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昨年1月のAIIBの開業式典 新華社/AFLO
苦境の中国主導AIIBに日本主導のADBが救いの手
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170518-00000009-pseven-cn
SAPIO2017年6月号
鳴り物入りでスタートしたAIIB(アジアインフラ投資銀行)が早くもコケ、日米中心のADB(アジア開発銀行)の存在感が増している。AIIBは加盟国数こそADBを上回ったものの、実際に払い込まれた出資金は定款上の資本金の7%にも満たない。単独融資はほとんどなく、多くはADB融資に相乗りしただけだ。産経新聞特別記者の田村秀男氏がレポートする。
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苦境に立つAIIBに救いの手を差し伸べる国際機関がある。他ならぬADBである。実は、財務官上がりの中尾武彦ADB総裁は財務官僚時代から親中派として省内で知られる。
2014年前半に習近平政権がAIIB創立に向け日米などに工作を始めたとき、中尾総裁は拒否反応を示す米国とは対照的に理解を示した。理由はアジアのインフラ資金需要が旺盛で、ADB単独では間に合わないというものだ。中国はインドと並ぶADBからの大借り入れ国である。資金需要に応えるというなら、まず中国にADBへ全面返済させるのがスジのはずだが、中尾氏は「問題ない」と断じた。
中尾氏はアジアの資金需要について、2009年の試算で8兆ドルに上ると言った。2017年3月には総額26兆ドル、毎年1.7兆ドルに上ると大きくかさ上げしたが、実需とはかけ離れた誇大妄想値に近い。アジア各国がインフラ整備したくても、実行は返済条件次第だ。
そもそも発展途上国全体の国際市場での証券発行は残高でみても2兆ドル程度である。それに近い規模の資金需要に国際金融市場が応じられるはずはない。中尾氏らはそんな破天荒な予測をAIIB肯定の材料に使っている。
一帯一路、AIIBそしてSDR通貨人民元のいずれも、「中華経済圏」という名の習政権のアジアの陸海制覇戦略そのものだ。インフラ整備は中国に直結する軍事転用可能な高速道路、鉄道、空港、港湾を意味する。習政権はインフラ整備をミャンマーの少数民族に提示し、少数民族を民主化政府から離反させ、自国の影響下に組み込もうとする。地政学的膨張は南シナ海に限らないのだ。
毛沢東肖像付き紙幣は国際金融市場で信用されなくても、中国のおびただしいモノとヒトがアジアに浸透すれば、普及して行く。ADBが日本の資金などを使って整備を進めたメコン川流域には中国人と中国企業が進出し、環境は破壊され、下流域は洪水に見舞われている。
安倍晋三政権はAIIBや人民元問題が見かけ上小さくなったからと言って、親中派の官僚にまかせてはならない。トランプ政権とはしっかりと安全保障上の視点を確認すべきだ。
【PROFILE】たむら・ひでお/1946年高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日経新聞を経て、産経新聞記者となる。現在、編集委員と論説委員を兼務。『人民元の正体 中国主導「アジアインフラ投資銀行」の行末』(マガジンランド)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『財務省「オオカミ少年」論』(産経新聞出版)ほか著書多数。
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