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「働き方改革」を「賃金カット」の体のいい口実にさせるな
http://diamond.jp/articles/-/130136
2017.6.1 野口悠紀雄:早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問 ダイヤモンド・オンライン
安倍内閣は「働き方改革」政策で、長時間労働を厳しく規制する方向を打ち出している。この結果、何が起こったか? 「毎月勤労統計調査」によると、超過労働時間は減った。ただし、これは所定外給与を減らす結果にもなっている。他方で、本当に問題となる「過労死レベル」に近い長時間労働は減っていない。
労働時間の適正化は、生産性の向上よって実現すべきものである。「所定外労働時間」という表面的な現象だけにこだわって強制的に労働時間を減らせば、その歪みは労働者に及ぶ。
超過労働減ったが、所定外給与も
2016年6月以降、落ち込んでいる
まず、労働時間や給与の推移を、実際のデータで確認してみよう。
「毎月勤労統計調査」によると、30人以上の事業所の一般労働者の労働時間は、図表1のとおりである。
所定内労働時間には、2013年以降、あまり大きな変化が見られない。それに対して、所定外労働時間は、14年以降かなり増えたが、長時間労働が社会問題化した16年以降は減少している。
指数の年平均値で見ると、13年に96.0であったものが15年に100.0となったが、16年には98.2に減少している。
◆図表1: 所定内労働と所定外労働
これは、長時間労働に対する社会的批判の高まりと、長時間労働を抑制しようという政府の政策に影響されて、企業が所定内労働時間は一定に保つ半面で、所定外労働を減らした結果であると解釈できる。
給与の推移は、図表2に示すとおりである。
所定内給与は、若干の例外を除くと、15年以降、17年2月まで増加を続けた。
しかし、所定外給与は、16年後半からかなり大きく落ち込んでいる。対前年同月比は、17年2月を除くと、16年6月以降一貫してマイナスだ。超過勤務手当てが減ったのである。
◆図表2:所定内給与と所定外給与
(注)労働基準法では、1週40時間、または、1日8時間を超えて働かせてはならないことになっている。この労働時間を、「法定労働時間」という。
それに対して、「所定労働時間」とは、会社で定めた労働時間のことだ。
厚生労働省、「平成27年就労条件総合調査結果の概況」によると、1日の所定労働時間は、1企業平均7時間45分、労働者1人平均7時間45分である。週所定労働時間は、1企業平均39時間26分、労働者1人平均39時間03分となっている。
長時間労働が多いのは
パートより一般労働者
以上で述べたことを、いわゆる正社員の一般労働者とパートタイム労働者に分けてみよう。
最近の状況は、図表3に示すとおりだ。
◆図表3:月間労働時間
月間総労働時間について、調査対象の産業全体で見ると、一般労働者は170.7時間で、パートタイム労働者85.7時間の1.99倍になる。
所定外労働時間は、一般労働者の場合には、総労働時間の8.9%にあたる15.2時間だ。
これに対して、パートタイム労働者の場合には2.6時間で、これは総労働時間の3.0%にすぎない。
したがって、長時間労働が問題になるのは、主として一般労働者であることが分かる。
図表1には示していないが、所定外労働時間の総労働時間に対する比率が最も高いのは運輸業、郵便業で、15.0%である。それでも、月間所定外労働時間は28.1時間だ。これは、健康に障害が出るほどの値ではないように思われる。
平均値では実態がわからない
分布を見る必要がある
上で述べた数字を見る限り、長時間労働は、日本全体の問題としてはあまり深刻ではないような印象を受ける。
しかし、これは、統計数字を平均値だけで見ることによって生じる錯覚だ。平均で見ると大きな問題でないが、一部の人にとっては大きな問題なのだ。
したがって、労働時間の平均値だけでなく、「分布」を見る必要がある。
これは、図表4(2016年3月のデータ)と図表5(17年3月のデータ)に示すとおりだ。
◆図表4:月末1週間の就業時間(2016年3月)
◆図表5:月間就業時間別就業者数(2017年3月)
なお、前者は月末1週間の就業時間、後者は月間就業時間と、統一が取れていない。しかし、労働力統計のデータには同一形式の統計表がないので、やむを得ない。
図表4を見ると、週35時間から59時間の間に3782万人いる。これは、就業者総数6339万人の約6割だ。
また、図表5を見ると、就業者全体の約3分の2の人々の月間就業時間は、約121時間から240時間の間である。
いずれの数字を見ても、日本人の大部分の人にとって、労働時間はそれほど長くはないことが分かる。これは、図表3を見ての印象と同じものだ。
残業月平均80時間の「過労死ライン」
全体の1割を占めるのは大問題
しかし、図表4を見ると、2016年3月において、「週60時間以上」が543万人いるのである。これは、就業者総数の6433万人の8.4%だ。
週80時間以上も67万人で、全体の約1%いる。
また、図表5を見ると、月間就業時間241時間以上の就業者が584万人いる。これは、就業者総数の6433万人の9.1%だ。
仮に、全就業者の平均月間労働時間167.4時間を所定内労働時間と考えると、超過勤務が約80時間程度以上ということになる。
時間外労働時間数が月平均80時間は、「過労死ライン」と呼ばれている。それを超えている人が、全体の1割近くいるわけだ。
図表6に示すように、正規の職員・従業員の場合は、月間就業時間が241時間以上の就業者の比率は12.0%と、就業者平均より高くなる。さらに、役員では、15.6%と、もっと高くなる。
◆図表6:月間就業時間別就業者数
22.7%の企業で該当!
深刻な長時間労働は減っていない
すでに述べたように、図表4と図表5の数字を、直接には比較できない。
ただし、「週60時間以上」と「月241時間以上」を同一視しても、大きな間違いはないだろう。
そうだとすると、長時間労働者(図表4では「週60時間以上」、図表5では「月241時間以上」)の比率は、この1年間に、就業者総数の8.4%から9.1%に上昇していることになる。つまり、深刻なレベルの長時間労働は減っておらず、むしろ増えているのだ。
なお、2016年5月に厚生労働省が発表した報告書によれば、1ヵ月間の残業が最も長かった正社員の残業時間が「過労死ライン」の80時間を超えた企業は、調査対象の22.7%にのぼる。
現実は「体のいい賃金カット」
労働生産性の引き上げが重要
結局、平均的な所定外労働時間が減って所定外給与が減った半面で、深刻な長時間労働は減っていないということになる。
これは、減らせない事情があるからだろう。
強制される長時間労働が問題であることはいうまでもない。しかし、超過勤務をしても働きたいという人も、一方にはいる。超過勤務手当を得たい人もいるだろうし、組織の中での地位上昇を望むために、できるだけ長く働きたいと思う人もいるだろう。
また、仕事のノルマがある以上、「オフィスで仕事ができなければ、自宅に持ち帰って仕事をする」ということにもなりかねない。もしそういうことになれば、仕事量は変わらずに賃金だけが減らされることになる。これでは、「体のいい賃金カット」ということになりかねない。
労働生産性が上昇し、それによって結果的に労働時間が減るのでなければ、本当に問題となる長時間労働は減らず、労働者の所得を減らすだけの結果に終わってしまうだろう。
(早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問 野口悠紀雄)
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