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バブル崩壊で何もかも失った「あの紳士」のその後 財布には二千円しか入っていなかった…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51926
2017.06.10 塩田 武士 小説家 「週刊現代」2017年6月17日号 現代ビジネス
小見出し
「霊長類ヒト科最強」「神武以来の天才」―。昔から格闘家や棋士ら勝負師には、心躍るような通り名がある。約30年前、空前の好景気を舞台に莫大な金を動かした”バブル紳士”たちも例外ではない。
「最後の大物フィクサー」「北浜の女相場師」「浪速の借金王」「地上げの帝王」「マムシ」―一定の年齢以上の方であれば、この通り名と顔が一致するかもしれない。
『【真説】バブル 宴はまだ、終わっていない』は、綿密な取材で「長銀を潰した男」と呼ばれた高橋治則の半生を解き明かす。最盛期には総資産一兆円の企業グループを率いながら、バブル崩壊後は「財布に二千円しか入っていなかった」と言われる男の人生が平凡であろうはずがない。
許永中や尾上縫に代表される通り、バブル期に桁違いの金を操った者の多くは、差別や貧困をバネに伸し上がっていったが、高橋はまるで違う。輸入物資を売りさばいて財を成した父のもと、慶応義塾大学から日本航空(JAL)へとエリートコースを歩む。
JALで出世の目がないと悟ると「サラリーマンは養殖ハマチ」と見切りをつけ、慶応人脈の同僚と貿易会社を設立。その後、父が社長を務める電子部品輸入販売の「EIEインターナショナル」に副社長として参加し、後にこの会社を中核として”一兆円企業”をつくり上げるのだ。
本書で指摘されている通り、高橋は「バブルを体現した男」と言っていい。カネ余りの時代、高橋は二つの信用組合と日本長期信用銀行(現・新生銀行)を財布にし、ゴルフ会員権、リゾート開発、株、絵画事業と、文字通り絵に描いたような「バブル事業」に染まり、会社を膨張させた。
「ハイアット・リージェンシー・サイパン」の買収は拍子抜けするほど呆気なく、それからハワイ、タヒチ、フィジーとシミュレーションゲームのごとく、高級ホテルを買い集めていく。
時価総額という目隠しの下、バブル期でも年商は数十億円程度だったといい、事業には芯がなかった。高橋は周囲に長崎の「平戸松浦藩主の末裔」と話していたが、取材班が現地に飛んで、この話が虚偽であることを突き止める。
「国家予算を動かしてみたい」「日本銀行は一万円札までしか刷れない。でも、私は一億円札が刷れるんですよ」という自信の裏に、虚像と政治家の影がちらつく。
本書は高橋が亡くなる五年前に上梓されている。バブル崩壊で何もかもなくした男は、投資顧問として復活の途上にあった。仕手戦の失敗で身を滅ぼした、大物政商の義父を間近で見ていた高橋は、最後に何を成し遂げようとしていたのか。
会社員が亡者になった
本書には、89年11月に野村證券が「九五年末に株価が八万円を超える」と予測したレポートを出した、という記述がある。『野村證券 第2事業法人部』を読めば、その強気の理由が分かる。
筆者の横尾宣政氏によると、「トリプルメリット」や「ウォーターフロント」の相場は、野村がシナリオを書いたという。
「業界のガリバー」が最も過激だった季節。鉄拳制裁でノルマ主義を叩き込まれた横尾氏は「コミッション(手数料)亡者」の通り名を引っ提げ、会社の王道を歩んでいく。
横尾氏が新人時代に目撃したひと幕。成果の上がらない課長代理の妻を呼び出し、上司が妻の前で夫を糾弾する様は背筋が凍る。ある客は値下がり確実の商品を押しつけられ、また別の客は株価の下落を隠したい野村の社員に、無断で運用報告書を捨てられた。
私の知る経済ジャーナリストが「一冊丸々特ダネのような本」と形容した通り、野村證券の裏側が克明に記されている。
87年のブラックマンデーで大損害を被った昭和シェル石油の救済では、横尾氏が「ドル建てワラント」を利用したスキームを考案。ロンドン、アムステルダム、ニューヨークを経由する壮大な計画だが、これがうまくはまり、五百億の損失を取り返した上、野村に数十億のコミッションをもたらした。
バブル期には経常利益でトヨタを抜いて日本一を達成した野村だが、その崩壊と損失補填問題で世間から非難を浴び、横尾氏は街中で見ず知らずの男に殴られ、幹部は防弾チョッキを身につけていたという。金は人を狂わせる。当時、兜町ではその剥き出しのドラマが繰り広げられていた。
野村から独立後、横尾氏はオリンパスの巨額粉飾決算事件に絡み有罪判決を受けた。中盤から登場するオリンパスの幹部Yの不気味さ、検察のシナリオ捜査の怖さが、横尾氏の詳細な記述から浮かび上がる。
『バブルの肖像』は前二作と打って変わり、陽気な写真エッセイ集。クラブのママが、アイスペールにピンク・ドンペリニョンとカミュのナポレオンを豪快に注ぎ込んでつくる「ピンドンコン」、京都・北山通りに出現したT字型の商業施設「SYNTAX」、JR東日本の忘れたい過去「E電」など最高のラインナップだ。
郵便貯金の宣伝ポスターのコピー「貯金もおしゃれにしま賞与。」が目にしみる。
(一部敬称略)
「週刊現代」2017年6月17日号より
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