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人工知能が仕事を奪う、という根拠なき問いへの答え 「好むと好まざる」の問題ではなかった
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52089
2017.06.26 真壁 昭夫 信州大学経済学部教授 現代ビジネス
近年、IT空間におけるネットワークサイエンス、その技術への注目が飛躍的に高まっている。モバイル端末の普及、その機能の高度化によって、ネットワーク上に拡散するデータは増大する傾向にある。大量の端末が通信しあうことによって、多くの企業や個人に関する様々なデータが収集され蓄積されている。
これがビッグデータだ。このデータは従来のコンピューターでは分析することが困難なほど膨大なデータと考えられている。それをうまく使うためには、高度な統計処理能力を搭載したデバイス=人工知能が必要だ。ビッグデータの解析と人工知能の深層学習が進む結果、日々の業務の多くが機械に置き換えられるとの不安も高まっている。
ネットワークサイエンスの普及と仕事への不安
今、国内外の多くの企業がブロックチェーンなどのネットワーク技術に注目している。これに伴って、人工知能やロボットが人々の仕事を奪うという不安が高まっている。それを掻き立てる報道も散見される。ネットワーク技術や人工知能の開発は人間社会への脅威になりうると考えてしまう人もいるのではないか。
傾向として、ネットワークサイエンスの研究と実用化は止まらないだろう。金融業界では”フィンテック事業”(金融サービスとIT技術の融合)が強化されている。たとえば、銀行が仮想通貨を開発したとする。それを複数の金融機関が採用する。
この結果、理論的には、A銀行とB銀行が仮想通貨を使って資金を決済することが可能となる。円(法定通貨)を用いた決済に比べ、時間と費用は節約されるだろう。これは多くの人にとってメリットであるはずだ。
ネットワークサイエンスの開発と実用化によって、様々な経済取引にかかるコストは削減されるだろう。実際、国内の大手銀行でも、IT技術を使い人員を削減することが検討されているようだ。
たとえば、IT空間上で支店機能が提供されればどうだろう。24時間、好きな時に預金の引き出しや送金ができるのは便利だ。省人化が利便性を向上させる、この点はあまり議論されていないように思う。
それでも、「仕事がなくなる」との不安を抱く人は多い。確かに、マニュアル化されたルーティン業務はロボットや人工知能への置き換えが進むだろう。否、その認識が正しいかを冷静に見直すべきだ。
すでに、一部の仕事は人工知能などに置き換えられているのである。映画『ターミネーター』のような社会が実現するのではなく、それはすでに起きていると考えた方がよさそうだ。
深刻化する人手不足――それでもやまない不安
今、わが国では人手不足が深刻化している。運輸、金融、小売りなど、様々な分野で省人化を進めるべきだ。その方が生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることができるだろう。
政府は働き方改革により、過度な長時間労働を排して生活の質を高めようとしている。このために、ネットワーク技術は不可欠だ。人工知能が仕事を奪うと主張する根拠は見当たらない。
国内の人口動態を考えた時、生産年齢人口は減少していく。これはわが国だけの問題ではない。世界的に、需要を取り込み、成長を続けるためには省人化は避けられなくなりつつある。それが嫌なら、成長は期待すべきでない。
好む、好まざるにかかわらず、ネットワーク技術の高度化とそれを応用した省人化の流れは続くだろう。重要なことはそれに順応することだ。根拠なき不安は環境変化への適応を阻害する。
2045年、人工知能は人間の”知能”を超えるとの考えがある。これがシンギュラリティー理論だ。ビッグデータを解析することで、より効率的、かつ正確に作業を進めることはできるだろう。
問題は、”知性”だ。ビッグデータは量と質の側面で膨大な情報を含む。それは過去のデータだ。基本的に人工知能は、過去の現象に関するデータを解析し、そこから得られたトレンドなどを前提に予測する。
では、構造変化に人工知能は耐えられるだろうか。様々な意見があるが、わたしたちの知性はそれを可能にしてきた。知性があるから、これまでになかった状況に直面しても、経済は回復してきた。
100年に一度といわれたリーマンショック後の回復はその証拠だ。その点で、わたしたちの知性を活かすことが重要だ。人工知能を恐れるのではなく、それを活かす発想が求められる。
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