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元国税査察官が明かす税金滞納処分の冷徹な現場 正直者がバカを見てはならない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51708
2017.05.15 上田二郎 現代ビジネス
「ここに描かれているのは、矛盾する仕事(租税正義の遂行と生活困窮者の救済)に葛藤しながら立ち向かう女性の成長物語だ」
市役所の納税課に勤める女性徴収官の活躍を描いたマンガ『ゼイチョー!納税課第三収納係』(慎結 著)を読んで、そう語るのは、『国税局査察部24時』の著者で元国税査察官の上田二郎氏である。
17年間マルサで悪いヤツラと対峙した経験から、上田氏がこの異色のマンガを読み解く。
正直者がバカを見てはならない
物語は、主人公の百目鬼華子(どうめきはなこ)が15年前に強制執行を受けたトラウマのカットインから始まる。
「これより国税徴収法142条に則(のっと)り、強制執行を始めます」
部屋に踏み込む数名の徴収官。
「女ひとりで子供を育てていくのに、税金なんて払ってられるわけないでしょっ」
泣き叫ぶ母親。
「泣いてもどうにもならないんですよ」
徴収官がたたみかける。
「華子ちゃんだっけ。私とすこしお外行こうか? 近くに遊歩道あるでしょ? お散歩しにいこ」
遠い記憶の中で泣き叫ぶ母の姿と、幼い華子に強制執行の現場を見せまいと部屋から誘い出す女性徴収官の姿が交錯する。冷徹な強制執行の現場が、華子の受けたトラウマの衝撃を際立たせ、滞納処分のリアリティがありありと伝わってくる。
幸野(みゆきの)市役所納税課第三収納係に勤める百目鬼華子は、クールな見かけとは裏腹に、ぶしつけな言いがかりに対しては机にペンを突き刺すなど、予測不能な行動も多い新人職員だ。
その先輩である脱力系チャラ男、饗庭蒼一郎(あいばそういちろう)とペアを組み、市民税の「ワケあり滞納者」に体当たりしてゆく。
強制執行とは、支払い義務のある者(債務者)が約束どおりに債務の支払いに応じない場合、国の権力(民事執行法)によって強制的に債務者の財産を差し押さえ、支払いを実行させる制度のことである。
債務者の中には実際には支払能力があるにもかかわらず、逃れようとする者も少なくない。そんな不公平を許していたのでは、商取引をはじめとする社会秩序が保てないため、強制的に債権を徴収する制度が確立されているのだ。
『ゼイチョー!』では、幼いときに強制執行を受けた経験を持つ華子が、いつしか成長して強制執行をする側に回って活躍する姿が迫力をもって描かれる。
時に華子は、強制執行に踏み切れず、苦悩する。
「そりゃー俺たちだって差押えだー 強制執行だーって 好きでやってるわけじゃないよ…でもね」
との饗庭の声に華子はこう反応する。
「税の公平ですよね」
「わかってるじゃん 仕方ないの」と饗庭。
これは国税局に長く務めた私と共通する思いだ。
誰かがやらなければ、申告納税制度が掲げる高い理念は守れない。日々の生活を懸命にやりくりしながら納税する正直者がバカを見る社会が許されてはならない――私が現役時代にいつも思っていたことである。
そして、『ゼイチョー!』が支持される理由の一つも、こんな「租税正義の遂行」にあるのではないかと思う。
深い人間ドラマが展開する
「行間を読む」といった表現がマンガにも通じるのかどうかは分からないが、要所でのトラウマのカットインが、小説とは違った奥行きを感じさせる。
振り返ってみると私は、30年ほど(!)マンガを読む機会から遠ざかっていた。だが、これを機に他のマンガ作品を読んでみなくてはと思うような、深い人間ドラマが展開している。
たとえば、華子が初めて強制執行のメンバーに加わった現場で、幼き華子と同じくらいの男の子(将:しょう)が徴収官に立ち向かう。
将の母「どうしてこんなひどいことを あなたたち公務員でしょ!?」
徴収官「これがわれわれの仕事です。お宅だけ税金を免れるなんて甘いんですよ!」
将の母「こんなのメチャクチャよ!!」
泣き叫びながらも徴収官の前に立ちはだかって、将がママを守ろうとする。
将「ママをいじめるなーっ。みんな出てけー!!」「ぼくんちから出てけー!!」
そこで、あのトラウマが華子の胸に突き刺さる。幼き華子は、ママを守ることができなかった……。
華子「饗庭さん。…無理です。私 できません」
税金を徴収するだけではなく、市民をけっしてどん底まで落とさないというコンセプトが各話に盛り込まれているようだ。
高圧的に差し押さえを行うというよりも相手の懐に飛び込んでゆき、彼らの隠された真実に迫る。
最後は、税金の減免で滞納者を助ける優しいストーリーになっているのも、女性作者ならではのものだろう。
いつしか、「トラウマは作者の実体験なのでは?」と(失礼ながら)思いながらページをめくった。
マルサと徴収官の違い
ところで、国税徴収法142条に基づけば、徴収官はマルサ以上に強い権限を行使できるとしばしばいわれる。
「徴収職員は、滞納処分のため必要あるときは、滞納者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる」
と定められているのだ。
自宅などの捜索には、警察や地検特捜部でさえ、裁判官の許可(令状請求)が必要なのだが、徴収官にはそれが必要ない。
それだけ強い権限がなければ、「国家の米びつ」を脅かす滞納者に対峙できないということだ。
しかし、「マルサ以上に強い権限」という見方は、いささか違う。国税にマルサ以上に強い権限を持つ部隊は存在しない。
マルサの強制調査は、脱税の嫌疑(疑いの段階)で行使できる強大な国家権力だ。しかも、ターゲットに気づかれることなく、いきなり強制調査に踏み込む姿から「ステルス潜水艦」と呼ぶ者もいる。
警察の捜査は犯罪が実行されて(実際に犯罪があって)から、その証拠を集めるために行われる一方、嫌疑の段階で捜査権限が与えられるのは検察とマルサくらいだろう。
国会で審議中のテロ等準備罪も、犯罪が行われる前に捜査権限が与えられるという点で大きな波紋を広げている。
このマルサの強制調査に対して、徴収部がするのは、滞納者を根気よく説得して完納させる地味な仕事だ。滞納者に接触し、納付計画を出させ、根気よく待ち、納付が遅れれば、また説得することを繰り返す。強制執行は最終手段だ。
しかし、滞納者の中には納めるカネがあるにもかかわらず、資産を隠す悪質な者もいる。自宅に訪問した時、もし貴金属などを見つけても、令状を取っていたのでは差し押さえが間に合わないため、国税徴収法142条が定められている。
マルサや課税部は調査で税金を賦課すると一件落着となるのだが、賦課した税金を納めさせてはじめて、国家の米びつが潤うことになる。
マルサや課税部が脱税を見つけて華々しくマスコミに発表する一方、彼らが賦課した税金が支払われずに滞納されれば、滞納額増加のかどで、徴収部がマスコミから叩かれる。
つまり、国税内部に正反対の立場の部隊が存在するということなのだ。
本当に困窮した人の悲哀
現在の法人税の実効税率は29.9%。もし、脱税が見つかって重加算税(35%)や延滞税が賦課されても、隠したカネのすべてを持っていかれる訳ではない。脱税者の資金がショートしてしまう主な原因は、それまでに遊興費などで使ってしまうことだ。
税務調査は最大7年間遡る。つまり、調子に乗って使ってしまった後に脱税が暴かれて、過去の税金の清算を迫られるのだ。
そのため徴収部は、本当にカネがない者と、根気よく向き合わなければならない(それにしても、脱税者が使ってしまったために税金を徴収しきれないとすれば、それこそ大きな不公平ではないだろうか)。
ところで、国税と地方税の両方に滞納があった時(多くの場合は滞納がある)には、差押先着手(先取り特権)の原則が働く。滞納処分に関しては、国税には国税徴収官という専門職がいるため、地方税職員ではとうてい歯が立たない。
なぜなら地方税の課税処理は多くが国税に連動していて、税務調査は国税が専権事項で行っている。そのため、地方税の差し押さえが国税に先んずることはない。
よって『ゼイチョー!』が動く時には、国税の滞納処分が終わった後の、いわば「でがらし」の場合が多いのだ。
そのため『ゼイチョー!』で描く滞納額は少額だ。しかし、だからこそ本当に困窮した人々の悲哀を垣間見る作品になっている。そして、滞納者に最も近いところにいる地方税職員の頑張りに光を当てた点も評価したい。
マンガの感想を求められた時、税務調査の頂点であるマルサの内偵調査をしていた経験から、ややもすると斜に構えていた。税の専門家の立場からすると、税法の適用誤りや現実ではあり得ない処分が描かれていて、首を傾げざるを得ないところもたしかにある。
だが、滞納処分という重い題材を扱いながら、単に税金徴収のサクセスストリーに終わらせることなく、徴収官と市民の心のふれあいを描いたヒューマン・ドラマとして読ませる作品に仕上がっている。だからこそ、多くの人の支持を得ているのだろう。
より多くの人びとに「税の公平性」を理解してもらうためにも、私がマルサの内情を明かした『国税局査察部24時』とともに、ぜひ今後の映像化を期待したい。
→『ゼイチョー!』第1話はこちらで特別公開中
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50622
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