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大塚家具・大塚久美子社長(Natsuki Sakai/アフロ)
大塚家具、「残念な」久美子社長が危機脱出のネックに…ダメ企業がダメな本質的原因
http://biz-journal.jp/2017/05/post_19011.html
2017.05.09 構成=小野貴史/経済ジャーナリスト Business Journal
ここ数年、東芝やシャープなど日本を代表する企業の経営危機が立て続けに起こるなか、「プロ経営者」の存在が注目を浴びることが多くなった。そこで今回は、プロ経営者としてこれまで数多くの企業再建に携わり、4月に『残念な経営者 誇れる経営者』(ぱる出版)を上梓した山田修氏に、企業再生に必要な条件や具体的手法について話を聞いた。
――山田さんは本書で「9割の日本の社長は経営戦略を勘違いしている」と指摘されています。
山田修氏(以下、山田) 戦略的な思考とは、構造的に物事を見られるかどうかで、日本の経営者にはこれが欠けていることが多いのです。日本の経営者は創業社長、サラリーマン社長、プロ経営者に分けられますが、創業社長とサラリーマン社長が90%以上を占めています。
創業社長は情熱とエネルギーをもって遮二無二働き、直感勝負をします。構造的分析や戦略的立案などのアプローチではなく、エネルギーのままに突っ走って、成功と失敗に分かれてしまいます。戦略なき経営でも成功して、会社が成り立っている場合もあるのです。
一方、サラリーマン社長は出世の報酬として社長という職位に就くので、従来の経営を踏襲し、ほかのことはやらないのが基本的なパターンです。社長に指名してくれた先輩を裏切れないことも踏襲の理由で、しかも多くの場合、先輩は会長や顧問、相談役などに就いて影響力を発揮しています。従って戦略的な決断ができにくい環境にあるわけです。こうした意味で、「9割の日本の社長は経営戦略を勘違いしている」といえます。
――残りの1割は、どのような社長なのですか。
山田 1割もいませんが、プロ経営者です。たとえば、元LIXILグループ社長の藤森義明氏、資生堂社長の魚谷雅彦氏、カルビー会長の松本晃氏。それから私は必ずしもプロ経営者だとは思っていませんが、ローソン会長の玉塚元一氏(5月末で退任)も、世間ではプロ経営者として扱われています。要するに他の業種に移っても、それまで培ってきた本人が築いてきた実績の再現性を期待され、実際にうまく経営できる人で、外資系出身が多いですね。
どの業界に行っても状況分析ができて、こういう手段を打てばよいと判断できて、実績を上げるのがプロ経営者です。口はばったいのですが、私も外資系4社と日系2社で社長を務め、すべて異なる業種でした。私が社長を務めていた時代にプロ経営者という言葉はなく、私は「企業再生経営者」と呼ばれていました。
――Aという業界では実績を上げても、Bという業界では通用しなかったでは、プロ経営者とは呼べないわけですね。
山田 それからプロ経営者には重要な要素があります。それは資本家との関係で、プロ経営者は雇われ経営者なのです。藤森氏が退任したのは、LIXILグループの前身であるトステム創業家出身でLIXILグループ取締役会議長の潮田洋一郎氏の主導による人事です。
プロ経営者は高額な報酬のほかにストックオプションを与えられているので、株価を上げれば億単位の収入を手にできますが、株価を上げられなければ資本家から冷徹に退場を促されます。資本家とはドライな関係です。
■戦略セオリー
――山田さんがプロ経営者として持たれている、構造的分析と戦略的立案に関する独自のフレームワークについて教えてください。
山田 私には社長に就任した業界の知識も、会社の知識も、技術の専門知識もありませんが、経営のセオリーを知っています。そこで、まず幹部から平社員まで面談を行ってから、幹部一人ひとりに宿題を出しました。これから売上の上がる分野、商品、技術について理由も併せて、2〜3週間後に私と1対1でプレゼンテーションしてもらうのです。プレゼンを受けても、私には知識がないので、内容を理解できません。何を判断するのか。それは人物です。
立論に整合性が取れていて私がスーッと理解できるプレゼンをした人の評価はA、私が「ちょっと待ってくれ」と所々質問をはさんでギクシャクしてしまう人はB、私の質問に対して埒も明かない答えをした人はCと評価しました。Cの人は「今までこのようにやってきた」「この業界のやり方はこうだ」などと抗弁してくるものです。私は業界の素人ですが、プロ経営者には判断力があります。プレゼンを受けて幹部を判断しました。
――すると、A評価の幹部の案を採用し、C評価の幹部の案は却下するのですか。
山田 A評価の幹部が担いできたプロジェクトや商品・技術とか、推奨している技術なら良いのではないかと判断しました。フィリップスライティング(現日本フィリップス)の社長に就任したときには、150億円から半減していた年商を就任3年後に3倍に増大させましたが、これはと思う幹部が推奨してきた商品が6つあったので、6つ全部を拡販してみようじゃないかと判断して、戦略商品群と位置付けました。
すると6つのうち、自動車用ヘッドランプとポータブルプロジェクターの2つがものすごく走り出したので、2つを強化したら大ヒットして、年商3倍増に対して半分ぐらいに寄与しました。戦略上で大事なことは、状況はいつも動いているので、固定的でなく走りながら柔軟に考えることで、これは戦略セオリーとしても正しいのです。
私の場合、社長に就任した6社とも部下を連れていかず、1人で入社しました。その会社従来の土俵で、方法と組み合わせを変えることが戦略です。
■抵抗勢力の扱い方
――他の業界から来た社長には、抵抗勢力も出てくると思います。どんな業界でも、他の業界で実績を上げた人に対して「うちの業界を知らない」とか「この業界は甘くない」とか、そういう見方をする人は極めて多いですね。
山田 そうです。社長に着任したときに、部下から面と向かって、そう言われることは珍しくありません。私も何社かで経験しました。部長会で着任の挨拶をしたときに「社長、何々についてはご存じですか?」と抵抗勢力が業界知識を試してきたのです。私は「いえ、知りません。皆さんのほうが詳しいですよね」と。
相手は、その道数十年ですから、今から私が勉強しても対抗できません。専門知識で勝負するのではなく、専門知識は部下に任せて、それを判断するのが社長の仕事です。多くの場合、選択と集中が有効でした。
――抵抗勢力には、どのように対処したのですか。
山田 こんな出来事がありました。2人の副社長と管理本部長の3人が抵抗勢力だった米国系の会社では、3人に辞めてもらいました。副社長の1人が次は自分が社長になれると思っていたのですが、米国の本社はその副社長では力不足と判断して、外部から私を送り込んだのです。すると、この3人が私を着任させまいとして、本社に「山田じゃダメだ」と連絡したりしました。ところが、就業規則に厳密に照らし合わせて叩けば、たいていの経営幹部は何かしら違反を犯しているもので、現にその3人が重大な違反を犯している動かぬ証拠が見つかりました。
――金銭に関する違反ですか。
山田 そうです。そこで本社に「抵抗されているので着任できない。どうするのか?」と報告しました。本社は「就業規則違反のエビデンスもあるし、山田をサポートするから3人を解雇してくれ」と回答してきたので、解雇しました。3人が地位保全の仮処分を裁判所に申請したところ、労働裁判では会社側の敗訴が多いのに、証拠があったので会社側が勝訴したのです。
抵抗勢力への対処法は、こうした毅然とした方法もあれば、今までよりも処遇を良くするから安心してくださいと笑顔で対処する方法もあります。要するにアメとムチの使い分けです。
――外部からの経営者の招聘に対して、若い社員は期待することがあっても、幹部になると抵抗したがるのでしょうね。
山田 プロ経営者から見れば、この道数十年の人たちがやってきて、これだけひどい状況になってしまったんじゃないの? と。つまり、これまでのやり方が間違っていたのだから、別のやり方を探しましょうよと。これがプロ経営者の見方です。
――ところで、プロ経営者にとって最も大変な仕事はなんでしょうか。
山田 企業文化を変えることです。これは大変な仕事です。成功した例に稲盛和夫氏が日本航空の企業文化を変えたことが挙げられますが、稲盛氏はプロ経営者として禁じ手を使いました。それは社長在任中に無報酬だったことです。無報酬で懸命に働きかければ、社員はついてきます。しかし、仕事として経営を引き受けるのですから、普通は無報酬で働くわけはいきません。
――やはり無報酬は禁じ手ですか。
山田 それは禁じ手ですよ(笑)。
■大塚家具
――本書では、大塚家具にかなりのページを割いて取り上げています。山田さんが大塚家具の再建を依頼されたら、どんな手を打ちますか。
山田 大塚家具は価格のポジショニングを間違えて失敗しました。元会長の大塚勝久氏の時代には高価格帯で手厚い接客という整合性がありましたが、大塚久美子氏が社長になって中価格帯に切り替えて接客も担当制を廃止したら、富裕層に逃げられ、中間層も取り込めませんでした。課題は、価格のポジショニングとターゲット層をどう設定するかです。
中価格帯と低価格帯に移行すると、ニトリとイケアが待ち構えていますが、ニトリとイケアは製造小売業なので、流通小売りだけの大塚家具は構造的に勝負できません。そう考えると勝久氏の路線は悪くなかったのです。ところが店舗数が多すぎました。反面教師はカッシーナです。富裕層を対象にして日本に4店舗しか設けていません。大塚家具の店舗数は17店舗ですが、縮小均衡を図るべきです。店舗数を減らせば売り上げも減りますが、固定費を削減できて黒字に転換できる道が開けます。
じつは、3月24日の大塚家具の株主総会に出て今後の店舗展開について質問したら、久美子社長はスクラップ・アンド・ビルドによって、いくつかのジャンルの店を計60店舗出店する計画だと回答してきました。
一方で、久美子社長の業況説明では、固定経費で一番足を引っ張っているのは家賃だというのです。これだけでも戦略的に辻褄が合いません。もし私が経営会議に出席すれば「それはおかしいでしょう。売り上げが伴わなかったらどうするのか?」と質問しますが、答えられない経営者はバツ印です。大塚家具の場合、店舗数をカッシーナの倍の8店舗ぐらいに減らして、富裕層にターゲットを絞れば利益が出るようになると思います。
――その戦略を実施するには、久美子社長の存在がネックになりませんか。
山田 そうです。久美子社長には、経営者の資質がないのではないでしょうか。一昨年に勝久氏を放逐して全権を握り、初めてフリーハンドで経営に当たった最初の通期決算である2016年12月期に、売上高が前期比20%減の463億円、営業利益は前期に4億円でしたが、マイナス46億円に転落させてしまいました。社長としてダメでしょう。
――今後の大塚家具はどうなりそうでしょうか。
山田 ファンドの傘下に入って、ファンドがプロ経営者を送り込んで再建するか、あるいは経営悪化がさらに進行して転落していくか。どちらかになるのではないでしょうか。
■三越伊勢丹
――今年3月に社長が交代した三越伊勢丹ホールディングスは、どのような手段で再建すればよいと考えていますか。
山田 小売業界で最も業績が優れている大手はイオングループですが、イオングループの収益構造を見ると、小売りよりもテナントの賃料で収益を上げています。イオンモールをつくってテナント料を得るという安定した収益構造になって、いわば小売業からデベロッパーに転換したわけです。
同じように三越伊勢丹ホールディングスも事業構造を入れ替えて、デベロッパーやショッピングセンターへの転換を図るべきです。これができれば人件費など固定費を大幅に削減することも可能です。
――多くの社長人事を見て思うのは、社長に就任させる人材は育てるものではなく、見つけるものであることです。
山田 確かにそういう面はあると思いますが、それは日本のビジネススクールのあり方にも問題があります。アメリカと違って日本のビジネススクールはこれから経営者を目指す30歳前後の人たちを対象にしていますが、彼らが独立しても成功するかどうかはわかりません。この現状に対して、私が「リーダーズブートキャンプ」を主宰して取り組んでいるのは経営者の教育です。受講者には、一部上場企業の経営者や、受講を経てIPOを果たした経営者などもいます。
経営者の必須要件は、リーダーシップ、戦略策定力、マネジメント力の3つです。社長になるような人はリーダーシップを身に付けていますし、マネジメント力はルーティンワークが対象なので、これも修得しています。経営者が伸びるには戦略策定力を強化することで、MBA流を叩き込むことが有効です。
――いろいろとリアルなお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)
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