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トヨタ、5年ぶり減収減益(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
トヨタ、組織改革で「自滅行為」進行か…強さの源泉・生産技術基盤が破壊の兆候
http://biz-journal.jp/2017/05/post_19233.html
2017.05.27 文=井上隆一郎/桜美林大学教授 Business Journal
■大きな減益に陥ったトヨタ
10日に発表されたトヨタ自動車の2017年3月期連結決算は、営業利益が1兆9943億円で前期比30%の減少である。過去に2兆円台をやすやすと確保していた同社にしてみれば、大きな落ち込みである。公式説明では為替の円高傾向という外部要因を強調している。もちろん為替も一要因ではあるが、本質的な問題ではない。18年3月期も減収減益を予想しており、売上は27兆5000億円と微減が見込まれている。リーマンショックの時の営業利益は5000億円台、平時で3000億円台の落ち込みは、何やら大きな事態が進行しているとみるべきであろう。
■構造転換への対応の側面
支出面で大きな研究開発費が利益の伸びを重くしている点は、注目しておく必要があるだろう。自動運転車、次世代環境対応車など、業界リーダーであるトヨタが、他社に先駆けて進めなければならない研究開発は目白押しで、ここへの支出が加速度的に膨らむのはやむを得ない点であろう。確かに、これらの研究開発費にはリスクもあるが、同時に次の時代の大きな利益の伸びを期待できるものだからだ。
しかし、利益の落ち込みはそれだけではないと筆者はみている。
■大幅な組織改革の深化
トヨタがこの数年間、大幅な組織改革を続けていることはよく知られている。11年には先進国と新興国への対応を抜本的に分ける「第1トヨタ」「第2トヨタ」などを含む「地域主体経営」への転換、13年の「ビジネスユニット制」の導入、16年の「カンパニー制」への移行である。筆者は長年経営コンサルタント業界に身を置いていた。このような組織改革プランはかつて見た懐かしい風景だが、トヨタはこうしたコンサルタント的な組織改革には関心を示さなかった企業であったことを思い出す。
トヨタの広報資料を見ると下記のように書かれている。
「・製品群ごとに7つのカンパニー体制へ移行し、中短期の商品計画や製品企画はカンパニーが担う。
『先進技術開発カンパニー』
『Toyota Compact Car Company』
『Mid-size Vehicle Company』
『CV Company』
『Lexus International Co.』
『パワートレーンカンパニー』
『コネクティッドカンパニー』
・従来、機能軸の組織であった技術と生産技術を先行・量産でわけ、各カンパニーに振り分け。(グループ内で車両の開発生産を担う車体メーカーも各カンパニーに参画)
・責任・権限を各プレジデントに集約、企画から生産まで一貫したオペレーションを実施。」
■組織改革が失速をもたらしたか
筆者が注目するのは、16年4月のカンパニー制への移行である。また、同時に想起したのが、カンパニー制に移行したのと同時期に経営不振に陥った1990年代末の出井伸之CEO(最高経営責任者)率いたソニーである。
もちろん、ソニーの凋落にはエレクトロニクス技術のデジタル化にともなって、日本企業が得意なインテグラル(すり合わせ)型から、米国、中国企業が得意なモジュラー(組合せ)型に製品技術のアーキテクチャー(設計)が変化したことも忘れてはならない。しかしソニーの場合、カンパニー制移行に伴い研究開発、生産、販売が、製品別にバラバラにされ、深い基礎研究、各製品で蓄えられていた要素技術などを、、魅力ある製品に組み合わせる組織的基盤が破壊されたと、筆者は見立てている。これと同様な事態がトヨタでも進行していないか。
企業規模も業種も違うソニーとトヨタを同列に扱うことは誤解を招くだろう。しかし、次のことを感じるのは筆者だけではないだろう。
トヨタは世界最大クラスの自動車メーカーである。その持てる経営資源は、統合すれば世界のどこのメーカーもかなわないパワーを持っている。それをわざわざ分割して、それぞれが中規模メーカーのように振る舞うことは現実には難しいだろう。カンパニーのプレジデントはしょせん、中規模メーカーの社長にはなり切れないからだ。
■生産技術部隊弱体化の組織改革
しかし、もっと重大な問題をこの組織改革は内包している。生産技術部隊の分断、あるいはその存在感のなさである。
トヨタの強さは、これまで他に類を見なかった生産の強さ、品質と生産性の両立を高次元で実現してきた点にある。その基盤はトヨタ生産方式(TPS)による日々の改善の愚直なまでの実行と、その成果の「横展開」である。この横展開は、トヨタ社内はもちろん、車体メーカー、部品メーカーにまで及んだ。
カンパニー制の結果、とてもすっきりした製品別の組織が出来上がったのだが、TPS生産技術部隊もバラバラになってしまったのではないか。かつてのTPSの全社展開であれば、販売減、為替変動程度の外部環境は、全社、全グループ、さらには取引先企業を挙げて「乾いた雑巾を絞って」利益の水準を維持した。そのような展開が困難な事態を、昨年来の組織改革により自ら招いているのではないか。
これは筆者の仮説でしかない。トヨタの実態はそうでないことを、ぜひとも豊田章男社長には示してもらいたいと願っている。
(文=井上隆一郎/桜美林大学教授)
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