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英エコノミスト誌が予測「日本は人口減少でも明るい未来を描ける」 ダニエル・フランクリン・英『エコノミスト』誌 編集局長インタビュー
http://diamond.jp/articles/-/126633
2017.4.28 週刊ダイヤモンド編集部
創刊170年以上の伝統を持ち、グローバルなエリート層を中心に、世界で150万部超を誇る英国の『エコノミスト』誌。このほど、AI(人工知能)やバイオテクノロジー、医療やVR(仮想現実)といった各分野のテクノロジーを各分野の記者と社外執筆者が展望した『2050年の技術 英「エコノミスト」編集部は予測する』(文藝春秋)が発刊された。本書を企画・編纂した同誌編集局長のダニエル・フランクリン氏に、本を通じて見えてきた未来社会のテクノロジーの在り方などについて聞いた。(『週刊ダイヤモンド』編集部 竹田幸平、山本輝)
ダニエル・フランクリン・英『エコノミスト』誌 編集局長 Photo by Kazutoshi Sumitomo
――『2050年の技術』として企画した本書は、なぜ「2050年」に着目し、そして「技術(テクノロジー)」と組み合わせたのでしょうか。また、編纂を通じて分かった「意外な発見」があれば教えてください。
本書は、以前出版した『2050年の世界』(文藝春秋)の姉妹本です。まず、「2050年」に着目した理由ですが、元々私は『エコノミスト』誌で、翌年を予測する読み物の編集をしていますが、その中で「もっと長期的な視点で見るとどうなるのだろう」との考えが芽生えたためです。「1年先」というのは非常に具体的で、その視点も重要なのですが、長期的に見るともっと大きな地殻変動のような流れを捉えられるのではないか、と考えました。
そして、長期的に物事を見ることで、逆にわれわれが直面する問題が明らかになってくるのです。例えば、人口問題。高齢化が、国の経済や就労人口、年金やテクノロジーにどういう影響を与えるのか、といった具合です。2050年というのは、そうした長期的な視点を表すメタファー(暗喩)というわけです。
次に、「テクノロジー」に焦点を当てた理由は、今後、テクノロジーが人々の生活や社会、ひいては全業界に影響を与える主要な分野だからです。その観点から、深く掘り下げてみる価値があると思っていました。
Daniel Franklin/『エコノミスト』誌 編集局長。同誌が毎年発行する翌年の予測『世界はこうなる(The World in……)の編集長。『2050年の世界 英「エコノミスト」誌は予測する』(文藝春秋)では、共同編集者を務めた。
英エコノミスト誌は、1843年に英国で発刊された週刊誌。この15年で部数を倍増させ、現在の発行部数は約155万部。グローバルエリートを中心に、世界200ヵ国以上で読まれている。豊富なデータから、ニュースの裏側を読み解く記事を得意とする。Photo by K.S.
「意外な発見」については3つあります。一つは、技術進化の速度です。本書に登場するノーベル物理学賞受賞者のフランク・ウィルチェックは、知識としての物理法則で見ると、今やいちいち実験するのではなく、計算によってテクノロジーの開発を進められるようになってきたと述べています。すなわち、今後、ますます進化の速度が加速する、ということを意味しています。
2つ目は、バイオテクノロジーの進展により、可能性の幅が広がったことです。この先30年を考えると、最終的には遺伝子配列とわれわれが手にする演算能力の組み合わせによって、かつてないバイオテクノロジーの進化が起こり得ます。それらは医学だけでなく、製造業にも影響を及ぼすようになるでしょう。
3つ目は、技術の進化が加速し、影響を及ぼす範囲が広がることにワクワクする一方、規制当局や社会における個人として技術の進化についていけるのか、といった不安があることです。それは、技術進化に派生する倫理的な問題です。法的な面や政策対応が追いつかない可能性があるのではないか、という点です。
日本なら人口が減っても
ロボットで仕事を補完できる
――日本は2050年に人口が1億人を割り込むと言われています。少子高齢化・人口減少で、経済力や国力低下を懸念する声が多いのですが、本書で描かれるような技術によって、日本は明るい未来を描くことはできるのでしょうか。
短く答えるなら「イエス」です。人口動態の変化によって生まれる問題に対し、テクノロジーが解決策を生む一助になるでしょう。それと同時に、そうしたテクノロジーを生み出せるリーダーに、国としてなっていけるかが重要だとも思っています。
例えば、医療はこの先さまざまな変化が起こりうる、最もエキサイティングな分野です。日本のように高齢化が進む国にとっては、朗報ともいえます。また日本はロボティックスも得意分野になり得ます。人口増加が続く国では「ロボットが雇用を奪う」といった不安もあるようですが、逆に人口が減る日本では、ロボットが仕事を補完することになります。
ここで気を付けるべき点は、こうした技術を自ら作り出すプレーヤーになれるか、ということです。私は、日本が高齢者にとって役に立つ技術を生み出すリーダーになれると思っています。というのも、日本は先進国の中で最初に、高齢化社会に突入した国だからです。そういった意味で大きなチャンスですし、実際にやれると思っています。
――テクノロジーの進化に前向きで楽観的な見方が広がる一方、本書ではそのリスクにも触れています。例えば、「核戦争」「生態系の崩壊」「AI戦争」の可能性が指摘されていますが、こうした懸念や解決策についてどう考えていますか。
挙げられた3つの他にも、さまざまなリスクについて書いています。AI戦争だけでなく、AIが通常のプログラムを逸脱し、人類に何か悪意のあるような行動をし始めるのではないか。遺伝子をあまりに操作しすぎて「そもそも人間とはどのようなものか」という疑問を生むようになりかねないか、といったリスクです。また結びの章でも触れていますが、産業革命以降、幾つもこうしたサイクルを経てきた中で、われわれが最終的にこうなる、と当初思っていたのと、異なる結果が生まれることもあると思っています。
そうしたリスクの可能性に対しては、それが「無い」方向に行くのではなく、「有る」リスクをどう管理し、制御するのかが大事です。その制御は、政府などを通して行うこともありますが、実はわれわれ全員が責任を負っていると考えています。テクノロジーが人類に対してサービスを行うのであり、テクノロジーのために人類が働くのではないからです。
幸いこれまで核戦争は起きていませんが、核の問題にしても、今日の世界情勢を考えても分かるように、非常に注意深くコントロールしなければなりません。最終的には、これもテクノロジーをどう制御するか、という人間の力にかかっているのだと思います。
テクノロジーの進化を考える上で
SF小説や映画が果たす役割
――オックスフォード大学のルチアーノ・フロリディ教授が本書で「AIが人間の知性を追い抜くことはない」と断言しています。今後の働き方にも関わると思いますが、AIにできないことで、人間が追及していくべきことは何でしょうか。
彼の言葉を正確に言えば、インテリジェントマシーン(賢い機械)は、人間がプログラムしたものに限って非常に効率よく仕事をするだけで、「考える機械」にはなり得ないということです。SFで描かれるような、思考する機械にはならないというわけです。とはいえ彼は、だから安心していいと言っているわけではなく、「環境」について警鐘を鳴らしています。人間ではなく、機械を中心にした生活環境となる危険性を指摘しているのです。つまり、「マシンフレンドリー(機械に優しい)」ではなく「ヒューマンフレンドリー(人間に優しい)」な設計にしておく必要があるわけです。機械がある環境で、危険がないようにしなければなりません。
――SFという形での「想像」を、テクノロジーの未来を予測するためのツールに挙げる考え方も示されていました。テクノロジーの進化を考える上で、SF小説や映画が果たす役割についてどう考えていますか。
編集部の担当執筆者は「未来を予測するツールキットの中にSFが入る」という言い方をしています。「ツールキット」と呼ぶのは、過去と現在それからSFに描かれることを見ていれば、ある程度は未来が予測できる、という意味です。
SFは映画でも本でも「今あるテクノロジーが進めばどういう結果を生むか」を理論的に想像しているところが多いと思います。例えば、別の惑星を植民地にしたら、どんな政府ができて何が問題になるか。人間の遺伝子操作をしてスーパーヒューマンが出てきたら、また人が永遠に生きることが可能になったら、どんな事態が生じるか……。こうしたさまざまな問題をSF作家は考えてくれます。
技術がSFによって刺激され、出現することもあるでしょう。例えば、イーロン・マスク氏は(SF小説家の)イアン・M・バンクスのファンです。SFはある技術が進化していく上で、どんなことが起きるかという具体性を見せてくれるし、倫理的な側面もかなり書いてくれます。人間とは何か?という、根本的な問いに迫ることも多いといえます。個人的には、スター・ウォーズの大ファンです。
――「シンギュラリティ(AIが人間を超える)」が起きないという人はいますが、すると映画の『マトリックス』のような世界も起き得ないと思います。でも、一般の人はそのような映画を観て「これが起きるのでは」というAI脅威論を勝手に持っている可能性があり、正しい未来像を描いていく必要もあるように感じられます。
紙からウェブへの流れの中で
メディアに姿はどう変わる?
多くの人には「理解できない」対象への純粋な恐れがあるのでしょう。だから技術を引っ張る人たちは、責任ある行動をとると同時に、こうした技術の限界がどこにあるかを、一般の人に伝えていく責任があります。ただ、それは簡単なことではありません。例えば、遺伝子改良型の食品に対する恐れ、またワクチンに対する恐れ……。こうした点をきっちり説明していくことが重要です。
――メディアの未来像についてお聞きします。世界的に「紙からウェブへ」の流れが進む中、英エコノミストはデジタル面の展開で成功した事例だと聞きます。英エコノミスト自身や他のメディアを含めて、メディアの姿はどう変わっていくと思いますか。
現在はすべてのメディアが同じ問題に直面していると思います。われわれも例外ではありません。今のところわれわれのデジタル戦略はうまくいっていますが、それが2050年まで続くなどとは言えません。最も重要なのは、柔軟性を常に持ち続けることだと思います。読者の変化、読み方の変化、潜在的な読者の習慣などにうまく適用できるかどうか。こうした変化への柔軟性が長期的に一番重要です。
ただ、デジタルテクノロジーの登場で、これまでわれわれがたどり着けなかった読者にも読む機会があるのは、チャンスでもあります。弊誌でも、これまで雑誌の発行部数を伸ばすことで収益の最大化を目指してきましたが、印刷媒体の広告はどんどん落ちています。ただ、印刷媒体は落ちても、会社は他の部分でマーケティング予算を使い、異なる方法での収益化に取り組むことを考えています。
また、読者が一番利便性の高い形でコンテンツを読めることを常に考えています。多くの場合、今はそれが紙媒体ですが、ウェブやタブレットで読むデジタルコンテンツも増えていますし、最近では「スナップチャット」のような形も増えています。
――なぜ、英エコノミストは世界の中でも一級の人々に支持されるのだと思いますか。
われわれの読者は、世界の出来事に興味のある人たちです。世界中で起きる政治、経済、ビジネス、科学、技術、文化…さまざまなことに興味があり、読者も多岐にわたっています。確かにビジネス界のトップ層の読者が多いですが、それだけではなく、「世界に興味のある人たち」が読者なのです。そういう人たちは、自国にそれだけのものをカバーするメディアがないため、エコノミストを読むことが多いわけです。
例えば、西洋メディアの中で、いち早く日本に注目したのは、われわれです。日本が真剣にフォローアップして分析すべき国だと先駆けて気付いたこともありました。
複雑な世界をシンプルに表現するために
アイデアを出し続ける
――英エコノミストは「ビッグマック指数」や「トールラテ指数」といった、分かりやすいコンセプトで経済力を比較する新たな指標を世界中に広めてきた存在でもあったと思います。どういう考えや体制のもとに、こうしたアイデアを生み出しているのでしょうか。
「とにかく面白いアイデアを思いつこう」と皆が努力し、同僚間でもさまざまなディスカッションをしています。常にわれわれが心がけているのは、複雑な世界をいかにシンプルに表現できるか。そのアイデアを常に皆で話し合っています。そのために、素晴らしくて新しいアイデアを思いつき、かつ悪いアイデアを排除できる適正人材を見つけようとしています。
また、ユーモアがあることも重要です。ビッグマック指数に関する記事でも、「バーガーノミクス」といった凄くおかしな、変なジョークをたくさん出しました。ユニークなアイデアを出し続けるためには、そうしたユーモア、ふざけることもとても大切です。
――「世界を知る」ためのメディアとして、ライバルも幾つか存在します。それらと差別化を図るために、コンテンツをつくる上で大事にしている考え方は何でしょうか。
本当の強豪相手は「時間」です。これを、どれだけ私たちに割いてくれるか、です。われわれの提供する情報が、読者の時間を取るに値するものにならなければなりません。ということは、読者の身近な生活に関わりのある内容を載せていかなければならない、と思っています。
そのために、まず世界中で起きていることにフィルターをかけ、何を載せるのかという「選択」が重要です。またわれわれの提供する「分析」はシャープで、他のメディアとは一線を画していると思います。他を真似するようなタイプの企画は絶対にしません。それから、記事の内容がもちろん重要ですが、不必要に長いとか、退屈な部分が少しでもないように、短くても面白く、価値があると思える記事にすることに常に努力を行っています。
『2050年の技術 英「エコノミスト」誌は予測する』 英『エコノミスト』編集部 著 文藝春秋 本体価格1700円
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