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[真相深層]日銀「賃上げETF」の挫折
運用大手参入も取引ほぼなし 内輪の論理、投資家踊らず
日銀の肝煎りで登場した上場投資信託(ETF)が壁に突き当たっている。賃上げや設備投資に積極的な企業を組み入れた通称「賃上げETF」で、金融緩和の一環として日銀が一部を買い入れるのがミソだ。大手運用会社がこぞって参入したが11カ月が経過した今、ほとんど取引がなくなった。閑古鳥の理由を探ると日銀に依存しすぎた市場のゆがみが見える。
株式市場には日銀の動向を日々観察する日銀ウオッチャーがいる。その一人、東海東京調査センターの鈴木誠一マーケットアナリストは証言する。「3月以降、日銀が賃上げETFを買った痕跡が見当たらなくなった」
買えないワケ
日銀は3月1日に大和証券投資信託委託が運用する賃上げETFを約450万円購入したとみられる。それを最後に買い入れ額はゼロが続く。
賃上げETFの起点は2015年12月に遡る。日銀の金融政策決定会合で決まった金融緩和の補完措置に、投資や賃上げに前向きな企業の株で組成したETFを毎年3千億円買うとの枠が設けられた。1日当たりの買い入れ額は約12億円だ。
国内外の運用会社は日銀の基準に沿ったETFを開発し16年5〜6月に6本を上場させた。KDDIやトヨタ自動車などが組み入れられ、日銀という後ろ盾も得て登場した賃上げETFだが、人気は続かなかった。
純資産は合計1700億円と昨年12月から頭打ちだ。市場での売買もほとんどない。アセットマネジメントOneの賃上げETFは25日まで22営業日連続で取引時間中に売買がなかった。
なぜ日銀は賃上げETFを買わないのか。正確に言えば買わないのではない。買えないのだ。
日銀も無制限に買えるわけではない。実績も無いETFを全て買えば株価形成がゆがみ運用会社はリスクなく利益を得てしまう。そこで一般投資家と同額までしか買えないというルールを設けたところ早々に買い入れ上限額に達してしまった。
15年12月の政策決定会合を振り返ると政策委員からは「(設備・人材投資に積極的に取り組む)動きがさらに広がっていく」「経済の好循環を後押しする効果が期待できる」との意見が出ていた。企業に賃上げを促し、消費を活性化してデフレから脱却するのがアベノミクスの眼目だ。それを側面から支援しようとの思惑がうかがえる。
そのシナリオに乗ったのが運用会社だ。「日銀の買い入れに間に合わせるように社内でプレッシャーがあった」。わずか半年で賃上げETFを開発した国内運用会社の担当者は打ち明ける。
運用会社にも事情はある。日銀の金融緩和の結果、国内で流通するETFは純資産の約6割にあたる約15兆円を日銀が保有しているとみられる。ETFの信託報酬は0.1%程度で単純計算で年間150億円が日銀から運用業界に入ってくる。
営業費用がかからず黙ってETFを買ってくれる日銀は、またとない上客だ。賃上げETFも「日銀の購入で純資産が膨らめば十分に採算がとれる」(国内投信)との計算があった。
「バカにしすぎ」
米ETF大手の日本法人、ウィズダムツリー・ジャパンは賃上げETF投入を見送った。イェスパー・コール最高経営責任者は設備投資や雇用に前向きな企業の株が運用成績が良いという投資理論は「聞いたことがない」と首をかしげる。実際に最も早く上場した2銘柄の運用成績は日経平均株価を下回っている。
個別企業の人材投資を時系列で示したり他社と比べたりできるデータはほとんど存在しない。コール氏は「日銀のお墨付きさえあれば個人が追随すると考えていたのなら投資家をバカにしすぎだろう」と指摘する。
16年度に日銀はETFを5兆5870億円買った。今や日本株最大の買い手だ。年間で日経平均株価を約1700円押し上げたとの試算もある。
日銀の存在感が大きくなり市場関係者も日銀への依存が強くなった。アベノミクスに寄り添う日銀と日銀頼みの運用会社の思惑が一致し生まれたのが賃上げETFだ。そこには投資家のニーズという重要な視点が欠けている。内輪の論理が優先される市場に世界の投資家は魅力を感じるだろうか。
(宮本岳則)
[日経新聞4月26日朝刊P.2]
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