応するのは、やはり無理があるのではないでしょうか。
今のマニュアル化された「旅館」というスタイルを見直し、日本の人口が1億人になる前の時代には存在した「日本の魅力」を再発見して、今の時代にも多少合わせた形に変える時期にさしかかっているのではないでしょうか。
デービッド・アトキンソン :小西美術工藝社社長
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